「うちは50人もいないから関係ない」が終わる日

ストレスチェックは2015年から労働安全衛生法で義務づけられていますが、対象は労働者数50人以上の事業場に限られ、それ未満は「当分の間、努力義務」とされてきました。この「当分の間」が終わります。2025年5月公布の改正労働安全衛生法により、厚生労働省のストレスチェック制度・メンタルヘルス対策のページは施行日を令和10年(2028年)4月1日と明示しました。

2028年4月と聞くとまだ先に思えますが、残りは1年8か月ほど。最も時間がかかるのは検査そのものではなく、社内の合意づくりです。納得してもらえていない状態で始めると、形だけ実施して何も改善しない制度になります。

最新調査が示す、職場のストレスの現在地

令和7年労働安全衛生調査に見る職場のストレス。強い不安・悩み・ストレスがある労働者67.5%。内容は仕事の量39.5%、失敗や責任39.5%、対人関係32.9%。メンタル不調で1か月以上の休業や退職があった事業所13.5%。
図1|厚生労働省令和7年労働安全衛生調査に見る職場のストレス

厚生労働省が2026年8月7日に公表した令和7年労働安全衛生調査(実態調査)結果の概況によれば、強い不安・悩み・ストレスを感じる事柄がある労働者は67.5%。内容は「仕事の量」と「仕事の失敗、責任の発生等」がともに39.5%で最多、次いで「対人関係」32.9%。対人関係は前年の26.1%から6.8ポイント上昇し、今回いちばん動いた項目でした。

過去1年間にメンタルヘルス不調で連続1か月以上休業または退職した労働者がいた事業所は13.5%。規模別では50〜99人で26.8%、10〜29人では6.8%でした。

小さい会社に不調が少ないのではなく、見えていない

この数字は、一見すると小さな会社ほど安全に見えます。しかし同じ調査でメンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所は、50人以上93.7%に対し10〜29人では54.6%小さい会社は不調が起きていないのではなく、起きたかどうかを把握する仕組みを持っていない可能性が高いのです。相談できる人がいる労働者は94.8%いる一方、実際に相談した人は71.2%。相談先がないのではなく、会社の中では相談されていないのです。

厚生労働省の「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」スタートガイドは、不調になった場合の病休期間は平均で約3か月、復職後に再び病休になる割合は約半数とし、これが小規模事業場にとって大きな人材の損失につながると明記しています。

「相談できる人はいる」のに相談されていない

制度の中身と、会社に残る仕事

ストレスチェックとは、労働者が選択式の質問票に回答し、自分のストレスの状態を知るための検査です。事業者は年1回実施し、①本人にセルフケアを促す ②高ストレス者が申し出た場合に医師の面接指導を提供する ③集団分析を通じて職場環境の改善につなげる——この3つにつなげます。スタートガイドは制度の目的は不調の未然防止であり、不調者の発見ではないと明記しています。この一文を社内の説明に必ず入れてください。

「そんな体制は組めない」と感じるはずですが、実務はほぼ外部に委託できます。厚生労働省のマニュアルはプライバシー保護の観点から原則として外部委託を推奨しています。会社に残るのは、外に出せない仕事だけです。

やること担い手法的な位置づけAIの出番
導入方針の表明事業者(社長)準備段階の実務下書きを作る
社内ルール(規程)の作成・周知事業者+実務担当者準備段階の実務下書きと読みやすい説明文
検査の実施・個人結果の通知外部機関の実施者(医師・保健師等)義務使わない
集団分析・職場環境改善外部機関が分析、改善は社内努力義務会議の進め方の案出し

右端のとおり、AIが手伝えるのは文章をつくる列だけです。検査も判定も面接指導もAIの仕事ではありません。逆にいえば、会社に残る「文章をつくる仕事」は全部AIで軽くできます。

AIに任せてよい仕事と、入れてはいけない情報

AIに任せてよい仕事と入れてはいけない情報。任せてよいのは受検の案内文、制度の説明資料、社内ルールの原案、会議の進行案。入れてはいけないのは個人の検査結果、高ストレス者の氏名、面接指導の記録、通院や病名。
図2|AIに任せてよい仕事と、入れてはいけない情報

AIに任せてよいのは受検の案内文、制度の説明資料、社内ルールの原案、会議の進行案。個人を特定しない、制度についての文章です。

入れてはいけないのは、個人の検査結果、高ストレス者の氏名、面接指導の記録、通院や病名。そもそも制度の設計上、個人結果は事業者に提供されません手元にないものをAIに入れる余地はない、というのが正しい理解です。線引きはAIに入力してはいけない情報一覧へ。

義務化までにやる4歩

義務化までにやる4歩。1.方針を決めて示す。2.社内ルールを作る。3.委託先を比べる。4.受検を案内する。
図3|義務化までにやる4歩

第1歩・方針を決めて示す。A4半ページで十分です。書くのは「何のためにやるのか」「結果を人事評価に使わないこと」「困ったときの相談先」の3点。第2歩・社内ルールを作る。労働者の意見を聴いたうえで規程を作成し周知します。厚生労働省は編集可能なモデル規程も配布。AIの役割は、条文を社員が読んで分かる説明文に翻訳することです。

第3歩・委託先を比べる。外部機関から「サービス内容事前説明書」をもらい比較します。どこまでが標準サービスでどこからがオプションかの確認が要点。第4歩・受検を案内する。この1通が制度の成否を分けます

そのまま使えるプロンプト

第1歩の方針表明文と第4歩の受検案内が、1回のやりとりで出てきます。

あなたは、中小企業の労務文書に詳しい編集者です。ストレスチェック制度の社内文書を2通作ってください。 業種:[業種]/従業員数:[人数]人/実施時期:[年月]/委託先:[外部機関名] 1通目:社長名で出す「導入方針の表明」(A4半ページ) 2通目:全社員あての「受検のご案内」(A4一枚) 条件1:制度の目的は「不調の未然防止」であり、不調な人を見つける検査ではないと明記する。 条件2:個人の検査結果は会社には提供されず、外部機関から本人に直接通知されると明記する。 条件3:受検の有無や結果を理由に不利益な取扱いをしないと明記する。 条件4:専門用語を使わない。一文は60字以内。 条件5:渡していない事実・数字・機関名は作らない。会社が決めるべき箇所は[]で残す。

条件2と条件3が肝です。この2つが書かれていない案内文は、社員から見れば「会社が心の状態を調べる」通知にしか読めません。

「結果は社長に見られる」と思われたら終わり

うまくいかない会社には共通した失敗があります。社員が「正直に答えたら不利になる」と思ってしまうことです。全員が当たり障りのない回答をし、集団分析には何も出ず、実施したという記録だけが残ります。

これを防ぐのは技術ではなく文章です。案内文に必ず入れる一文は3つ。「個人の結果は会社に渡りません」「受けなかったこと、結果を理由に不利益な取扱いはしません」「面接指導を申し出ても、それだけで配置転換されることはありません」。ただし書いた内容を守るのは会社です。実務担当者が封筒を開けない運用まで作らなければ嘘になります。

AIに「安心する文章を」と丸投げしない

10人未満の集団分析と、無料で使える公的支援

小さな会社が必ずつまずくのが集団分析です。厚生労働省のマニュアルは集団の単位が10人を下回る場合は原則として結果の提供を受けてはいけないとしています。従業員8人の会社なら全社を1つの集団としても届きません。数字が出ないなら、対話で職場環境を見るしかないのです。

費用の心配には、先に伝えておきたいことがあります。厚生労働省の労働者数50人未満の小規模事業者の方のページには、リーフレット・実施マニュアル・編集可能なモデル規程がすべて無料で置かれています。医師の面接指導は全国350か所の地域産業保健センターが無料で提供。制度の相談はサポートダイヤル(0570-031050、平日10時〜17時)へ。案内文にはこころの耳など外部の相談窓口の情報を必ず添えてください

よくある質問(Q&A)

従業員が5人の会社でも、ストレスチェックをやらないといけないんですか。

はい。2028年4月1日以降は50人未満の事業場も対象で、人数の下限は設けられていません。ただし実務はほぼ外部機関に委託でき、医師の面接指導は地域産業保健センターで無料で受けられます。自前で医師や保健師を抱える必要はありません。会社に残るのは3通の文書です。

ストレスチェックの結果を見て、社員の配置転換を考えてもいいですか。

個人の検査結果は会社に提供されないため、会社が結果を見て判断することはできません。就業上の措置をとれるのは、本人の申出による医師の面接指導が行われ、医師の意見を聴いたうえで必要と判断された場合だけです。受検や結果、申出を理由とする不利益な取扱いは禁止されています

案内文をAIに書かせても大丈夫ですか。個人情報が心配です。

案内文の下書きは問題ありません。制度についての一般的な文章であり、個人情報を含まないからです。危ないのは個人の検査結果や高ストレス者の氏名を入力すること。これらは制度上そもそも会社の手元に来ない設計なので、入力する場面は生じないはずです。

まとめ

  • 労働者数50人未満の事業場も、2028年4月1日からストレスチェックが義務になる(2025年5月公布の改正労働安全衛生法)。
  • 令和7年調査では強いストレスを感じる労働者が67.5%、10〜29人の事業所で対策に取り組んでいるのは54.6%。小さい会社ほど、見えていない。
  • 会社に残る仕事は方針表明・社内ルール・受検案内という3つの文章。検査も判定も面接指導も外部に委託できる。

ストレスチェックは、書類を1回出して終わる制度ではありません。社員が安心して正直に答え、その結果が職場の改善に返っていくところまでが1セットです。入口にあるのは検査ではなく「なぜやるのか」を伝える文章。文章の下ごしらえだけなら、今日の午後にでも始められます。

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筆者コメント

ある20人ほどの会社で、ストレスチェックを努力義務の段階から実施していた話を聞きました。最初の年、回答はほぼ全員が「問題なし」。社長は「うちは風通しがいいから」と受け止めました。2年目、案内文を書き直しました。結果が会社に来ないこと、受けなくても不利益がないこと、外部の相談窓口があることを1枚に書いて全員に配ったそうです。

その年から、回答の中身が変わったと聞きました。変わったのは社員ではなく、会社が渡した紙のほうでした。ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

── AutoAIPlatform編集部

著者情報

AutoAIPlatform編集部 / 中小企業向けAI業務教育メディア

中小企業の経営者、管理職、総務、人事、営業、研修担当者が、AIを安全に仕事へ取り入れるための教育記事を作成しています。AIの操作だけでなく、業務設計・社内ルール・人による確認を重視します。