なぜ今、AIカメラが話題なのか
背景にあるのは万引きの増加です。警察庁の「令和8年版警察白書 第2章」によると、令和7年の万引きの認知件数は10万5,135件でした。3年連続の増加です。
同じ白書は、刑法犯の認知件数に占める万引きの割合を13.6%としています。万引きで検挙された人のうち、65歳以上の高齢者は38.2%でした。ドラッグストアなどでの組織的な大量万引きも、治安上の課題として挙げられています。
一方で、中小企業のAI活用はまだ始まったばかりです。中小企業基盤整備機構の「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査(2026年3月)」では、AIの導入率は20.4%でした。導入済みの会社が使うAIは生成AIが82.6%で、画像認識AIは11.2%にとどまります。まだ使い慣れていない分野だからこそ、先にルールを知っておく価値があります。
顔が映った映像は個人情報
最初に押さえたいのは、カメラの映像の法律上の扱いです。個人情報保護委員会のパンフレット「カメラと個人情報保護法」(令和5年12月発行)は、「カメラで撮影した顔画像等は個人情報になる場合が多いです」と明記しています。
誰なのか分かる程度に顔が映っていれば、名前を知らなくても個人情報になります。店がカメラを置くなら、個人情報保護法を守る「個人情報取扱事業者」として振る舞う必要があります。会社の規模による例外はありません。
同じパンフレットは、法律だけでなく肖像権やプライバシーにも気を付けるよう求めています。過去の裁判では、撮影の場所や目的、画像の管理方法などが総合的に考慮されてきました。保存期間の例として、90時間、2週間、1か月、45日間といった長さが挙がっています。
従来型と顔識別カメラの違い
パンフレットは、カメラを2つに分けて説明しています。「従来型防犯カメラ」は、映像から顔の特徴を取り出さないものです。録画して、何かあったときに人が見返します。
もう一方の「顔識別機能付きカメラシステム」は、あらかじめ探したい人の顔の特徴をデータベースに登録します。そのうえで、来店者の顔と自動で照合し、似た人がいれば知らせる仕組みです。AIカメラとして売られている製品の多くは、この仕組みを使っています。
顔の特徴は一生を通じて変わりにくい情報です。パンフレットは、長期間かつ広い範囲で追跡できてしまう点を挙げ、慎重に取り扱う必要があるとしています。顔識別カメラだけに適用される特別な法律はありませんが、個人情報保護法などの順守が求められます。
3種類のカメラを比べる
店で使われるAIカメラには、来店者の人数や動きを数えるタイプもあります。経済産業省と総務省は、商用目的のカメラ利用について「カメラ画像利活用ガイドブックver3.0」(2022年3月)を公表しています。3種類を表にまとめました。
| 種類 | 主な目的 | 目的の知らせ方 | 参考にする資料 |
|---|---|---|---|
| 従来型防犯カメラ | 万引き・トラブルの記録 | 防犯目的が明らかなら通知・公表は不要 | 個人情報保護委員会のパンフレット |
| 顔識別機能付きカメラ | 登録した人の来店を検知 | 顔識別を使うことを含めて必ず通知・公表 | 同上と委員会の報告書 |
| 人流・混雑の分析カメラ | 売場づくり・在庫管理 | 撮影していることと目的を事前に告知 | カメラ画像利活用ガイドブック |
ガイドブックは、店舗内の人の流れから在庫を把握し、廃棄ロスを減らしたいというニーズを紹介しています。同時に、生活者の不安として「いつ、どこで撮影されているか分からない」などを挙げています。便利さと不安の両方を見て設計するのが基本です。
知らせ方:掲示とホームページ
個人情報を扱うときは、利用目的をできる限り特定しなければなりません(法17条1項)。特定した目的は、原則として公表するか、本人に通知します(法21条)。
従来型防犯カメラは、設置の状況から防犯目的が明らかなら、通知や公表は不要と考えられています。ただし隠し撮りにならないよう、「防犯カメラ作動中」の掲示などで本人が気付ける状態にすることが求められます。
顔識別カメラは違います。防犯目的で顔識別をしていることは見ただけでは分からないため、必ず利用目的を通知または公表しなければなりません。目的の書き方も「顔識別機能付き防犯カメラを利用した万引防止」のように、仕組みが分かる形にします。
公表の方法として、パンフレットは店内のポスター掲示を挙げています。ホームページなら、トップページから1回程度の操作で届く場所に載せます。運用する会社、目的、問合せ先を店頭に掲示し、詳しい内容をホームページに書くと理解を得やすくなります。
登録の基準と保存期間
顔識別カメラでは、探したい人を登録します。パンフレットによると、登録に本人の同意は原則として不要です。ただし、犯罪の経歴などの「要配慮個人情報」を取得して登録する場合は、原則として本人の同意が必要になります。万引きの瞬間が映っただけの映像は、要配慮個人情報には当たらないと説明されています。
難しいのは、誰を登録するかです。パンフレットは、登録する人を犯罪を行う蓋然性が高い人に厳格に限定することが望ましいとしています。担当者によって判断がぶれないよう、文書にした統一の基準を作ることも重要です。
登録期間について、法律に「何年まで」という決まりはありません。利用の必要性を考えて期間を決め、必要がなくなったら遅滞なく消すよう努めます。登録したまま何年も放置する運用は避けましょう。
共有と安全管理の決まり
近くの店同士で登録データを共有したくなることもあるでしょう。他の事業者に顔の特徴データを渡すには、原則として本人の同意が必要です。例外の一つが「共同利用」で、共同利用する旨や利用する者の範囲など5つの事項を、あらかじめ本人が知りうる状態にしておく必要があります(法27条5項3号)。
安全管理も欠かせません。パンフレットは、システムを使える従業者を限ることや、研修の実施を挙げています。ネットワークにつながるカメラなら、パスワードなどのアクセス制御やアクセスログの確認も必要です。
カメラの乗っ取りは、映像の流出に直結します。管理画面のパスワードを初期設定のまま使わないことが第一歩です。アカウントの守り方はAIのアカウントが乗っ取られたら?で解説しています。委員会の「顔識別機能付カメラシステム」関連資料の一覧には、Q&Aや報告書もまとまっています。
「AIが言ったから」で声をかけない
顔識別は「同一人物の可能性が高い」と知らせる仕組みで、間違えることもあります。アラートが出ても、店員が状況を確かめてから対応する手順を決めておきましょう。
導入までの4歩
手順1は、何を防ぎたいのか、どこを映すのかを決めることです。従来型で足りるなら、顔識別は使わないのも立派な判断です。
手順2で、店頭の掲示とホームページの文面を用意します。下書きはAIに作らせると早く進みます。次の文をそのまま使えます。
手順3は、映像を見られる人と保存期間を決めることです。手順4では年に1回、登録者と保存期間が基準どおりかを点検します。AIが作った掲示文は、必ずパンフレットの記載と突き合わせてから貼るようにします。
よくある質問(Q&A)
小さな店でも防犯カメラに個人情報のルールって関係あるの?
関係あります。顔が分かる映像は個人情報になる場合が多く、店の規模による例外はありません。従来型なら、「防犯カメラ作動中」の掲示から始めましょう。
万引きした人の顔を勝手にAIカメラに登録してもいい?
個人情報保護委員会は、登録に本人の同意は原則不要としています。ただし顔識別を使うことを含めた目的の公表が必要です。登録する人は厳格な基準で限定し、要らなくなったら消します。
近所の店と万引き犯の顔データを共有したいけど、できる?
原則は本人の同意が必要です。共同利用の形にするなら、利用する者の範囲などを事前に本人が知りうる状態にします。共有の範囲は本当に必要な範囲に限るのが大切です。
まとめ
- 令和7年の万引き認知件数は10万5,135件で3年連続の増加。AIカメラの営業が増える背景がある。
- 顔が分かる映像は個人情報になる場合が多い。店の規模に関係なく個人情報保護法を守る。
- 顔識別カメラは、顔識別を使うことを含めた目的の通知・公表が必須。
- 登録の基準を文書にし、保存期間と閲覧者を決め、要らなくなったら消す。
まずは今日、自社の店の入口を見て、カメラの掲示があるかを確かめてください。それが、AIカメラを検討する前の第一歩です。