分かれ目は料金ではなく「誰との契約か」
「無料版は危ない、有料版なら安心」と考えがちですが、正確ではありません。大事なのは、そのサービスを個人として登録して使っているのか、会社として契約して使っているのかです。
個人向けのサービスは、使う人とサービス会社との約束で動きます。入力した内容をサービスの改善に使うかどうかも、個人の設定に任されます。会社向けの契約では、会社がサービス会社と約束を結び、管理者が設定をまとめて決めます。
無料版の多くは個人向けです。そのため、無料版をそのまま仕事に使うと、会社の情報の扱いを社員一人ひとりの設定に任せることになります。これが、無料版の業務利用で本当に気をつけたい点です。
活用企業の43.2%が無料ツールだけ
東京商工会議所の「中小企業のデジタルシフト・DX実態調査」集計結果は、2026年3〜4月に主に東京23区の中小企業1,272社が答えたものです。口頭・電話・帳簿での業務が多い会社を除いた959社のうち、83.9%が生成AIを使っています。
使い方の内訳を見ると、「個人レベルで活用」が40.3%で最も多くなりました。使っている797社のうち無料ツールだけが43.2%、有料と無料の両方が43.7%で、無料ツールを使う会社は合計86.8%です。有料ツールだけは13.2%でした。
一方、AIの使い方の指針を作成済みの会社は7.7%にとどまります。東京商工会議所は集計結果で、「無料ツールは入力したデータが生成AIの再学習に利用される可能性もあり」と指摘しています。そのうえで、指針なしの利用は情報漏えいのおそれがあるとしています。
個人向けのAIでは、入力がどう扱われるか
個人向けの扱いを、GoogleのGemini アプリのプライバシー ハブで見てみます。個人のアカウントで使う場合、会話の記録は生成AIのモデルの学習を含む改善に使われることがあると書かれています。
同じページには、人間のレビュアーが会話の一部を読むことがあるとも書かれています。レビューされた会話は、アカウントから切り離して最長3年間保存されます。会話の記録の自動削除は、初期設定では18か月です。
設定で「アクティビティの保存」をオフにすれば、以後の会話は学習に使われません。ただし、その場合も会話は72時間保持されます。つまり、個人向けでも守る方法はありますが、社員が自分で設定を変えるかどうかに左右されるのが弱点です。
会社向けの契約で変わること
会社向けの契約では、扱いがはっきり変わります。GoogleのGoogle Workspace の生成 AI に関するプライバシー ハブは、会社の契約で使うGeminiについて、許可なくモデルの学習に使わず、人がレビューすることもないとしています。
Microsoftも同様です。Microsoft Copilot および Microsoft Copilot Chat におけるエンタープライズ データ保護では、会社のアカウントで使う場合について「データは基礎モデルのトレーニングには使用されません」と明記しています。
会社向けのもう一つの利点は、管理者が全員の設定をまとめて決められることです。誰がどのサービスを使っているかも把握できます。退職した社員のアカウントも、会社の側で止められます。
3つの使い方を並べて比べる
実際の選択肢は、個人向けの無料版、個人向けの有料版、会社向けの契約の3つです。個人向けの有料版は、性能や回数の上限は上がりますが、入力の扱いはサービスごとに違います。
| 使い方 | 入力の学習への利用 | 設定を決める人 | 向いている仕事 |
|---|---|---|---|
| 個人向けの無料版 | 使われることがある。設定でオフにできるものが多い | 使う社員本人 | 公開情報の調べもの、一般的な文章の言い換え |
| 個人向けの有料版 | サービスごとに違う。規約と設定画面で確かめる | 使う社員本人 | 個人で使う下書き。社外秘は入れない |
| 会社向けの契約 | 許可なく使わないと契約で約束する | 会社の管理者 | 顧客対応の下書き、社内資料の要約 |
同じ調査では、DXが進んだ会社ほど有料の生成AIツールを使う傾向がありました。ただ、有料かどうかよりも、会社の情報をどの契約の上で扱うかを先に決めるのが筋です。
無料版のままでよい仕事、切り替えたい仕事
無料版で十分な仕事もたくさんあります。たとえば、公開されている制度の調べもの、一般的なあいさつ文のたたき台、エクセルの関数の使い方の質問です。外に出ても困らない情報だけを入れるなら、無料版で問題ありません。
切り替えたいのは、お客様の名前や連絡先、見積もりの単価、取引先との契約の中身、社員の評価などを入れたくなる仕事です。顧客対応メールの下書きや、会議の議事録の要約がその代表です。
迷ったときは、「この文章がそのまま取引先に届いても困らないか」で考えます。困るなら、個人向けのAIには入れないのが原則です。名前を「A社」「Bさん」に置き換える方法もありますが、手間がかかり、置き換え漏れも起きます。
切り替えるかは「入れたい情報」で決める
前述の調査で、生成AIの課題の1位は「セキュリティの確保」の46.7%で、「導入・維持費用」の37.4%を上回りました。費用が気になる一方で、情報の扱いを不安に思う会社のほうが多いということです。
会社向けの契約は、社員1人あたりの月額で払うものが多く、全員分をそろえる必要はありません。お客様の情報を扱う部署の数人から始め、効果を見て広げる方法があります。すでにメールや表計算を会社向けのサービスで契約していれば、AIの機能が含まれていることもあります。
総務省の令和8年版 情報通信白書「企業におけるAI利用の現状」によると、生成AIの活用方針がある中小企業は58.1%で、大企業の74.0%を下回ります。どの版で何を入れるかを決めることは、その方針づくりの第一歩になります。
今日からできる4つの手順
まず、社員がどのAIを、どのアカウントで使っているかを聞きます。責めるためではなく、実態を知るためだと伝えると正直に答えてもらえます。次に、個人向けのAIに入れない情報を決め、個人向けを使い続ける人には学習の設定をオフにしてもらいます。
最後に、使ってよいサービスと入れない情報を1枚にまとめて配ります。この1枚の下書きは、AIに作らせると早く仕上がります。
そのまま使えるプロンプト例
あなたは従業員[〇]人の中小企業の総務担当を手伝う人です。社員向けに「仕事でAIを使うときの約束」をA4で1枚にまとめてください。条件は次のとおりです。1.会社が契約しているAIは[サービス名]で、お客様や取引の情報はこれだけに入れる。2.個人のアカウントのAIには、お客様の名前・連絡先、見積もりの単価、社員の評価を入れない。3.個人のアカウントを使う場合は、学習に使われる設定をオフにする。4.迷ったら[担当者名]に聞く。やさしい言葉で、箇条書き8項目以内にしてください。
設定は変わることがある
各サービスの規約や設定の名前は、ときどき変わります。この記事の内容は2026年11月時点の公式ヘルプによるものです。契約や切り替えの前には、必ず最新の規約を確かめてください。
よくある質問(Q&A)
社員が無料のChatGPTを仕事で使ってるんだけど、すぐやめさせたほうがいい?
すぐに禁止する必要はありません。まず何に使っているかを聞き、お客様や取引の情報を入れていないかを確かめます。入れていなければ、学習に使われる設定をオフにしてもらい、入れない情報を決めて伝えるだけでも危険はかなり減ります。
個人で有料プランに入れば、会社の情報を入れても大丈夫?
有料でも個人向けのプランなら、入力の扱いはサービスごとに違います。料金を払っていることと、会社の情報を守る約束があることは別です。お客様の情報を入れるなら、会社として契約するプランを選ぶのが確かです。
うちは5人の会社だけど、会社向けのプランって契約できるの?
GoogleやMicrosoftの会社向けプランは、1人分から契約できます。全員分でなく、お客様の情報を扱う人の分だけ契約する方法もあります。すでに会社でメールや表計算のサービスを契約していれば、そこにAIの機能が含まれていないかを先に確かめてください。
まとめ
- 無料版のAIを仕事に使うこと自体は問題ない。分かれ目は料金ではなく、個人向けか会社向けかという契約の違い。
- 生成AIを使う中小企業の4割超が無料ツールだけで、指針を作った会社は7.7%にとどまる。
- お客様や取引の情報を入れるなら会社向けの契約へ。それ以外は設定をオフにし、入れない情報を決めて使う。
無料版で始めて、便利さを知ってから会社として整える。この順番は悪くありません。困るのは、整えるきっかけがないまま、個人の使い方が広がり続けることです。
誰のアカウントで、何を入れているかを一度聞いてみるだけで、次に何をすべきかが見えてきます。ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
── AutoAIPlatform編集部