研修にお金を出せている会社は、半分しかない
厚生労働省が2026年7月に公表した令和7年度「能力開発基本調査」によると、OFF-JT(業務を離れて行う研修)に費用を支出した企業は50.1%でした。自己啓発支援も含めて「いずれにも支出していない」と答えた企業は45.5%あります。出している会社と出していない会社が、ほぼ半々です。
金額も大きくはありません。OFF-JTに支出した費用の労働者一人当たり平均額は2.0万円です。前回調査の1.5万円からは上がりました。外部のAI研修は1人あたり数万円かかります。自腹だけでは、たいていの中小企業で予算が組めません。
一方で、AIを使う方針そのものは中小企業にも広がっています。総務省の令和8年版 情報通信白書「生成AIの活用方針等」では、活用方針を定めた割合が中小企業で58.1%(大企業は74.0%)。方針はある。教える予算がない。この隙間を埋めるのが助成金です。
AI研修に使えるのは、どの制度か
厚生労働省の人材開発支援助成金には7つのコースがあります。AI研修でまず検討するのは事業展開等リスキリング支援コースです。新規事業やDX・GX化に向けて社員に新しい知識・技能を習得させたときに、研修費と受講中の賃金の一部が助成されます。
ここでいうDXは大がかりな話ではありません。同コースのご案内(詳細版・令和8年8月3日版)には、従業員30名程度の小売業がWeb集客の講座を受ける例が載っています。従業員50名程度の運輸業がAIで配送ルートの最適化を学ぶ例もあります。規模の小さい会社を想定した制度です。
補助金とは窓口が違います
設備やソフトの購入に使う「デジタル化・AI導入補助金」などは経済産業省・中小企業庁の管轄で、公募期間と採択審査があります。人材開発支援助成金は厚生労働省で、窓口は各都道府県労働局。要件を満たせば通年で申請できます。
いくら戻るのか|75%・1,000円・30万円
助成は2種類です。研修費に対する経費助成と、受講中の給料に対する賃金助成。中小企業と大企業で率が違います。
| 助成の種類 | 中小企業 | 中小企業以外 |
|---|---|---|
| 経費助成(研修費に対する率) | 75% | 60% |
| 賃金助成(1人1時間あたり) | 1,000円 | 500円 |
| 経費助成の限度額(1人1訓練・10時間以上100時間未満) | 30万円 | 20万円 |
| 同(100時間以上200時間未満) | 40万円 | 25万円 |
| 同(200時間以上) | 50万円 | 30万円 |
数字は前掲の厚生労働省パンフレット(令和8年8月3日版)によります。5人で20時間の研修を受け、研修費が40万円だった場合を考えます。経費助成は30万円、賃金助成はのべ100時間分で10万円。合計40万円が戻る計算です(図1)。
ただし上限もあります。研修は実訓練時間数が10時間以上必要で、満たない単発セミナーは対象外です。受講回数は1年度に3回までで、令和8年8月3日以降の計画ではeラーニングだけは1年度1回までに絞られました。1事業所が1年度に受け取れる上限は1億円です。
2026年8月3日の改正で、外れた研修がある
ここが今回いちばん重要な変更点です。令和8年8月3日以降に提出する計画届では、「職務に直接関連しない訓練」と「職業人として共通して必要となるもの」は、DX・GX化に関する訓練であっても対象外になりました。それ以前は、DX関連であれば通る余地がありました。
あわせて、パンフレットは対象にならない訓練の例を明示しています。厚生労働省は同パンフレットで、「単にデジタル機器を使用して文章・数値の入力や、書式・レイアウトの変更程度の初歩的な操作を行う内容のみの訓練は対象になりません」と明記しています。「ChatGPTの使い方講座」だけでは、この線に触れる可能性が高いということです(図2)。
同じパンフレットの質疑応答には、AIツールを絡めた誤解も載っています。研修とツール導入をセットにすればツール代も研修費として申請できる、という考え方は否定されており、AI研修の費用は対象経費だがAIツールの導入費用は対象外だと整理されています。出るのは「教える費用」であって「買う費用」ではありません。
8割の会社が止まる、申請の手前の2つの壁
前掲の能力開発基本調査によると、人材開発支援助成金を受給したことがある企業は15.3%にとどまります。理由の内訳は明快で、「制度について知っていたが、受給したことはなかった」が51.9%、「制度について知らなかったため、受給したことはなかった」が32.8%でした。
知っていても使わない理由は、申請の前提条件にあります。パンフレットは前提として、社内の職業能力開発推進者の選任と事業内職業能力開発計画の策定を挙げています。同じ調査では、その計画を「いずれの事業所においても作成していない」企業が79.8%。推進者を「いずれの事業所においても選任していない」企業は82.2%でした。
壁は研修の中身ではなく、その手前にあります
つまり多くの会社は、研修の内容で落ちているのではありません。推進者を決めていない・計画を書いていないという、申請書を書く前の段階で止まっています。この2つを片づければ通る側に回れます。どちらも社内で完結し、外部への支払いは発生しません。
通る研修は「職務」から逆算して設計する
改正後の線引きを踏まえると、研修の組み立て方は決まります。AIから設計しない。職務から設計する。「経理担当が請求書の突合をAIで行う」「営業担当が提案書のたたき台をAIで作る」のように、担当者の職務名と作業名を先に置き、その作業を回すための知識と技能を科目に落とします。
科目名も同じ考え方で書きます。「生成AI入門」ではなく「請求データの照合業務におけるAI活用」。一般的な操作説明が混ざると、その時間は実訓練時間数から除外して数えることになり、時間の確保にも直接ひびきます。
もう一つ、事業展開やDX化との結びつきを説明できることが前提です。「人手不足で受注を断っている」といった自社の事情を、計画の背景に書けるかどうかが分かれ目になります。業務棚卸しシートで作業を洗い出しておくと、この説明がそのまま書けます。
段取りと、3つの期限
手続きは4段階。期限が3か所あり、どれも過ぎると受け取れません(図3)。
第一に、職業訓練実施計画届は訓練開始日から起算して6か月前から1か月前までの間に、都道府県労働局へ提出します。研修の申し込みを済ませてから届け出ようとすると、この1か月前の締切に間に合わないことがあります。先に届出、あとから実施の順番です。
第二に、研修費は支給申請までに支払い終えている必要があります。第三に、支給申請書は訓練終了日の翌日から起算して2か月以内に提出します。なお計画届の提出で支給が確定するわけではありません。審査は支給申請後にまとめて行われます。
そのまま使えるプロンプト例
あなたは中小企業の人事担当です。当社(従業員[人数]名・業種[業種])で、[職務名]の[作業名]をAIで効率化するための社内研修計画の骨子を作ってください。条件は次の3つです。①科目名を「一般的なAIの使い方」ではなく職務と作業の名前で書く、②OFF-JTの合計を10時間以上にする、③研修が当社のどの業務課題の解決につながるかを3行で説明する。表形式で、科目名・時間数・到達目標の3列にまとめてください。
この制度は「令和8年度まで」と書かれている
もう一点、時期の話があります。パンフレットは冒頭で、このコースが令和4年度から8年度までの期間限定の助成金として創設されたと説明しています。案内に書かれている期間の最終年度が、2026年度(令和8年度)です。延長や後継コースの有無は現時点で公表されていないため、来年度も同じ条件で使える前提で計画を立てるのは避けたほうが安全です。
今年度中に使うなら逆算はこうなります。研修終了が2027年3月末なら、計画届の提出は遅くとも2027年2月末まで。推進者の選任と計画の策定を先に済ませれば、研修の中身は後から決められます。
なお同じ改正で、機器の導入費用の一部を助成する設備投資加算も新設されました。中小企業は導入費用の50%が対象で、限度額は労働者1人につき15万円(10人以上なら150万円)です。研修と設備を同時に検討中なら、労働局に相談する価値があります。
よくある質問(Q&A)
ChatGPTの使い方を教える研修でも助成金は出ますか?
一般的な使い方だけを学ぶ内容だと難しくなりました。令和8年8月3日以降に提出する計画では、職務に直接関連しない訓練や、職業人として共通して必要となる内容は、DX関連であっても対象外とされています。「経理の請求書処理でAIを使う」のように、職務名と作業名を具体的に書いた設計にしてください。
社員が数人しかいない会社でも申請できますか?
できます。対象は雇用保険の被保険者で、人数の下限はありません。ただし申請の前提として職業能力開発推進者の選任と事業内職業能力開発計画の策定が必要です。前掲の調査では8割前後の企業がこれを済ませていないため、まずここから手を付けるのが近道です。
AIツールの利用料も助成の対象になりますか?
なりません。厚生労働省のパンフレットは、AI研修の費用は対象経費だがAIツールの導入費用は対象経費ではないと整理しています。ツールの費用は、デジタル化・AI導入補助金など経済産業省側の制度で検討することになります。
まとめ
- AI研修の費用は、中小企業なら経費の75%と、研修中の賃金1時間1,000円が助成される(人材開発支援助成金・事業展開等リスキリング支援コース)。
- それでも受給したことがある企業は前述の15.3%。知らなかった会社が32.8%、知っていて使わなかった会社が51.9%ある。
- 止まっているのは研修の中身ではなく、推進者の選任と事業内職業能力開発計画という手前の準備。
- 令和8年8月3日以降、職務に直接関連しない研修はDX関連でも対象外。職務名と作業名から設計する。
- 計画届は開始の1か月前まで、支給申請は終了の翌日から2か月以内。案内上の最終年度は令和8年度。
助成金の話は、たいてい「もらえる金額」から始まります。けれど会社を分けているのは金額ではありませんでした。推進者の名前を決めて、育成の計画を1枚書いたかどうか。この2つは今日の午後に終わります。見積もりを取るのは、そのあとで構いません。