AIを使わない理由の1位は「使い道が分からない」

中小企業庁の「2026年版 中小企業白書・小規模企業白書の概要」は、AIを活用していない理由を尋ねた調査を載せています。前述のとおり、1位は使い道のイメージが無いことで、6割を超えました。

AIを活用していない理由(中小企業、複数回答、n=3,888)。活用する業務がイメージできていない63.4%、活用を推進する人材が不足している40.0%、社内ルール・ガイドラインが整備されていない26.2%、セキュリティ・情報漏えいへの不安がある14.5%。2026年版中小企業白書より。
図1|AIを活用していない理由(上位4つ)

2位は「活用を推進する人材が不足している」で40.0%、3位は「社内ルール・ガイドラインが整備されていない」で26.2%でした。「必要な予算を確保できない」は13.8%にとどまります。お金より先に、何に使えばよいかが見えていないことが壁になっています。

同じ白書は、約3割の中小企業が「AI活用に取り組んだ」とも書いています。使い道を見つけた会社と、見つけられない会社に分かれている状態です。その差を埋める材料が、他社の事例です。

事例の情報が足りないと感じる会社は8割超

事例が足りないという声は、別の国の調査でも確かめられます。中小企業基盤整備機構の「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査(2026年3月)」は、全国の中小企業10,000社を対象にした調査です。

この調査で、「成功事例や活用事例などの情報が十分に入手できている」に当てはまらないと答えた会社は83.3%でした。「適切なベンダーや製品を選定する情報」が足りない会社も79.8%です。国に求める支援でも、「導入事例などの情報提供」が70.5%で、「導入費用などの助成」の77.9%に次ぐ2位でした。

同じ調査で、AIの導入率は20.4%でした。導入済みの会社が使うAIは、生成AIが82.6%で最多です。事例を読めば、自社の使い道に気づける会社は多いはずです。

事例はどこで探すか

事例の探し先は、大きく3種類あります。それぞれ強みと注意点が違うため、目的に合わせて使い分けます。

表1|AI活用事例の探し先と読むときの注意
探し先中身強み注意する点
国の事例集・白書選ばれた企業の取組と数字規模や業種が書かれている成功した会社だけが載る
ツール会社の事例自社製品の導入例操作や画面が具体的製品を勧める目的がある
近くの相談窓口地域の会社の取組自社に合わせて話せる相談しないと聞けない

最初の1冊としておすすめなのは、国の事例集です。経済産業省の「DXセレクション2026」選定企業レポートには、従業員12名から399名までの11社の取組が載っています。各社の資本金、従業員数、取組の前と後の数字が1枚にまとまっています。

近くの相談窓口としては、各都道府県のよろず支援拠点があります。無料で相談でき、地域の似た会社の取組を聞ける場合があります(生産性向上支援センターの使い方)。

事例の数字は「誰が出したか」を見る

国の事例集でも、数字の出どころは確かめます。経済産業省はDXセレクションを、「中堅・中小企業等のモデルケースとなる優良事例を選定するもの」と説明しています。つまり、うまくいった会社を選んで紹介する資料です。

レポートの各ページには、各社の最終選考の発表資料を基に経済産業省が作成したと書かれています。数字は会社自身が示したもので、同じ条件で測り直したものではありません。うそという意味ではなく、読み方の前提として知っておく点です。

ツール会社の事例は、さらに注意が要ります。製品を選んでもらうための資料なので、うまくいかなかった部分は載りにくいからです。どの事例も「誰が、何のために出した数字か」を一度考えてから読みます。数字の確かめ方はAIが出した数字を公的統計で裏取りする手順でも扱っています。

事例の読み方で差がつく4つの点

事例の読み方の対比。見出しだけ読む場合は、削減率だけ見る、業種が同じか見る、ツール名をまねる、成果をうのみにする。ここまで読む場合は、前と後の実数を見る、人数と作業を見る、仕組みをまねる、誰の数字か確かめる。
図2|見出しだけ読むか、ここまで読むか

1つ目は、削減率より「前と後の実数」を見ることです。「90%削減」でも、元が月に数十分なら効果は小さくなります。2つ目は、業種より「人数」と「作業」が近いかを見ることです。業種が違っても、日報や請求書のように同じ作業は多くあります。

3つ目は、ツールの名前ではなく「仕組み」をまねることです。4つ目は、前の節で見たとおり誰の数字かを確かめることです。この4点を押さえるだけで、同じ事例から読み取れる量が大きく変わります。

26名の訪問看護の会社の事例を読んでみる

DXセレクション2026でグランプリに選ばれたのは、福岡県北九州市の訪問看護の会社です。レポートによると従業員は26名で、離職率の高さがDXを始めたきっかけでした。生成AIを使った社内の仕組みを自社でつくり、看護師の負担が最も大きい報告書づくりを支援しています。

成果として、報告書の作成は1時間から5分になったと書かれています。報告書の郵送の手配は2時間から3分です。離職率は取組の後に7.7%へ下がり、黒字化も達成しました。

4つの点で読むと、使える部分が見えてきます。実数で見ると、書類1枚にかかる時間が12分の1になったという話です。人数は26名で、多くの中小企業と同じ規模です。業種が違っても、「現場の人が毎日書く報告書」は、建設の日報や営業の訪問記録と同じ作業です。

まねるのはツールではなく「仕組み」

事例でいちばん役に立つのは、成果の数字より、それを生んだ仕組みです。兵庫県神戸市の携帯電話販売代理店(従業員61名)の例を見てみます。この会社は、月に1回、全部署から生成AIを使った改善の成果を報告させています。

集まった成功例と使い方は、社内の勉強会で全社に共有されます。成果として、請求書の処理で月275分、提案書づくりと引き継ぎで月300分の削減が報告されています。社内に、事例が自然に集まる仕組みができているわけです。

この仕組みは、どの会社でもまねできます。月1回、AIで楽になった作業を1人1つ持ち寄るだけです。他社の事例を読むことと、自社の小さな事例を集めることは、同じ作業の表と裏です。

他社事例を自社に置き換える4手順

他社事例を自社に置き換える4手順。1.公的な事例を3つ集める(人数と業種が近いもの)。2.作業の単位に分ける(誰が何をどれだけ)。3.自社の同じ作業を探す(回数と時間を書き出す)。4.1か月だけ試して測る(前と後の時間を比べる)。
図3|他社事例を自社に置き換える4歩

手順1で、国の事例集から人数の近い事例を3つ選びます。手順2で、事例を「誰が・何の作業を・どれだけの時間で」に分けます。業種の言葉を外し、作業の言葉に直すのがこつです。

手順3で、自社にある同じ作業を探し、週の回数と1回の時間を書き出します。作業の洗い出し方はAIに任せる業務の棚卸しが参考になります。手順4で、1つの作業に絞って1か月だけ試します。始める前の時間を測っておかないと、効果が分かりません。

事例を自社の作業に分解するプロンプト

事例の本文を貼り付け、次の文を送ってください。社名や顧客名など社外秘の情報は、自社の説明には入れないでください。

あなたは中小企業の業務改善を手伝う相談役です。次の「他社の事例」を読み、表にしてください。 表の列:誰が/どの作業を/前の時間や回数/後の時間や回数/使った仕組み(ツール名ではなく、やり方) 条件1:事例に書かれていない数字は推測せず「記載なし」と書いてください。 条件2:表の下に、当社で同じ作業になりそうなものを3つ挙げてください。 当社:従業員○名、○業。毎日の主な作業は(日報/見積書/請求書 など)です。 他社の事例:[ここに貼り付け]

条件1が大切です。AIは事例に無い数字を補ってしまうことがあります。表ができたら、元の事例と数字を見比べてから使います。

よくある質問(Q&A)

AIの活用事例って、どこで探せばいいの?

まずは経済産業省のDXセレクションの選定企業レポートや、中小企業白書です。会社の人数や前後の数字が書かれています。地元のよろず支援拠点に相談すれば、地域の似た会社の話を聞ける場合もあります。

業種が違う会社の事例でも参考になる?

なります。業種より「人数」と「作業」が近いかを見てください。日報、請求書、見積書、問い合わせ対応のように、業種が違っても同じ作業は多くあります。

事例の「90%削減」みたいな数字は信じていいの?

うのみにせず、前と後の実際の時間と、誰が出した数字かを確かめてください。事例集の数字は多くが会社自身の発表です。自社で試すときは、始める前の時間を自分で測っておきます。

まとめ

  • AIを使っていない中小企業の63.4%が、使い道をイメージできていない。事例の情報不足を感じる会社も多い。
  • 事例は国の事例集・白書から探し、実数・人数と作業・仕組み・誰の数字かの4点で読む。
  • まねるのはツールではなく仕組み。1つの作業を1か月試し、前後の時間を測る。

まずはDXセレクションのレポートを開き、自社と人数が近い会社を1社だけ選んでみてください。その会社が変えた作業と同じものが、きっと社内にもあります。

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著者情報

AutoAIPlatform編集部 / 中小企業向けAI業務教育メディア

中小企業の経営者、管理職、総務、人事、営業、研修担当者が、AIを安全に仕事へ取り入れるための教育記事を作成しています。AIの操作だけでなく、業務設計・社内ルール・人による確認を重視します。