AIを入れる前に話し合った会社は、3社に1社

AIツールの契約を決め、アカウントを配り、「今日から使えます」と社内に流す。多くの中小企業で、AI導入はこの形で始まります。技術の話は済んでいるのに、人に伝える段取りだけが抜け落ちている状態です。

この抜け落ちは、統計にもはっきり出ています。労働政策研究・研修機構(JILPT)の調査シリーズNo.256「AIの職場導入による働き方への影響等に関する調査」は、2024年5月から6月に働く人2.2万人へ聞いた結果です。職場で新しい技術が使われる際に会社が労働者または労働者代表と話し合っているかを尋ねると、「行っている」は15.6%にとどまりました。

AIに限れば数字は上がります。自分の職場でAIが使われた人(2,042人)では32.0%。それでも「行っていない」40.5%と「わからない」27.4%を足すと、3分の2を超えます。「わからない」がこれだけ多いこと自体が、伝わっていない証拠です。

数字で見る、話し合いの現在地

数字で見る話し合いの現在地。新技術の導入時に話し合った割合は15.6%、AIの導入時は32.0%、話し合った人のうち不安が緩和されたと答えた割合は50.9%。JILPT調査シリーズNo.256より。
図1|JILPT「AIの職場導入による働き方への影響等に関する調査」より

あわせて見ておきたいのが、導入そのものの進み具合です。中小企業基盤整備機構の「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」(2026年3月)によると、中小企業10,000社への調査(有効回答1,647社)でAIの導入率は20.4%、検討中が18.6%でした。

同じ調査で、不足している情報の1位は「成功事例や活用事例などの情報」で83.3%経営者も現場も、判断材料を持たないまま向き合っているのが実情です。だからこそ、社内で言葉にする作業に意味が出てきます。

話し合った職場で、実際に起きたこと

話し合いは手間です。それでも効果は測られています。同じJILPT調査で、会社と話し合った人(3,490人)に効果を尋ねた結果は次のとおりです。「新技術の導入への不安が緩和された」に同意した人が50.9%「新技術の導入の効果が高まった」が50.7%、「将来に必要とされるスキルが特定された」が47.4%でした。

いずれも「同意しない」は5〜7%台で、賛否が割れた項目はありません。報告書はこの結果について、「こうした話合いがより一層実施されるような企業風土を醸成していくことが重要である」と明記しています。

注目したいのは2つ目です。話し合いは気持ちの問題だけでなく、導入の成果そのものを押し上げていると受け止められています。使う人が目的を知っていれば、使いどころを自分で見つけられるからです。

小さい会社ほど、話す場そのものがない

ここが中小企業にとっての本題です。前述の調査は、話し合いを「行っていない」割合について、小規模企業になるほど高まる傾向がみられると整理しています。人数が少ないほど話しやすいはずなのに、結果は逆です。

理由は場の有無にあります。厚生労働省の「令和6年労使コミュニケーション調査」(2025年6月24日公表)では、労使協議機関がある事業所は36.4%。企業規模30〜49人では20.7%、50〜99人では23.3%にとどまります。

同じ調査は、処遇への不平や不満が過去3年に「ある」と答えた労働者が32.8%、そのうち会社に伝えたことがある人は12.2%だったことも示しています。伝えた方法は「直接上司へ」が74.3%。小さな会社の意思疎通は、制度ではなく上司との会話で成り立っています。裏を返せば、上司が話題にしなければAIの話は一度も出ません。

先に話すか、後で知らせるか

先に話す会社と後で知らせる会社の違い。目的が伝わるか決定だけ届くか、不安をその場で出せるか陰で不安が育つか、使う人が自分で選ぶか言われて使うか、学ぶ機会が決まるか教える人がいないか。
図2|同じ導入でも、伝える順番で受け取られ方が変わる

タイミングも調査に出ています。新しい技術全般では、話し合いは「導入前」が65.3%、「導入後」が19.1%。ところがAIに限ると導入前59.0%に対し、導入後が31.2%まで上がります。報告書は、AIは導入後に派生する話題もあるため効果的な話合いのあり方を検討する必要があると述べています。

実務としては、導入前に一度、使い始めて1か月後にもう一度が現実的です。1回目は目的と線引き、2回目は「実際どうだったか」を集める場になります。

「決めてから知らせる」が不信を生む

決定を先に伝えると、社員が最初に受け取る情報は「もう決まった」という事実だけになります。目的を知らないまま使わされる人は、AIを自分の仕事を測る道具だと受け取ります。人員や評価に使わないなら、その一言を最初に置いてください(「AIに仕事を奪われる」社員の不安にどう答えるか)。

説明会で話す4つのこと

説明会は長さより中身です。話す項目は4つで足ります。使う目的、使わない領域、任せる作業と人が確認する作業、困ったときの相談先。順番もこのとおりにします。

表1|30分の説明会で話す4つのことと、伝わらないときの言い換え
話すこと伝わらない言い方伝わる言い方
使う目的生産性を上げるため月末の請求書づくりを2時間短くしたい
使わない領域適切に運用します人事評価と人員の判断には使いません
確認の線引き最終確認は各自で社外に出す文は必ず担当者が読んでから送る
相談先何かあれば総務まで迷ったら◯◯さんに聞く。判断は後で構わない

右の列に共通するのは、主語と対象が具体的なことです。「生産性」のような言葉は、聞く人によって意味が変わります。前述の労使コミュニケーション調査で事業所が最も重視すると答えたのも「日常業務改善」で76.1%でした。日々の作業の話に落とすほうが、AIの話は届きます。

今週やる4つの手順

今週やる4つの手順。1.使う理由を話す。2.やらないことを言う。3.質問の時間をとる。4.次にやることを決める。
図3|説明会に入れる4つの手順

1つ目は使う理由です。どの作業のどこを楽にしたいのかを、実際の業務名で言います。2つ目はやらないことの宣言で、評価・人員・監視に使わないなら明言します。

3つ目は質問の時間です。その場で答えられない質問は持ち帰ってよいので、まず出してもらいます。4つ目は次にやることで、試す作業・担当・期限の3点だけ決めます。会議1回、30分で終わります

紙は1枚あれば十分

説明会の資料はA4一枚で構いません。目的・使わない領域・確認の線引き・相談先を各3行。その紙が、そのまま社内ルールの下書きになります社員向けAI利用ルールの作り方)。

そのまま使えるプロンプト

説明会の台本と、想定される質問への答えをまとめて下書きさせます。角かっこを置き換えてください。

あなたは中小企業の社内コミュニケーションを助ける担当者です。 ―――当社――― 業種:[業種]/従業員数:[人数]名 導入するAI:[ツール名]/最初に使う業務:[業務名] ―――決めていること――― 使う目的:[どの作業のどこを楽にしたいか] 使わない領域:[人事評価/人員の判断/勤務の監視 など] 人が確認する場面:[社外に出す文書/金額が入る書類 など] 相談先:[役職名や窓口名。個人名は書かない] ―――作るもの――― 1つ目:30分の説明会の台本。目的→やらないこと→確認の線引き→相談先の順。1,200字以内。 2つ目:社員から出そうな質問と答えを5組。仕事が減るのではという不安に触れるものを必ず1つ入れる。 条件1:決めていないことは断定せず[要検討]と残す。 条件2:一文60字以内。専門用語は使わない。 条件3:命令口調にせず、意見を求める調子で書く。

肝は条件1です。AIは空欄を埋めようとして、決めていない方針をそれらしく書き足します。決めた範囲だけで話すために、残す形を指定します(プロンプトの基本)。

よくある質問(Q&A)

従業員10人の会社です。わざわざ説明会なんて必要ですか。

10人なら、その場で全員に話せます。むしろ話し合いを行っていない割合は、小規模企業ほど高い傾向が示されています。朝礼の延長で構わないので、目的とやらないことだけは全員の前で言うのがおすすめです。人づてに伝わると、目的より「監視されるらしい」という部分だけが残ります。

もう導入してしまいました。いまさら話しても遅いですか。

遅くありません。AIについては話し合いのタイミングが「導入後」だった割合が31.2%あり、後から話す形は珍しくありません。使ってみて困ったことを集める会に切り替えると、初回より具体的な話が出ます。

「仕事を取られるのでは」と聞かれたら、どう答えればいいですか。

人員の判断に使うかどうかを、正直に答えてください。使わないなら明言し、分からないことは「決めていない」と言うほうが信用されます。曖昧な安心の言葉は、後で食い違ったときに一番効きます。答え方の型は社員の不安にどう答えるかにまとめています。

まとめ

  • 職場にAIが入る際に会社と話し合った労働者は32.0%。新技術全般では15.6%で、「わからない」も27.4%を占める(JILPT調査、2.2万人)。
  • 話し合った人のうち50.9%が「不安が緩和された」、50.7%が「導入の効果が高まった」に同意。効果は気持ちだけの話ではない。
  • 話す項目は目的・やらない領域・確認の線引き・相談先の4つ。導入前と1か月後の2回、各30分で足りる。

AI導入でつまずく理由は、たいてい技術ではありません。決める前に一度だけ、話す場をつくったかどうかです。

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AIの使いどころと、人が確認すべき場面を整理しましょう。

筆者コメント

ある建設会社で、社長がAIの議事録ツールを入れた翌週の話です。現場から「録音されているらしい」という噂が回り、打ち合わせで誰も発言しなくなったと聞きました。

社長に他意はなく、単に便利だから配っただけでした。足りなかったのは機能の説明ではなく、「何に使わないか」の一言です。導入の前に、一度だけ話す。それを惜しむと、あとで何倍もの時間を使って誤解を解くことになります。ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

── AutoAIPlatform編集部

著者情報

AutoAIPlatform編集部 / 中小企業向けAI業務教育メディア

中小企業の経営者、管理職、総務、人事、営業、研修担当者が、AIを安全に仕事へ取り入れるための教育記事を作成しています。AIの操作だけでなく、業務設計・社内ルール・人による確認を重視します。