「うちは40人に届かないから」が終わった夏

障害者雇用促進法は、一定規模以上の会社に常時雇用する従業員の一定割合以上の障害者を雇うことを義務づけています。民間企業の法定雇用率は令和5年度2.3%、2024年4月から2.5%、そして2026年7月から2.7%と上がってきました。

あわせて動くのが対象事業主の範囲です。厚生労働省のリーフレット「障害者の法定雇用率引上げと支援策の強化について」は、対象範囲が43.5人以上→40.0人以上→37.5人以上と広がる過程を表で示し、「全ての事業主に、法定雇用率以上の割合で障害者を雇用する義務があります」と明記しています。つまり従業員38人・39人の会社が、この夏に新しく対象へ入りました。

数字で見る障害者雇用の現在地

令和7年障害者雇用状況の集計結果。雇用されている障害者70万4,610人で22年連続過去最高。実雇用率2.41%。法定雇用率達成企業46.0%。未達成65,033社のうち1人不足が64.0%。
図1|令和7年障害者雇用状況の集計結果に見る現在地

厚生労働省が2025年12月19日に公表した令和7年障害者雇用状況の集計結果によれば、民間企業に雇用されている障害者は70万4,610.0人で22年連続の過去最高。精神障害者が前年比11.8%増と伸びが突出しており、必要な配慮の中身が「設備」から「働き方の調整」へ移りつつあることを示しています。

実雇用率は2.41%で14年連続の過去最高。一方、法定雇用率を達成した企業は46.0%と半数を超えられません。未達成企業65,033社のうち64.0%は不足が0.5人または1人。障害者を1人も雇用していない企業も37,262社あります。課題は「制度をどう整えるか」ではなく「最初の1人をどう迎えるか」です。

自社は対象か——37.5人と「あと何人」の数え方

常時雇用する労働者の数に法定雇用率をかけ、小数点以下を切り捨てた人数が、雇うべき障害者の数です。

常時雇用する労働者数2026年6月まで(2.5%)2026年7月から(2.7%)この会社に起きること
36人対象外対象外変化なし
38人対象外1人新しく義務の対象になる
50人1人1人変化なし
75人1人2人不足が1人増える

気をつけたいのが数え方です。週の所定労働時間が30時間以上は1人、20時間以上30時間未満は0.5人として数えます。2024年4月からは週10時間以上20時間未満の精神障害者・重度身体障害者・重度知的障害者も0.5カウントで算定できます。建設業など一部業種の除外率は2025年4月1日から10ポイント引き下げられました。毎年6月1日時点の状況をハローワークへ報告する義務もあります

6月1日時点の報告を忘れない

なお金銭的な負担はすぐには生じません。JEEDの納付金制度によれば対象は常用労働者の総数が100人を超える事業主で、超えると不足1人あたり月額5万円。罰金ではなく、負担を調整する仕組みです。お金より重いのは行政指導で、雇入れ計画作成命令、勧告、企業名の公表と進みます。

「建設的対話」という言葉を先に知っておく

障害者雇用は「何人雇ったか」で終わりません。迎えたあとに続くのが日々のやりとりで、その中心にあるのが合理的配慮です。厚生労働省の雇用分野における障害者への差別禁止・合理的配慮のページは、雇用分野における障害者差別は禁止、合理的配慮の提供は義務とされていると述べています。

お客様や取引先に対する場面は障害者差別解消法の側で整理され、内閣府のリーフレット「建設的対話を一方的に拒むことは合理的配慮の提供義務違反となる可能性もあるため注意が必要です」と明記しています。求められているのは設備を入れることではなく、できない理由を並べて話を打ち切らないこと。防音窓は難しいがイヤーマフの着用に声かけを添えるという例を挙げ、実現可能な案を一緒に考えることが重要だと整理しています。

AIに任せてよい仕事と、入れてはいけない情報

AIに任せてよい仕事と入れてはいけない情報。任せてよいのは求人票の下書き、職場への説明文、配慮案の洗い出し、面談の進行メモ。入れてはいけないのは診断名・障害名、通院や服薬の記録、面談の録音、障害者手帳の種類や等級。
図2|AIに任せてよい仕事と、入れてはいけない情報

建設的対話は人がやる仕事です。AIに任せてよいのは求人票の下書き、職場への説明文、配慮案の洗い出し、面談の進行メモ。個人を特定しない、仕事のしかたについての文章です。

入れてはいけないのは診断名や障害名、通院や服薬の記録、面談の録音、障害者手帳の等級。要配慮個人情報にあたり、本人の同意なく取得・利用してはならない情報です。目安は「本人の名前を入れなくても書けるか」。名前や病名がないと書けない相談は、産業医・支援機関・ハローワークへ。線引きはAIに入力してはいけない情報一覧へ。

対象になった会社がやる4歩とプロンプト

対象になった会社がやる4歩。1.自社の人数を数える。2.ハローワークに相談する。3.任せる仕事を1枚に切り出す。4.職場に説明する。
図3|対象になった会社がやる4歩

第1歩・人数を数える。短時間労働者の0.5カウントまで含めて数えます。パート比率の高い会社ほど、実際の人数は思っているより多く出ます第2歩・ハローワークに相談する。求人の出し方、使える助成金、地域の支援機関の紹介まで窓口が一本化され、相談は無料です。

第3歩・任せる仕事を切り出す。「うちには任せられる仕事がない」という言葉は、たいてい仕事が職務単位でしか見えていないことから出てきます。第4歩・職場に説明する。第3歩と第4歩は、次のプロンプトで一度に出せます。

あなたは、中小企業の障害者雇用に詳しい業務設計の担当者です。次の2つを作ってください。 業種:[業種]/従業員数:[人数]人/部署:[部署名]/主な業務:[業務を3〜5個] 1つ目:上記から「独立して切り出せる作業」を10個、表で。列は「作業名/1日の目安時間/必要な道具/教えるのにかかる日数」。 2つ目:その作業を新しく担当する方を迎えるにあたり、既存メンバーへ配る説明文(A4一枚)。 条件1:障害名・診断名は一切書かない。誰が来ても通用する「作業と手順の説明」にする。 条件2:説明文には「変わること」「変わらないこと」「困ったときの相談先」を必ず入れる。 条件3:既存メンバーの負担が増える点は隠さず書き、その分どこを減らすかもセットで書く。 条件4:渡していない事実・数字・制度名は作らない。

条件1が肝です。障害名を書かずに作業を説明できるかどうかが、その職場の受け入れ力そのものきれいごとだけの説明文は、現場で必ず反発を生みます

求人票・職場への説明・記録——3つの文章

求人票でよくある失敗は、応募条件を細かく書きすぎることです。「立ち仕事ができる方」と並べるほど応募者は減ります。求める条件ではなく、実際に担当してもらう作業を書きます。「電話対応ができる方」ではなく「1日20件の受注データを入力する作業です。電話は取りません」。こう書けば、応募者は自分にできるかを判断できます。

面接で聞いてはいけないことがある

職場への説明文に入れるのは「変わること」「変わらないこと」「困ったときの相談先」の3つ。定着しない職場の共通点は、受け入れる側が何も知らされないまま当日を迎えていることです。内閣府リーフレットは「過去に同じようなことがあったから」といった理由で一律に判断してはならないとしています。この一文を現場へ渡すだけでも空気は変わります。

記録も残します。面談後の箇条書きを渡し「配慮の申し出/検討した案/決めたこと/次に見直す時期の4項目に整理して。氏名と病名は書かないで」と頼めば3分で形に。ただし人が書いたメモを整えるのはよく、面談の生の音声を投げるのはだめです。

AIにやらせてはいけないこと

第一に、応募者の合否をAIに判断させること。障害者雇用促進法は募集・採用における不当な差別的取扱いを禁止しています。学習データの偏りで特定の属性が不利になれば、それは会社の判断として差別的取扱いになります。AIは書類の要約までに。

第二に、配慮の内容をAIに決めさせること。合理的配慮は個々の場面で本人と話し合って決めます。案を広げるのがAI、選ぶのは本人と会社。第三に、AIが書いた文章を確認せずに社外へ出すこと。法令や助成金の細部は、AIがもっとも自信ありげに間違える領域です。確認手順へ。

よくある質問(Q&A)

従業員が38人なんですが、本当にうちも対象になったんですか。

はい。38人なら対象で、法定雇用障害者数は1人です(除外率が設定されていない業種の場合)。ただし短時間労働者は0.5人として数えます。パートの多い会社では結果が思ったより大きくなるので、まず正確に数えてください。

雇用率が足りないと、罰金みたいなものを払うんでしょうか。

納付金の対象は常用労働者の総数が100人を超える事業主に限られ、100人以下の会社に納付金は発生しません。罰金ではなく負担を調整する仕組みで、納付しても雇用義務が免除されるわけではありません。改善が見られない場合は雇入れ計画作成命令、勧告、企業名の公表と進みます。

面接で配慮のことを聞いたら、失礼になりませんか。

仕事に紐づいた聞き方なら失礼になりません。むしろ聞かないほうが問題です。避けるべきなのは障害の原因・病歴・家族の状況など、本人の能力と関係のない事柄。「この作業をするうえで、あったほうがよい配慮はありますか」と業務に結びつけて尋ねてください。

まとめ

  • 2026年7月1日から法定雇用率は2.7%、雇用義務の対象は従業員37.5人以上へ。38人・39人の会社が新たに対象になった。
  • 令和7年の集計では実雇用率2.41%、達成企業46.0%、未達成65,033社のうち64.0%が「あと1人」。課題は制度整備ではなく最初の1人。
  • AIに任せるのは求人票・説明文・配慮案の洗い出し・面談メモまで。診断名・通院記録・録音データは入れない。配慮の中身は本人との建設的対話で決める。

法定雇用率は数字の話に見えますが、現場で起きるのはいつも言葉のやりとりです。求人票の一行、職場に配る一枚、面談での一問。その言葉を用意する時間がないことが、最初の1人を遠ざけている。文章の下ごしらえなら、今日の午後にでも始められます。

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筆者コメント

ある40人ほどの製造業の会社で、「任せられる仕事がない」という言葉を何度も聞きました。一日現場に立つと、検品担当の方が何度も倉庫と作業台を往復して部品を運んでいました。運ぶ人と検品する人を分ければ、両方が速くなる。仕事がなかったのではなく、切り分けたことがなかっただけでした。

この切り分けは、頭の中だけでやろうとすると難しい作業です。書き出して、並べて、線を引いてみる。AIはこの「書き出して並べる」ところを引き受けてくれます

── AutoAIPlatform編集部

著者情報

AutoAIPlatform編集部 / 中小企業向けAI業務教育メディア

中小企業の経営者、管理職、総務、人事、営業、研修担当者が、AIを安全に仕事へ取り入れるための教育記事を作成しています。AIの操作だけでなく、業務設計・社内ルール・人による確認を重視します。