決算書を「比べられる形」にするのがAIの役目

決算書は、1年間の成績表です。ただ、売上や利益の金額だけを見ても、良いのか悪いのかは分かりません。判断するには、割合に直して、他社の平均と比べる必要があります。

比べる相手として最も使いやすいのが、中小企業庁の中小企業実態基本調査です。最新の中小企業実態基本調査(e-Stat 政府統計の総合窓口)は、2026年6月29日に令和7年調査の確報を公表しました。母集団は309万702企業です。

同調査の令和6年度決算では、1企業当たりの売上高は2.2億円(前年度比6.9%増)でした。経常利益は1,075万円(同8.4%増)です。割合への計算と、平均との並べ替えは、AIが得意とする作業です。

国の統計が使う6つの経営指標

中小企業実態基本調査は、法人企業について6つの経営指標を公表しています。計算式も同じ資料に載っています。自社の決算書から同じ式で計算すれば、国の平均と同じ物差しで比べられます。

表1|中小企業実態基本調査の経営指標(法人企業・令和6年度決算)
指標計算式全産業の平均分かること
自己資本当期純利益率(ROE)当期純利益÷純資産×10010.92%元手に対するもうけ
売上高経常利益率経常利益÷売上高×1004.44%本業を含めた稼ぐ力
総資本回転率売上高÷総資産1.07回資産の使い方の効率
自己資本比率純資産÷総資産×10044.93%借金に頼らない強さ
財務レバレッジ総資産÷純資産2.23倍借入への依存の度合い
付加価値比率付加価値額÷売上高×10025.55%自社で生んだ価値の割合

同調査の令和7年調査の概況は、売上高経常利益率を「企業の経常的な事業活動による収益性を示す指標」と説明しています。前年度より0.07ポイント上がりました。自己資本比率も0.53ポイント上がっています。

平均は業種で約5倍ちがう

業種別の売上高経常利益率(令和6年度決算)。学術研究・専門技術サービス業12.97%、建設業5.71%、製造業5.02%、中小企業全体4.44%、宿泊・飲食4.25%、卸売業2.72%、小売業2.61%。
図1|業種別の売上高経常利益率(中小企業実態基本調査 令和6年度決算)

全産業の平均だけで比べると、判断を誤ります。売上高経常利益率は、学術研究・専門技術サービス業が12.97%です。一方で小売業は2.61%、卸売業は2.72%でした。最も高い業種と低い業種の差は10ポイント以上です。

自己資本比率も同じです。学術研究・専門技術サービス業は66.86%ですが、宿泊業・飲食サービス業は31.01%でした。小売店が利益率3%なら、業種の平均よりは少し上です。必ず自社と同じ業種の平均を横に置くようにAIへ指示します。

国の「ロカベン」も同じ考え方

経済産業省も、決算書を指標で読む道具を無料で配っています。ローカルベンチマーク(ロカベン)シートです。同省はこのシートを「個別企業の経営状態を把握するためのツール」と説明しています。

シートは3枚組です。財務面の「6つの指標」と、非財務面の「商流・業務フロー」「4つの視点」で構成されます。最新は2022年度版で、2024年4月1日に業種分類の見直しが行われました。財務の6指標は、売上高増加率、営業利益率、労働生産性などです。

ロカベンは、金融機関や支援機関との対話のきっかけにも使われます。AIで指標を出したら、ロカベンのExcelに転記して評価の点数まで確かめると、外部の目でも通じる資料になります。

AIに渡す前に消す情報

決算書をAIに渡す前の整え方。会社名・代表者名は「当社」に置き換える。取引先・銀行の名前は「A社」「B行」にする。口座番号・住所は消してから渡す。試算表の全ページは渡さず、必要な科目だけ抜く。
図2|決算書をAIに渡す前の整え方

決算書は、会社の最も大事な情報の1つです。PDFをそのままAIに貼るのは避けます。指標の計算に必要なのは、売上高、経常利益、当期純利益、純資産、総資産などの金額だけです。

会社名、代表者名、取引先名、銀行名、口座番号は消すか、記号に置き換えます。勘定科目の内訳書には取引先の名前が並ぶので、渡しません。入力してよい情報の線引きはAIに入力してはいけない情報の記事で整理しています。会社で契約した、学習に使われない設定のAIを使うのが前提です。

決算書をAIで読む4つの手順

決算書をAIで読む4つの手順。1.数字を表に写す、3期分の主要科目だけ。2.AIに指標を計算させる、式を示して途中も出す。3.表計算で検算する、1つでも違えば止める。4.平均と比べて話し合う、業種の平均を横に置く。
図3|決算書をAIで読む4つの手順

まず、直近3期分の主要な金額を表に写します。1期だけでは、良くなっているのか悪くなっているのかが見えません。次に、表1の計算式を示したうえで、AIに指標を計算させます。

そのまま使えるプロンプト例

あなたは中小企業の経営を手伝う相談相手です。下に、当社の3期分の決算の数字を貼ります。次の式で、期ごとに指標を計算してください。売上高経常利益率=経常利益÷売上高×100、自己資本比率=純資産÷総資産×100、総資本回転率=売上高÷総資産、ROE=当期純利益÷純資産×100。途中の式と答えを表にし、小数第2位まで出してください。次に、当社の業種([業種名])の平均として私が貼る数字と比べ、気になる点を3つ挙げてください。原因は断定せず、確かめるための質問として書いてください。数字:[ここに貼る] 業種の平均:[ここに貼る]

業種の平均は、AIに推測させず、人が統計から写して貼ります。AIが覚えている平均値は古いか、別の調査のものかもしれません。

表が出たら、最初に見るのは前期から大きく動いた指標です。たとえば売上は伸びたのに利益率が下がっていれば、値上げが原価の上昇に追いついていないのかもしれません。動いた指標を1つ選び、その理由を社内で話し合うところまでを1回の作業と考えます。

AIの計算は必ず検算する

AIは文章は得意ですが、桁の多い割り算を間違えることがあります。億円と千円の単位の取り違えも起きやすい失敗です。AIが出した表は、そのまま使わずに検算します。

検算は表計算ソフトで行います。AIに出させた途中の式を、そのままセルに入れれば数分で終わります。1つでも答えが違えば、その表は全部使わないと決めておくと安全です。表計算の使い方はExcelの集計をAIに手伝ってもらう記事でも解説しています。

AIの「原因の説明」は仮説として読む

利益率が下がった理由を、AIはもっともらしく説明します。しかし原因は、値上げの遅れか、仕入れの高騰か、人件費か、会社ごとに違います。AIの説明は確かめる項目の一覧として使い、判断は経営者と顧問税理士で行います。

読めた数字を銀行や社員との対話に使う

指標は、計算して終わりではありません。使い道の1つは、金融機関との対話です。同調査では、メインバンクからの借入で「経営者の本人保証を提供している」法人企業が28.9%ありました。「公的信用保証を提供している」も20.7%です。

自己資本比率や利益率の推移を自分の言葉で説明できると、借入条件の相談がしやすくなります。設備投資を行った法人企業は20.0%で、投資の判断にも同じ数字が使えます。

もう1つは社員との共有です。経常利益率が4%なら、売上100円のうち手元に残るのは4円です。「1円の値引きが利益の4分の1を消す」と伝えると、数字が現場の行動につながります。数字の裏取りのしかたはAIの答えを公的統計で確かめる記事も参考にしてください。

よくある質問(Q&A)

決算書のPDFをそのままChatGPTに貼っても大丈夫ですか?

おすすめしません。会社名や取引先名、口座番号を消し、計算に必要な金額だけを表にして渡しましょう。会社で契約した、学習に使われない設定のAIを使うことが前提です。

うちの経常利益率が3%なんですが、これって低いんですか?

業種によります。中小企業全体の平均は4.44%ですが、小売業は2.61%、建設業は5.71%です。同じ業種の平均と比べてから判断してください。

業種の平均の数字って、AIに聞けば教えてくれますか?

AIの答えは古い年度や別の調査の数字が混ざることがあります。中小企業実態基本調査の統計表から人が写し、出典と年度を添えてAIに渡すのが確実です。

まとめ

  • 決算書の数字は、割合に直して平均と比べると読める。中小企業の平均は売上高経常利益率4.44%、自己資本比率44.93%(令和6年度決算)。
  • 平均は業種で大きく違い、最も高い業種と低い業種で約5倍の差がある。必ず同じ業種と比べる。
  • AIには名前を消した金額だけを渡し、計算は表計算で検算する。原因の判断は人と税理士が持つ。

無料資料:AI業務改善チェックリスト

決算書を読む前に、AIに任せる作業と人が判断する作業を一覧にしておくと、社内の分担が決めやすくなります。

筆者コメント

決算書は毎年作るのに、読まれないまま棚にしまわれがちです。数字が苦手でも、AIに計算を任せれば、比べるところまでは1時間でたどり着けます。

大事なのは、平均は人が写し、計算は人が確かめることです。まずは前期の決算書から、売上高と経常利益の2つだけを表にしてみてください。ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

── AutoAIPlatform編集部

著者情報

AutoAIPlatform編集部 / 中小企業向けAI業務教育メディア

中小企業の経営者、管理職、総務、人事、営業、研修担当者が、AIを安全に仕事へ取り入れるための教育記事を作成しています。AIの操作だけでなく、業務設計・社内ルール・人による確認を重視します。