削れるのはケアではなく書類
介護の仕事には、機械に置き換えられない部分があります。体に触れること、表情を見ること、変化に気づくこと。ここを削ってはいけないのは誰もが分かっています。それでも回らないのは、ケア以外の時間が積み上がっているから。記録、申し送り、ヒヤリハット報告、手順書、家族への連絡、提出書類——どれも文章を書く仕事であり、どれも省略できません。
この記事で扱うのは、その「書く仕事」だけです。いま職員が記録用紙の前で使っている時間を、半分に減らすための道具としてAIを使います。この取り組みは2027年4月から制度上も求められます。
数字で見る、介護の人手
厚生労働省の介護人材確保に向けた取組のページは、令和6年7月12日に都道府県が推計した介護職員の必要数を公表しています。2026年度には約240万人(2022年度の215万人から+約25万人)、2040年度には約272万人。年に6万人以上を増やし続けるという数字が、どれほど現実離れしているかは、採用に携わった方ならすぐ分かります。
つまり「人を増やして解決する」道は、制度の側もすでに諦めています。だから国の施策は、採用支援と同時に「いまいる職員の時間をどう取り戻すか」へ大きく振れました。
2027年4月、生産性向上委員会が義務に
令和6年度の介護報酬改定で、施設系・居住系・多機能系・短期入所系に、ある委員会の設置と開催が定められました。現場では生産性向上委員会と呼ばれています。
厚生労働省老健局の生産性向上推進体制加算についての解説資料は、この委員会の設置を規定したうえで3年間の経過措置を置いたと説明しています。経過措置が終わるのは2027年3月末で、2027年4月からは対象サービスにとって開催が義務に。頻度は「本委員会の開催が形骸化することがないよう留意した上で、各事業所の状況を踏まえ、適切な開催頻度を決めること」と整理されています。なお同資料は、事務負担軽減の観点から他の会議(例:事故防止のための委員会)と一体的に設置・運営することも可能としており、新しい会議体をゼロから作る必要はありません。
加算は「委員会+技術+データ」で決まる
委員会を開く事業所には報酬上の評価もあります。新設された生産性向上推進体制加算で、同じ解説資料によれば加算(Ⅰ)は100単位/月、加算(Ⅱ)は10単位/月。入所・泊まり・居住系サービスが対象です。
加算(Ⅱ)の要件は、委員会の開催と安全対策を講じたうえでテクノロジーを導入すること。①見守り機器②インカム等③介護記録ソフト等のうち(Ⅱ)は1つ以上、(Ⅰ)は3つすべてです。両方に共通するのが1年以内ごとに業務改善の効果を示すデータを厚生労働省に報告すること——総業務時間と超過勤務時間、有給休暇の取得状況などの変化です。
注意したいのは、生成AIそのものは加算の要件になっていない点です。加算に必要なのは介護記録ソフトなどの導入で、AIはその外側。AIが効くのは、加算を取るために必要な「書類仕事」のほうです。
AIで軽くなる4つの文章仕事
介護事業所でAIを試すなら、次の4つから始めるのが確実です。どれも毎日発生し、文章で、判断を含みません。
| 仕事 | AIに渡すもの | 返ってくるもの | 人がやること |
|---|---|---|---|
| 介護記録の清書 | 走り書き・音声メモ | 記録文体の文章 | 事実と時刻の照合と書き足しの削除 |
| 申し送りの要約 | 前の勤務帯の記録 | 次の勤務者向けの要点 | 抜けた重要事項の追加 |
| 手順書づくり | 口頭説明の書き起こし | 番号付き手順書の下書き | 実演確認・危険箇所の追記 |
| 家族への連絡文 | 伝える事実を箇条書き | そのまま出せる案内 | 伝える範囲の判断・管理者確認 |
4つに共通するのは、AIに渡すのは「材料」であって「判断」ではないということです。とくに記録の清書では事実を足させない指示を必ず添えてください。書いていないことを補って書くのが、AIの最も危険な癖です(報告書・日報をAIで仕上げる/手順書を整える)。
AIに任せる範囲と、人が決める範囲
介護は判断を誤ると人の体に直接影響が出る仕事です。線引きは他業種より厳しく引きます。AIに任せてよいのは記録の清書、申し送りの要約、手順書の下書きです。どれも「書き方」の問題であって、「どうするか」の問題ではありません。AIは利用者を見ていません。見ていないものについて、見てきたような文章を書きます。
委員会を回す4歩
第1歩、課題を書き出す。職員に「困っていること」を書いてもらいます。ここでAIは使いません——現場の言葉のまま集めるのが目的だからです。第2歩、AIで整理する。分類と原因の仮説を出させれば、議論の出発点が紙1枚になり、会議の時間は半分になります。第3歩、手順書に落とす。変える手順は1つだけ——3つ変えると何が効いたか分からなくなるから。第4歩、3か月後に測る。加算を取るなら導入後3月以上継続したうえでの前後比較が要ります。
名前を入れない一線と、禁止事項
介護事業所が扱う情報は、氏名・生年月日・病歴・要介護度・服薬内容と、いずれも慎重な取り扱いが要るものばかりです。一般向けのAIサービスに打ち込むことは避けてください。実務上は伏せ字で足ります。「Aさん」「ご本人」。記録の清書も申し送りの要約も、氏名なしで成立します(入力してはいけない情報一覧)。
禁止事項は3つ。①ケアプランの中身をAIに決めさせる——これは介護支援専門員が本人・家族と面談し課題を分析して作るものです。②体調の変化についてAIに判断を求める——答えは返ってきますが、その答えには責任がありません。③事故報告書の原因欄をAIに書かせる——事故の原因は、その場にいた職員と管理者が事実を突き合わせて出す結論です(AIの回答をそのまま使ってはいけない理由)。
厚労省の「7つの取組」との重なり
厚生労働省の介護分野における生産性向上ポータルサイトは、業務改善の取組を7つに整理しています。職場環境の整備、業務の明確化と役割分担、手順書の作成、記録・報告様式の工夫、情報共有の工夫、OJTの仕組み、理念の徹底です。
このうち3・4・5・6は、そのまま文章仕事です。AIが手伝えるのはここ、7つのうち4つです。同サイトでは課題把握シートや業務時間の見える化ツールも無料で配布され、委員会の資料をゼロから作る必要はありません。AIで4つを軽くして、空いた時間を残り3つに回す——これが現実的な形です。
そのまま使えるプロンプト
角かっこを自社の内容に置き換えてください。介護記録の清書と、委員会向けの課題整理が1回で出てきます。
肝は条件1と条件4です。介護記録でAIが最も危険なのは、書いていない観察を足すこと。「ふらつきなし」としか書いていないのに「歩行状態は安定していた」と書き換えれば、記録としては別物です。あわせて氏名を伏せるルールを職員に伝えたか、総業務時間を3か月前と比べられる形で残しているかも確認を(プロンプトの基本)。
よくある質問(Q&A)
訪問介護やデイサービスでも、生産性向上委員会は必要ですか。
令和6年度改定で委員会の設置が規定されたのは施設系・居住系・多機能系・短期入所系で、加算の対象も入所・泊まり・居住系に限られます。ただし記録や申し送りに時間を取られる構図は訪問介護でも通所介護でも変わりません。制度の対象外だからやらなくていい、という話ではないと考えています。
AIに介護記録を書かせたら、監査で問題になりませんか。
問題になるのは「AIを使ったこと」ではなく、記録の内容が事実と違うことです。職員が見た事実をメモに残し、AIが読みやすく整え、最後に職員が確認して確定する。この流れなら責任は職員にあります。逆にメモが薄いままAIに肉付けさせると、事実でない記述が残ります。
職員がパソコンを苦手にしています。それでも導入できますか。
できます。おすすめはスマートフォンの音声入力で話した内容をAIに整えさせる形です。始めるのは事務職員や管理者1人で十分。まず1人が3か月使い、減った時間を委員会に持っていく。数字が出てから広げるほうが、全員研修より確実に定着します(ITが苦手な職員への広げ方)。
まとめ
- 介護事業所でAIが確実に効くのは記録の清書・申し送りの要約・手順書づくり・家族への連絡文の4つ。ケアの中身と医療的判断は人が決める。
- 令和6年度改定で規定された生産性向上委員会は3年の経過措置を経て2027年4月から義務。既存の会議と一体で運営してよく、名称も自由。
- 加算は(Ⅰ)100単位/月・(Ⅱ)10単位/月。AIが軽くするのは、その周りの書類仕事。
介護職員の必要数は2040年度に約272万人。人を増やすだけでは届かない数字です。だからこそ、いま現場にいる職員が記録用紙の前で使っている時間に手をつける価値があります。AIで削るのはケアではなく、ケアの周りに積み上がった紙のほうです。
特別養護老人ホームの管理者の方から、こんな話を聞きました。夜勤帯の記録に毎晩40分ほどかかっていた。書きながら眠くなり、翌朝読むと文章が崩れている。その施設ではメモを音声で残して朝に整える形に変えました。記録の質が上がったのは時間が減ったからではなく、書く負担が減って観察が増えたからだといいます。
この順番が大事だと思っています。効率化そのものが目的ではありません。書く時間を削った先に、見る時間が戻ってくるかどうか。委員会で測るべき数字も、本当はそこにあるのだと思います。ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
── AutoAIPlatform編集部