9月1日、政府のAIルールが1つ切り替わった

デジタル庁の「行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン」は、附則で「この決定の内容は、2026年(令和8年)9月1日から施行する。」と定めています。初版は2025年5月27日、2.0版への改定は2026年6月12日でした。

省庁がAIを買うときのルールなので、中小企業に義務はありません。ただ中身は民間の契約でもそのまま使える確認項目です。国が自分で使うために作った点検表が、無料で公開されている状態だと考えてください。

AIツールは申込ボタンひとつで使い始められます。だからこそ契約書を読む機会が飛ばされがちです。

政府が使っている3枚のシート

政府が使う3枚のシート。1枚目は高リスク判定シートで慎重に扱うAIかを見分ける。2枚目は調達チェックシートで事業者に求める21項目。3枚目は契約チェックシートで契約書に書く5分野。デジタル庁の2.0版は2026年9月1日施行。
図1|デジタル庁のガイドラインに付いている3枚のシート

ガイドラインには3枚の別添が付いています。1枚目は高リスク判定シートで、業務の性格・利用範囲・職員の判断を経るかという3つの観点から、慎重に扱うAIかどうかを見分けます。

2枚目が調達チェックシートで、事業者に求める事項を21項目に整理しています。AIガバナンスの構築、教育・リテラシー向上、入出力データの適切な管理、ベンダーロックインの回避、偽誤情報の出力防止、個人情報と知的財産の取扱い、セキュリティ確保などが並びます。

3枚目の契約チェックシートは、契約書で決める事柄を5分野にまとめています。入力データの扱い、出力物の保証と権利、期待品質を満たす義務、成果物の権利、事故時の対応義務。見出しだけならA4一枚です

あなたの会社の契約は、たぶん「A型」

契約の型で変わること。約款のまま使う場合は秘密情報を入れない、学習される場合がある、出力の権利が不明、障害時の対応は不明。条件を確認した場合は入れてよい範囲が決まる、学習の可否を明示、成果物の権利が明確、事故時の対応義務あり。
図2|同じツールでも、契約の形で確認できることが変わる

同ガイドラインは、AIの契約を3つの型に分けています。A型は定型約款や規約に同意して使うだけ、B型は約款に加えて個別契約を結ぶ形、C型は個別に開発して契約する形です。

ChatGPTやGeminiに申し込んで使っている会社は、ほぼ全部がA型です。ここが肝心で、デジタル庁のガイドライン2.0版の概要資料は、利用者が理解すべき事項として「約款型クラウドサービスは原則として要機密情報を扱えないことの理解」と明記しています。

つまり約款のまま使うなら、機密情報は入れない前提で運用するということです。入れたい情報があるなら、B型やC型として条件を交渉する側に回る必要があります(AIに入力してはいけない情報)。

「法人プランだから安全」ではない

法人向けプランでも、契約の実体が約款への同意なら分類はA型のままです。学習に使われない設定かどうかは、プラン名ではなく規約と管理画面で確かめます。無料版と有料版で扱いが違う製品もあります。

契約書を見る目は、経産省の27項目でつく

民間向けには、もっと実務的な資料があります。経済産業省が2025年2月に公表した「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」です。想定読者にAI利活用の実務になじみのない事業者を明示的に含めています。

構成は単純です。会社がAIに渡すインプットと、AIから受け取るアウトプットの2本立て。それぞれを「特定・提供・使用・外部提供・権利帰属・処理成果」の観点で見ていき、全部で27のチェック項目になります。

同資料は、条項の名前がベンダーごとに違う点にも触れています。渡す情報は「秘密情報」「技術情報」「フィードバック」「プロンプト」など様々に呼ばれます。言葉ではなく中身で読むのが要点です。

中小企業が最低限見る5か所

21項目と27項目を全部見るのは現実的ではありません。社員数十人の会社なら、次の5か所で足ります。どれも規約の検索窓に単語を入れれば見つかります。

表1|AIツールの規約・契約で最低限見る5か所
見る場所確認すること危ないサイン
入力の扱い入れた文書や画像を、どこまで保存・利用するか利用目的が「サービス改善のため」だけで範囲が書かれていない
学習への利用入力が学習に使われるか。断る設定があるか断る方法の記載がない、または管理者側で一括設定できない
出力の権利作った文章や画像を、商用で自由に使えるか権利の帰属が書かれていない、利用範囲に制限がある
事故時の対応情報漏えいや誤出力のとき、事業者が何をするか連絡窓口も対応義務も書かれず、免責だけが並んでいる
解約時のデータやめるとき、蓄積データを取り出せるか・消えるか返還も削除も規定がなく、解約後の扱いが不明

5か所とも、政府の調達チェックシートと契約チェックシートに対応しています。国が数十ページかけて確認している論点を、5行に縮めたものだと考えてください。

「ベンダーロックイン」が要求項目に入った理由

21項目の中に、少し毛色の違う項目があります。ベンダーロックインの回避です。同ガイドラインは考慮すべきリスクとして「ベンダーロックインによる不要なコストの増加のリスク」を挙げています。

ロックインとは、乗り換えたくても乗り換えられない状態です。AIでは、蓄積した社内データや作り込んだ設定が特定のサービスに閉じ込められると起こります。値上げされても他社に移せません

中小企業に置き換えるなら、確認は1つで済みます。やめるときに、入れたデータと作った設定を持ち出せるか。書き出し機能の有無を、契約前に画面で確かめておけば十分です(AIツールの選び方)。

契約前にやる4つの手順

契約前にやる4つの手順。1.使う目的を1行で書く。2.入れない情報を決める。3.規約の学習欄を見る。4.解約と持ち出しを確認する。A4一枚で足ります。
図3|A4一枚で終わる、契約前の4手順

最初にやるのは、比較でも見積でもありません。何にどこまで使うかを1行で書くことです。「問い合わせ返信の下書きだけに使う」で十分。用途が決まると、確認すべき項目が一気に減ります。

2つ目は、入れない情報を先に決めることです。顧客の氏名と連絡先、取引先の見積金額、従業員の評価。3つ書き出すだけで、事故の大半は防げます

規約は全部読まなくてよい

3つ目は規約の検索です。ブラウザの検索機能で「学習」「training」「オプトアウト」と打てば、該当箇所に飛べます。4つ目は解約時の扱いで、「解約」「削除」「エクスポート」で同じことをします。4か所読むだけなら10分です。

「選ぶ情報が足りない」は8割の会社の悩み

この手間を面倒に感じるのは、あなたの会社だけではありません。中小企業基盤整備機構の「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」によると、「適切なベンダーや製品を選定する情報が十分にある」に当てはまらない企業は79.8%でした。

この調査は全国の中小企業10,000社を対象に、2025年11月17日から12月12日まで実施され、1,647社が回答しています。AIの導入率は20.4%、検討中を含めると39.0%が前向きという結果でした。8割が「選ぶ材料がない」と答える中で、選定が進んでいる状態です。

だからこそ、公的な点検表が効きます。判断基準を自作せずに済み、社内でも「国の調達基準に合わせた」と説明できます。無料の相談窓口も使えます(国の無料相談窓口の使い方)。

そのまま使えるプロンプト

契約書や利用規約を貼り付けて、5か所を抜き出させるプロンプトです。角かっこを置き換えてください。

あなたは契約書を読み慣れた中小企業の管理担当者です。 ―――前提――― 導入したいAIツール:[サービス名] 使う目的:[問い合わせ返信の下書き など] 入れたくない情報:[顧客の氏名・取引金額 など] ―――貼り付ける文書――― [利用規約・契約書の本文をここに貼る] ―――やってほしいこと――― 1つ目:次の5点について、該当する条文を原文のまま引用し、要点を1行で説明する。 (1)入力した情報の保存と利用の範囲 (2)入力がAIの学習に使われるか、断る方法があるか (3)出力物を商用利用できるか、権利は誰に帰属するか (4)情報漏えい・誤出力が起きたときの事業者の対応義務 (5)解約時のデータの返還・削除・書き出し 2つ目:記載が見当たらない項目を「記載なし」と明示する。 3つ目:事業者に質問すべきことを3つ、そのまま送れる文面で書く。 条件1:貼り付けた文書に無い内容を推測で補わない。 条件2:法的な結論は断定せず、確認が必要な点として書く。

大事なのは2つ目です。「記載なし」を見つけることが目的で、書いてある条文の解釈は後回しでかまいません(AIで契約書をチェックする)。

よくある質問(Q&A)

政府のガイドラインって、うちみたいな小さい会社にも関係あるんですか。

義務はありません。使えるのは、確認項目の中身だけです。国が自分でAIを買うときに何を見ているかが21項目で公開されているので、そこから5つ借りる、という使い方になります。申請も届出も不要です

契約書を読める人が社内にいないんですが、どうすればいいですか。

全部読む必要はありません。規約のページで「学習」「解約」「削除」を検索し、その周辺だけ読みます。記載が見つからない項目は、そのまま事業者に質問するのが早いです。回答をメールで残せば、それも記録になります。

もう何年か使っているツールも、今から確認したほうがいいですか。

はい。AIサービスは規約の改定が頻繁です。経済産業省のチェックリストも、規約改定に関する留意点を独立した項目として扱っています。年に1回、5か所だけ見直すと決めておけば十分です(社内ルールの作り方)。

まとめ

  • 政府のAI調達ルール(デジタル庁DS-920 2.0版)が2026年9月1日に施行。事業者への要求は21項目、契約で決める事柄は5分野に整理されている。
  • 約款に同意して使うだけの契約はA型で、原則として機密情報を扱わない前提。入れたい情報があるなら条件を交渉する側に回る。
  • 中小企業が見るのは入力の扱い・学習への利用・出力の権利・事故時の対応・解約時のデータの5か所。規約の検索機能で10分あれば終わる。

読む量を減らす方法は、読む場所を決めることです。5か所と決めた会社だけが、毎回同じ質で確認できます

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AIの使いどころと、人が確認すべき場面を整理しましょう。

筆者コメント

ある製造業の総務担当者から、AIツールの規約を印刷した紙を見せられたことがあります。40ページ。全部に蛍光ペンが引いてあり、どこが問題なのか本人にも分からなくなっていました。

その場で検索窓に「学習」と打ったら、該当は2か所だけ。オプトアウトの設定項目があると3分で分かりました全部読むのをやめた瞬間に、確認が仕事として回り始めます。ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

── AutoAIPlatform編集部

著者情報

AutoAIPlatform編集部 / 中小企業向けAI業務教育メディア

中小企業の経営者、管理職、総務、人事、営業、研修担当者が、AIを安全に仕事へ取り入れるための教育記事を作成しています。AIの操作だけでなく、業務設計・社内ルール・人による確認を重視します。