AIが書いた文章は、誰の言葉になるのか
口コミの返信文やSNSの投稿文をAIに下書きさせる会社は、もう珍しくありません。中小企業基盤整備機構の「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」(2026年3月公表、全国の中小企業10,000社が対象)によると、AIの導入率は20.4%。導入済みの企業では生成AIの利用が82.6%と突出し、営業・販売・サービス部門の導入率は60.3%です。
そこで出てくるのが今日の問いです。AIが書いた文章は、誰の言葉として扱われるのか。景品表示法のステルスマーケティング規制が見ているのは、「誰が書いたか」ではなく「誰が内容の決定に関与したか」。人が書いてもAIが書いても、事業者が内容を決めていれば事業者の表示です。書き手がAIであることは、免罪符にも違反の理由にもなりません。
数字で見るステマ規制の運用
まず実際の運用を見ます。消費者庁が2026年5月28日に公表した「令和7年度における景品表示法等の運用状況及び表示等の適正化への取組」によると、令和7年度に13名の事業者に対して13件の措置命令が行われました。あわせて8件の確約計画の認定があり、その内訳のうち4件がステルスマーケティング告示に関するものです。
指導まで含めると輪郭が変わります。ステマ告示に関する処理は、措置命令・確約計画の認定が4件、指導が7件で合計11件。同年度の指導は全体で388件、うちネット広告の監視だけで324件。相談は13,217件、外部から寄せられた情報は22,431件でした。
令和7年度の課徴金納付命令は10件・総額3億3940万円でしたが、課徴金の対象は優良誤認と有利誤認の2つで、ステマ告示は対象外です。科されるのは措置命令、つまり誤認の排除と再発防止策の公表。金銭より社名の公表が効きます。
告示が禁じているのは、たった1つ
条文は驚くほど短いです。消費者庁の「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」(令和5年内閣府告示第19号)は、規制の対象を「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの」と定めています。施行は令和5年10月1日。禁止されているのは、この一文だけです。
要件は2つに分解できます。1つ目は事業者の表示であること。自社の商品について、事業者が内容の決定に関与した表示を指します。2つ目は一般消費者が事業者の表示だと判別できないこと。この2つがそろって初めて違反です。
だから、広告だと誰の目にも明らかな表示は対象外です。運用基準は、テレビCM・新聞の広告欄・自社ウェブサイトを「社会通念上明らか」なものとして告示の対象から外しています。責任を負うのも表示を行った事業者です。
中小企業がつまずく3つの場面
処理された事例は、どれも身近な商売の話です。前述の運用状況には、商品を買った人に「星5」の投稿を条件としてギフトカードを渡していた事業者、モニター募集サイトの閲覧者に対価を条件にレビュー投稿を依頼していた事業者が並びます。
2つ目の場面は従業員です。運用基準は、事業者と一体と認められる従業員が行った表示も、地位・立場・権限などから見て事業者の表示に当たり得るとしています。社長が「みんなも投稿してね」と頼んだ時点で、その投稿は会社の表示に近づきます。
3つ目は「お客様の声」です。実際に届いた感想でも、好意的なものだけを選んで引用し、事業者の関与が分からない形で載せれば、判別困難な表示に近づきます。実在するかではなく、見せ方が問われるのがこの規制です。
やってはいけない依頼のしかた
「星5だったら次回無料」——見返りと評価の内容を結びつけた依頼は、投稿が事業者の表示になったうえで、それが読み手に分からない状態を作ります。見返りを出すこと自体は禁じられていません。禁じられているのは、関与を隠したまま第三者の感想に見せることです。
AIが入ると、どこが変わるのか
AIが変えたのは速度と量で、判断のルールは1文字も変わっていません。それでも実務のリスクは上がりました。下書きが数秒で出るぶん、依頼する相手の数と投稿の本数が増えるからです。
自社の名前で運用する公式アカウントの投稿は、事業者の表示であることが明らかなので告示が問題にする場面ではありません。AIに下書きさせても同じです。危ないのは反対側で、第三者の投稿に見える場所へ、会社が関与した文章を流し込むとき。AIはここを区別しません。
もう一点、下書きに、渡していない事実が混ざる落とし穴があります。取っていない実績を、AIが自然な文章にするために書き足してしまう。判別困難ではなく優良誤認の問題ですが、指導の対象になる点は同じです(AIの回答をそのまま使ってはいけない理由)。
「広告」と書けば安全、ではない
表記の付け方には細かい決まりがあります。「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」の運用基準は、明瞭と認められる例として「広告」「宣伝」「プロモーション」「PR」といった文言を挙げる一方、これらを使っていても明瞭と認められない場合があると注記しています。
| 場面 | 不明瞭とされる書き方 | 明瞭と認められる書き方 |
|---|---|---|
| 位置 | 視認しにくい末尾にだけ書く | 投稿の冒頭に書く |
| 大きさ・色 | 周囲より小さい字、薄い色 | 本文と同じ大きさと濃さ |
| ハッシュタグ | 大量のタグの中に埋もれさせる | 本文中に文章として書く |
| 一貫性 | 冒頭は「広告」、文中は「個人の感想」 | 全体で同じ立場を示す |
| 動画 | 中間や末尾に一瞬だけ表示 | 冒頭で認識できる長さ表示 |
左の列に共通するのは、「書いてはいる」けれど読み手に届かない形です。運用基準が求めるのは表記の有無ではなく、表示内容全体から事業者の表示だと分かりやすいこと。形式ではなく、伝わったかで判断されると読むのが安全です。
今週やる4つのこと
最初は棚卸しです。モニター募集、レビュー特典、商品提供、協力店への投稿依頼——外部の人に何かを書いてもらう場面をすべて書き出します。担当者ごとに走っていることが多く、一覧にして初めて全体が見えます。
次に表記の型を1つ決めます。「#PR」だけに頼らず、投稿の冒頭に「これは当社からの依頼による投稿です」と文章で置くのが確実です。3つ目は従業員向けの一行ルール。自社の商品を個人アカウントで薦めるときは、社名を明かして書く。これで大半の場面は片づきます。
記録は「依頼した事実」を残す
4つ目は記録です。誰に・いつ・何を渡し・何を依頼したかを1行で残します。指導事例では、表示の根拠となる情報を確認していなかった点が問題とされました。やり取りが残っていれば、後から根拠をたどれます(AIで社内の情報共有をまとめる)。
そのまま使えるプロンプト
依頼文と投稿の下書きを、表記込みで作らせるプロンプトです。角かっこを置き換えてください。
要は条件1です。「星5でお願いします」に相当する言い回しをAIに作らせない一行で、ひな型に組み込めば担当者が代わっても揺れません(プロンプトの基本)。
よくある質問(Q&A)
うちの社員が自分のインスタで自社の商品をほめるのも、ステマになるんですか。
頼んでいないなら、直ちに問題になるわけではありません。ただし運用基準は、事業者と一体と認められる従業員の表示は事業者の表示に当たり得るとしています。迷う場面をなくすには「自社の宣伝を書くときは社名を明かす」と決めてしまうのが早いです。
AIに書かせた口コミを「お客様の声」としてサイトに載せてもいいですか。
実在しない感想をお客様の声として載せるのは避けてください。事業者が内容を決めた文章を第三者の感想として見せる形にあたり、事実と違えば優良誤認の問題にもなります。AIに任せてよいのは、実際に届いた声の誤字を直し、読みやすく整えるところまでです。
「PR」と書いておけば大丈夫ですよね。
それだけでは足りない場合があります。運用基準は「PR」等の文言を明瞭な例として挙げつつ、表示内容全体から見て明瞭と認められない場合もあると注記しています。大量のハッシュタグに埋もれている、末尾に小さく置いている、といった形は不明瞭とされます。冒頭に、本文と同じ大きさで書くのが確実です。
まとめ
- ステマ規制が見ているのは「誰が書いたか」ではなく「誰が内容の決定に関与したか」。AIに書かせたこと自体は違反にならない。
- 違反になるのは事業者の表示であることと一般消費者が判別できないことがそろったとき。令和7年度はステマ告示に関する処理が11件あった。
- 対策は依頼の棚卸し・表記の型・従業員の一行ルール・記録の4つ。表記は冒頭に、本文と同じ大きさで置く。
規制の話は面倒に見えます。けれど中身は「関与しているなら、そう言おう」に尽きます。言ってしまえば、あとは自由です。
ある飲食店で、常連さんに「口コミ書いてくれたら次回1杯サービスしますよ」と声をかけていた店主がいました。悪気はまったくありません。距離が近いからこその一言です。
ただ、その一言は投稿を会社の表示に変えてしまいます。防ぐ方法は難しくなく、「うちが頼んだって一言添えてくださいね」と足すだけ。隠さなければ、頼むこと自体は自由です。判断は最初に1回、社内で決めておけば足ります。ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
── AutoAIPlatform編集部