はじめに:通達は「出す」より「伝わる」
社内通達やお知らせは、「出すこと」が目的になりがちです。でも、本当のゴールは「相手に伝わり、行動してもらうこと」。出しただけで読まれていなければ、出していないのと同じです。
「ちゃんと通達したのに、知らなかったと言われた」——その原因は、たいてい内容ではなく伝え方にあります。前回の文章を直すポイントの応用として、今回は「社内に伝わる文書」を、AIで整えるコツを、型と具体例から紹介します。
社内通達が読まれない理由
読まれない社内通達には、共通の特徴があります。長い前置きから始まる、誰向けか分からない、専門用語が多い、結局何をすればいいか不明——どれも、忙しい社員にとっては「読むのが面倒」な文章です。
大事なのは、書き手は内容を分かっているので、つい説明から書き始めてしまうこと。でも、読み手が知りたいのは「で、結局どうすればいいの?」です。この「読み手の知りたい順」に並べ替えるのが、わかりやすさの正体。AIは、この並べ替えと言い換えが、とても得意です。
もう一つ、通達が読まれない深い理由があります。それは、「自分に関係あるか、ひと目で分からない」こと。全員に一斉送信された長い文章を見て、人はまず「これは自分が読むべきものか?」を判断します。ここで関係がなさそうに見えると、その時点で読むのをやめてしまうのです。だから、冒頭で「誰に向けた、何の連絡か」を示すことが決定的に重要になります。AIで整えるときも、この「自分ごとに見えるか」を意識すると、効果が大きく変わります。
通達には、法律で決まった周知義務がある
読まれるかどうかは、実は好みの問題ではありません。会社が社員に知らせるべき事柄の一部は、法律で「周知させなければならない」と定められています。労働基準法(e-Gov法令検索)第106条第1項は、就業規則や36協定などについて「常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によつて、労働者に周知させなければならない」と明記しています。
ここでいう「厚生労働省令で定める方法」は、労働基準法施行規則(e-Gov法令検索)第52条の2に3つ挙げられています。①常時各作業場の見やすい場所へ掲示または備え付ける、②書面を労働者に交付する、③電子機器で記録し、労働者がいつでも内容を確認できる機器を各作業場に設置する。メールで一度流しただけでは、③の「いつでも確認できる」を満たさない場合がある点に注意してください。
数字も押さえておきましょう。就業規則の作成と届出が義務になるのは、労働基準法第89条により常時10人以上の労働者を使用する場合です。そして周知義務に違反した場合、同法第120条第1号により30万円以下の罰金の対象になります。「伝わる文章にする」という工夫の話の手前に、そもそも伝えなければならないという法律上の線が引かれている、ということです。
| 通達の種類 | 例 | 法律上の位置づけ | 伝え方の目安 |
|---|---|---|---|
| 周知義務のあるもの | 就業規則、36協定、賃金の決まり | 労基法106条で周知が義務 | 常時見られる場所に置き、更新のたびに再周知 |
| 全員が守るルール | 情報の取り扱い、AI利用ルール | 社内規程として運用 | 結論を先に書き、読んだ記録を残す |
| 一部の人向けの連絡 | 部署の運用変更、シフトの調整 | 業務連絡 | 件名に対象者を書き、関係者だけに送る |
| 知らせるだけのもの | 行事の案内、福利厚生の紹介 | 任意の案内 | 短くまとめ、返信を求めない |
もう一つ、書き方そのものの拠りどころになる公的な資料があります。出入国在留管理庁と文化庁がまとめた「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」です。もともとは外国人に向けた行政の情報発信のために作られたもので、2020年8月に本編が、2023年1月には話し言葉編が公表されました。一文を短くする、二重否定を避ける、あいまいな表現を使わないといった原則は、日本語を母語とする社員に向けた通達でもそのまま通用します。外国籍の従業員がいる職場なら、なおさら効きます。
伝わるお知らせ文の型
伝わる通達には、図1のような型があります。この順に並べるだけで、ぐっと読まれやすくなります。
いちばんのポイントは、1の「結論」を先に書くこと。「いつもお世話になっております。さて、このたび…」と前置きから入るのではなく、「【重要】〇月〇日から、勤怠の打刻方法が変わります」のように、最初に要点を示します。これだけで、読み手は一瞬で「自分に関係あるか」を判断でき、最後まで読んでもらえます。
4の「お願い(してほしい行動)」も忘れてはいけません。状況の説明だけで終わり、「で、私は何をすればいいの?」が書かれていない通達がよくあります。「ご協力をお願いします」ではなく「〇月〇日までに、勤怠システムで再設定してください」と、行動を一つに絞って示しましょう。AIに「してほしい行動を、具体的な一文で」と頼むと、あいまいさが消えます。
わかりやすくする3つの原則
整えるときに意識するのは、図2の3つの原則です。
とくに見落とされやすいのが、3の「専門用語を翻訳する」です。社内では当たり前の略語や専門用語も、新人や他部署には通じません。「全社員が、説明なしで分かる言葉か?」を基準にします。AIに「専門用語や社内用語を、誰でも分かる言葉に直して」と頼むと、思い込みで使っていた難しい言葉を洗い出してくれます。
専門用語の言い換えは、AIならではの強みです。人は自分が当たり前に使っている言葉ほど、難しいと気づけません。「与信」「リードタイム」「検収」——書き手には日常語でも、新人や他部署には壁になります。定着している言葉まで全部やさしくする必要はありません。「新しく入った人が読んで分かるか」を基準に取捨選択しましょう。
読み飛ばされる → 伝わる
AIで整えると、通達はどう変わるか。図3に、よくある変化をまとめました。
右側の状態になると、問い合わせや行き違いが減ります。「これ、私も対象ですか?」という質問が来るのは、通達が伝わっていない証拠です。一度わかりやすい通達を出せると、社員も「この会社のお知らせは読めば分かる」と信頼し、次から目を通してくれます。逆に分かりにくい通達が続くと、だんだん読まれなくなる。一通一通のわかりやすさが、社内連絡全体の届きやすさを左右します。
コピペで使えるプロンプト集
そのまま使えるプロンプトです。日付や対象などの事実は、後で人が確認します。
① メモから通達に整える
② 既存の通達を分かりやすく
③ 専門用語をチェックする
送る前に確認すること
AIで整えた通達は、送る前に必ず人が確認します。文章は読みやすくなっても、中身が正しいとは限らないからです。とくに次を確認します。
- 日付・対象・条件:開始日や対象者が正しいか。あいまいになっていないか。
- 情報の抜け:必要な手続きや例外が、抜け落ちていないか。
- 制度・規程との整合:ルールに関わる通達は、内容が正確か担当者が確認する。
「分かりやすさ」で中身を変えない
AIは、分かりやすくしようとして、条件や例外を省いてしまうことがあります。簡潔さと正確さは両立させるもの。元の内容と照らし合わせ、大事な条件が落ちていないか確認しましょう(参考:確認手順)。
チェックリスト
- 結論を最初に書いた
- 対象(誰向けか)を明記した
- 専門用語をやさしい言葉に直した
- してほしい行動を明確にした
- 日付・対象・条件を確認した
よくある質問(Q&A)
かたい通達も、やわらかくしていい?
内容の重さに合わせます。重要な規程はきちんとした文体で、でも分かりやすく。日常的なお知らせは、親しみやすくして構いません。AIに「この通達にふさわしいトーンで」と伝えれば、場面に合った文体に調整してくれます。
毎回同じ形式にしたい。
自社の通達フォーマットをAIに渡し、「この形式で」と頼めば統一できます。型がそろうと、社員も要点を探しやすくなります。
結論を先に書くと、失礼では?
あいさつを一行入れたうえで、すぐ結論に入れば失礼になりません。だらだらした前置きのほうが、かえって相手の時間を奪います。
まとめ
- 読まれない原因は、内容ではなく伝え方。
- 結論・対象・いつから・お願い・問い合わせ先の型で書く。
- 結論先出し・対象明確・用語翻訳の3原則で整える。
次に社内通達を出すときは、要点をメモしてAIに「結論から、対象を明確に整えて」と頼んでみてください。「読んでもらえる、伝わる通達」に変わり、後の問い合わせもぐっと減るはずです。小さな工夫ですが、効果は毎回の連絡で積み重なっていきます。
社内通達は、「書くのが得意な人」が担当するとは限りません。むしろ、総務や現場のリーダーが、本業の合間に書いていることがほとんどです。だからこそ、AIで「伝わる形」に整えられる価値は大きいと感じます。文章力に自信がなくても、型とAIがあれば、誰でも分かりやすい通達を出せます。
大切なのは、「自分が分かっていること」と「相手に伝わること」は違うという意識です。書き手には当たり前の前提も、読み手には初耳かもしれません。AIに「誰でも分かる言葉に」と頼むことは、その思い込みを外す、よいきっかけになります。伝わる通達は、社内のムダな問い合わせを減らし、みんなの時間を生み出します。
── AutoAIPlatform編集部