2026年4月、両立支援は努力義務になった

がん、脳卒中、糖尿病、メンタルヘルスの不調。通院しながら働く社員は、もうどの会社にもいます。これまで職場の対応は善意に任されてきましたが、2026年4月1日に扱いが変わりました。改正労働施策総合推進法により、治療と就業の両立を支援する措置を講じることが、すべての事業主の努力義務になったからです。

具体的な中身を定めているのが、2026年2月10日に告示された「治療と就業の両立支援指針」(令和8年厚生労働省告示第28号)です。対象は国際疾病分類に掲げられた疾病のうち、医師が反復・継続した治療が必要と判断し、就業の継続に配慮が必要なもの。指針は雇用形態を問わず労働者全てを対象としており、パート・アルバイトも含まれます

努力義務なので罰則はありません。それでも読む価値があるのは、人手不足の会社ほど、辞めさせない仕組みが直接効くからです。

数字で見る中小企業の両立支援

数字で見る両立支援。産業保健の取組として治療と仕事の両立支援を行っている事業所は31.8%。従業員10〜29人の企業では24.3%。取り組んでいる事業所のうち社内体制を整備しているのは18.1%。令和6年労働安全衛生調査より。
図1|厚生労働省「令和6年 労働安全衛生調査(実態調査)」に見る実施率

現在地を数字で見ます。厚生労働省の令和6年「労働安全衛生調査(実態調査)」(常用労働者10人以上の民営事業所 約14,000事業所を抽出)によると、産業保健の取組として私傷病を抱える労働者の治療と仕事の両立支援を行っている事業所は31.8%。企業規模10〜29人では24.3%にとどまります。

より示唆的なのは中身です。取り組んでいる事業所を100としたとき、「通院や体調等の状況に合わせた配慮、措置の検討」は93.3%。ほぼ全社が個別対応はしています。一方で「社内の相談窓口や手続き等の明確化」は39.4%「両立支援に関する社内体制の整備」は18.1%にとどまりました。

つまり多くの会社は、目の前に病気の社員が現れてから、その場で考えている状態です。指針が求めているのは、その逆の順番です。

指針が求めているのは、制度より先に「言葉」

指針は環境整備として5つを挙げます。基本方針の表明と周知、研修等による意識啓発、相談窓口等の明確化、制度・体制の整備、事業場内外の連携です。並べてみると、5つのうち3つは「書いて伝える」ことだと分かります

表1|指針が求める環境整備と、いま足りていないもの
環境整備の項目実施率AIで下書きできるもの
基本方針の表明と周知18.3%全社への周知文(A4一枚)
研修等による意識啓発19.5%管理職向けの説明メモ
相談窓口等の明確化39.4%窓口の案内文と想定問答
制度・体制の整備38.1%使える休暇・勤務制度の一覧
事業場内外の連携19.7%外部窓口へ渡す相談メモ

実施率は前述の調査で、両立支援に取り組んでいる事業所を100としたときの複数回答の割合です。右の列はすべて文章づくりで、AIが最も得意とする作業にあたります。

順番も指針が決めています。両立支援指針は「労働者本人から支援を求める申出がなされたことを端緒に取り組むことが基本となる」としています。会社が先に気づいて動く仕組みではありません。だからこそ、申出しやすい環境を先に作る必要があります。

言葉があるかで、結果が変わる

言葉があるかで変わること。言葉がない会社では言い出せず退職、上司の判断で決まる、同僚に説明できない、記録が残らない。言葉がある会社では早めに相談できる、手順どおりに進む、配慮の理由が伝わる、書面と記録が残る。
図2|同じ病気・同じ会社でも、用意した言葉で結果が分かれる

社員が黙って辞める理由は、多くの場合「迷惑をかけたくない」です。会社が何も言っていなければ、社員は前例のない相談を自分で切り出すことになります。逆に「通院が必要になったら相談してください」と一度でも書かれていれば、相談は制度の利用に変わります。

用意する文面は4つで足ります。全社への基本方針、相談窓口の案内、管理職が申出を受けたときの手順、同僚への説明の型です。どれも長さはA4一枚以内で、AIに骨子を出させれば30分で初稿ができます。

繁忙を理由にした先送りは認められない

指針は留意事項の冒頭で、「業務の繁忙等を理由に必要な就業上の措置及び治療に対する配慮を行わないことはあってはならない」と明記しています。忙しさは配慮しない理由になりません。むしろ忙しい会社ほど、判断を毎回やり直さずに済む手順が要ります

主治医とのやり取りは、様式のある書面で

両立支援は会社の判断だけでは進みません。指針が示す流れは、本人の申出 → 主治医からの情報収集 → 産業医等の意見 → 就業継続の可否の判断 → 両立支援プランの作成です。会社が主治医に確認するのは病名ではなく、就業継続の可否、望ましい就業上の措置、治療に対する配慮が必要な事項の3点になります。

この往復は、口頭ではなく書面で行います。厚生労働省の「治療と仕事の両立支援ナビ」には、勤務情報を主治医に提供する書面と、主治医の意見を求める書面の様式例が公開されています。白紙から作る必要はありません

使える制度も指針が例示しています。時間単位の年次有給休暇(労使協定により年5日の範囲内)、傷病休暇、時差出勤、短時間勤務、在宅勤務、試し出勤。多くは法定外の制度で、就業規則に一行足すところから始められます。産業医がいない50人未満の事業場は、全国47か所の産業保健総合支援センターに無料で相談できます。

AIに入れてはいけない情報

ここが今日いちばん大事な線引きです。指針は健康情報について、安衛法に基づく健康診断で把握した場合を除き、原則として事業主が労働者本人の同意なく取得してはならないとしています。病名・検査値・診断書の中身は、社内でも共有範囲を絞るべき情報です。

したがってAIに渡してよいのは、個人が特定されない一般的な条件だけになります。「30代の事務職が週1回の通院を必要とする場合の勤務制度の案を出して」は問題ありません。診断書の写真をそのまま読み込ませる、氏名と病名を入れて相談文を書かせる、といった使い方は避けてください(AIに入力してはいけない情報一覧)。

AIは自社の就業規則を知らないので、実在しない制度名を書き足すことがあります。制度名と日数は必ず就業規則と突き合わせてください(AIの回答をそのまま使ってはいけない理由)。

今週やる4つの手順

今週やる4つの手順。1.基本方針を1枚書く。2.相談の窓口を決める。3.使える制度を並べる。4.様式を用意する。
図3|A4一枚から始める、両立支援の環境整備

1つ目は基本方針です。「当社は、治療を受けながら働き続けられる職場をつくります」の一文と、相談先を書けば足ります。掲示板でも朝礼でも構いません。2つ目は窓口の明確化で、誰に、どの方法で伝えるかを決めます。人事担当者がいなければ社長で構いません。

3つ目は制度の棚卸しです。年次有給休暇の時間単位付与、時差出勤、在宅勤務のうち、すでに使えるものと、就業規則に足すものを分けます。4つ目が様式で、前述の両立支援ナビの書式をダウンロードして社名を入れるだけです。

同僚への伝え方を先に決めておく

配慮を始めると、周囲には「なぜあの人だけ」が生まれます。病名は伝えず、期間と業務上の変更点だけを共有する型を先に決めておくと、本人も上司も迷いません。説明の型があること自体が、次に病気になる人を守ります

そのまま使えるプロンプト

基本方針と相談窓口の案内を、まとめて下書きさせるプロンプトです。角かっこを置き換えてください。

あなたは中小企業の人事・総務を助ける文章の専門家です。 ―――当社――― 業種:[業種]/従業員数:[人数]名/産業医:[いる/いない] ―――使える制度(これ以外を書かない)――― ・[年次有給休暇の時間単位付与/時差出勤/在宅勤務/短時間勤務] ・相談先:[役職・氏名なしの窓口名] ―――作るもの――― 1つ目:全社への周知文。治療を受けながら働き続けられる方針と、相談先を示す。400字以内。 2つ目:管理職向けの手順メモ。社員から申出を受けたときにやること・やらないことを各3つ。 条件1:病名・検査値・診断書の内容には触れない。 条件2:当社に無い制度名を書かない。埋まらない箇所は[要確認]と残す。 条件3:一文60字以内。指示ではなく「相談してください」と呼びかける調子にする。

肝は条件2です。AIは一般的な制度名を勝手に足すので、渡した制度だけで書かせます(プロンプトの基本)。

よくある質問(Q&A)

産業医もいない10人の会社ですが、何かしないといけないんですか。

努力義務なので罰則はありませんが、指針は雇用形態も規模も問わず適用されます。産業医がいない事業場では、主治医から提供された情報を参考にして判断してよいと指針は整理しています。判断に迷う場面は、全国47か所の産業保健総合支援センターに無料で相談できます。

診断書をAIに読ませて、対応案を作ってもらってもいいですか。

やめてください。診断書は本人の同意を前提に取得した健康情報で、社内でも取り扱う人の範囲を限る対象です。AIに渡すなら、氏名も病名も外し「週1回2時間の通院が半年続く場合」といった条件だけにします。出てきた案を社内で検討する順番が安全です。

本人が「みんなには言わないでほしい」と言っています。どう伝えればいいですか。

病名を伏せたまま、期間と業務上の変更点だけを共有します。「◯月まで◯曜日の午後は不在です」「その間の窓口は△△さんです」で足ります。共有する範囲と内容は、本人に確認してから決めるのが原則です。文面はAIで整えられます。

まとめ

  • 治療と就業の両立支援は2026年4月1日からすべての事業主の努力義務。根拠は令和8年厚生労働省告示第28号の指針で、パート・アルバイトも対象。
  • 両立支援に取り組む事業所は31.8%、10〜29人の企業では24.3%。個別配慮は93.3%が行う一方、社内体制の整備は18.1%にとどまる。
  • 先に要るのは制度より言葉。基本方針・窓口案内・管理職の手順・同僚への説明の4つの文面をAIで下書きし、健康情報は入力しない

大がかりな制度改革の話ではありません。「相談してください」と先に書いておく。それだけで、辞めるはずだった人が残ります。

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筆者コメント

ある製造業の総務担当者から聞いた話です。ベテランの職人が黙って退職届を出してきて、後から通院していたと分かった。引き止めたが遅かった、と。

その会社に制度が無かったわけではありません。年次有給休暇も時差出勤もありました。無かったのは「使っていい」と伝える一文だけです。文章を書くのは面倒な仕事ですが、いまはAIが下書きを引き受けてくれます。残ったのは、書くと決める判断だけ。ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

── AutoAIPlatform編集部

著者情報

AutoAIPlatform編集部 / 中小企業向けAI業務教育メディア

中小企業の経営者、管理職、総務、人事、営業、研修担当者が、AIを安全に仕事へ取り入れるための教育記事を作成しています。AIの操作だけでなく、業務設計・社内ルール・人による確認を重視します。