求人を出しても、人が来ない
人手不足は、もう景気の波の話ではなくなりました。厚生労働省が2026年8月28日に公表した一般職業紹介状況(令和8年7月分)によれば、7月の有効求人倍率は季節調整値で1.18倍、正社員では1.00倍でした。求職者1人に対して、1つ以上の仕事が空いている状態が続いています。
それでも、多くの中小企業にとって採用は買い手市場ではありません。だとすれば考える順番が変わります。人を採って埋める前提を、いったん外して考える。減らせる作業は減らし、残る仕事に人を配る。その切り替えの道具として、国は補助金を用意しています。
2026年8月18日、第8回公募が始まった
中小企業省力化投資補助金の一般型は、第8回公募を2026年8月18日に開始しました。申請受付は9月中旬、締切は10月中旬、採択発表は2027年2月上旬の予定です。前回の第7回は6月5日開始、7月31日締切でした。おおむね2か月おきに回ってくる制度です。
制度の目的ははっきり書かれています。中小企業省力化投資補助金の公式サイトは「中小企業等の売上拡大や生産性向上を後押しするために、人手不足に悩む中小企業等に対して、省力化投資を支援します。」と明記しています。省力化それ自体はゴールではありません。空いた時間と増えた付加価値を賃上げにつなげるところまでが射程です。
ここは申請の実務にも効きます。「人が足りないので機械を買いたい」だけでは、制度の問いに答えたことになりません。何の作業が何分減り、生産性と給与がどう上がるのか。そこまで書けて計画になります。
カタログ注文型と一般型は、別の制度と考える
カタログ注文型は、事務局に登録された製品から選ぶ方式です。対象は人手不足の解消に効果がある汎用製品とされ、配膳ロボットや自動券売機、検品・清掃の機器が典型です。選ぶだけなので手続きは軽く済みます。裏返せば作り込みはできず、「うちの現場に合わせて組みたい」となった時点で届きません。
一般型は、現場に合わせて設備を導入したりシステムを構築したりする方式です。自由度が高く補助額も大きくなります。その代わり事業計画の作成と、原則2者以上からの相見積もりが必要です。どちらが上位でもありません。減らしたい作業が汎用品で片づくかどうかの一点で選びます。
いくら出るのかは、従業員数で決まる
補助上限額は、業種でも売上でもなく従業員数で決まります。最初に押さえる数字です。
| 従業員数 | 一般型 | カタログ注文型 |
|---|---|---|
| 5人以下 | 750万円(1,000万円) | 200万円(300万円) |
| 6〜20人 | 1,500万円(2,000万円) | 500万円(750万円) |
| 21〜50人 | 3,000万円(4,000万円) | 1,000万円(1,500万円) |
| 51〜100人 | 5,000万円(6,500万円) | 1,000万円(1,500万円) |
| 101人以上 | 8,000万円(1億円) | 1,000万円(1,500万円) |
一般型の補助率は、中小企業が2分の1、小規模企業者・小規模事業者と再生事業者は3分の2です。なおカタログ注文型の金額は2026年3月19日以降の申請分で見直され、5名以下は500万円から200万円へ、6名から20名は750万円から500万円へ引き下げられました。古い解説記事の数字をそのまま信じないでください。
上限額と実際にもらえる額は違う
表の金額は上限であって、その額が出るという意味ではありません。補助されるのは補助対象経費に補助率をかけた金額です。従業員6人の会社が一般型で600万円の設備を入れるなら、補助額は300万円。上限には遠く届きません。上限の大きさに引きずられて、必要以上の設備を検討しないでください。
賃上げと生産性という「約束」
この補助金は、費用の一部を国が持つ代わりに、会社が数字で約束をする仕組みです。一般型の基本要件は2つ。労働生産性の年平均成長率を4.0%以上、1人当たり給与支給総額の年平均成長率を3.5%以上増加させることです。
表1のかっこ内、つまり大幅賃上げ特例を使う場合は約束が重くなります。給与支給総額の年平均成長率をさらに2.5%以上上乗せして合計6.0%以上とし、事業所内最低賃金を都道府県の最低賃金より50円以上高い水準にする必要があります。賃上げの全体像は最低賃金は全国平均1,176円へで整理しています。補助上限が上がるのが先ではなく、払える給与が決まるのが先です。
AIで減る仕事と、設備でしか減らない仕事
同じ人手不足でも、打ち手は仕事の性質で変わります。
情報処理推進機構(IPA)が2026年7月16日に公表した国内企業のDX動向・AI活用動向のポイントは、この違いを数字で示しています。AI導入の効果として「業務が効率化したり迅速化した」と答えた企業は91.6%。一方で「売上や利益が向上した」は3.9%にとどまりました。用途も、要約や翻訳・校正が82.5%、文書・レポートの作成が80.5%と文書の仕事が上位で、生産・物流の計画支援は6.0%でした。1,799社が回答した調査です。
読み取れることは単純です。AIは書類の仕事をよく減らしますが、物を運ぶ・詰める・拭く作業はそのまま残ります。見積書の下書きは今日から減らせます。けれど商品を箱に詰める作業は、良いプロンプトを書いても1秒も短くなりません。ここが設備投資の出番です。棚卸しの手順は『業務棚卸し』シートの使い方にまとめてあります。
3つの制度の使い分け
国の支援制度は用途で分かれています。名前が似て紛らわしいので、表にして並べます。
| 減らしたい作業 | 向いている制度 | 申請の重さ |
|---|---|---|
| 見積書・メール・議事録などの書類仕事 | デジタル化・AI導入補助金 | 軽い |
| 配膳・検品・清掃など汎用機器で片づく作業 | 省力化投資補助金(カタログ注文型) | 軽い |
| 自社の現場に合わせた設備・システム | 省力化投資補助金(一般型) | 重い |
一般型の補助対象経費は機械装置・システム構築費が必須で、その周りに技術導入費やクラウド利用費が付きます。ソフトも対象になり得ますが、機械装置が中心にある前提です。ソフトだけを入れたいなら、この制度ではありません。その場合はデジタル化・AI導入補助金を見るほうが早道です。迷うときは国の無料相談窓口も使えます。
締切から逆算して、今週動く
申請受付の開始は9月中旬の予定。いまは準備期間ですが、待っていてよい時間ではありません。
第1歩は、減らしたい作業を書き出し、1日あたり何分かかっているかを実際に測ること。感覚ではなく分単位の数字にします。第2歩は型の選択です。汎用製品で片づくならカタログ注文型、自社の現場に合わせるなら一般型になります。
第3歩がGビズIDプライムの取得です。中小機構の申請の流れのページも、取得には一定の期間を要するため早めに手続きするよう促しています。締切直前に詰むのは、たいていこの工程です。第4歩は賃上げの数字を置くこと。上限額から逆算して背伸びした数字を置かないでください。
つまずきやすい3つの誤解
①補助金は後払いです。交付決定の前に発注すると対象外になり得ます。②中小機構の申請の流れのページは、必ずしも交付決定を受けた補助額の全額が支払われるわけではないと説明しています。③完了後も5年間の事業実施効果報告が求められます。日程はいずれも予定のため、公式サイトで確認してください。
よくある質問(Q&A)
うちは従業員4人の小さな会社なんですが、こんな補助金でも使えるんでしょうか。
使えます。むしろ補助率の面では有利で、小規模企業者・小規模事業者の一般型の補助率は3分の2になります。上限額は表1の「5人以下」の行です。カタログ注文型の上限は2026年3月19日以降の申請分で引き下げられているため、必ず公式サイトの最新の記載で確かめてください。
AIのソフトを入れたいだけなんですけど、この補助金でいけますか。
この補助金ではなく、デジタル化・AI導入補助金を見るほうが早いです。一般型は機械装置・システム構築費が必須の経費区分で、その周りに技術導入費やクラウド費が付く構成になっています。ソフトウェアだけを入れたい場合は、制度の想定から外れます。機械を入れたうえでそれを動かすシステムを組む形なら、一般型の射程に入ります。
賃上げの約束が守れなかったら、補助金を返すことになるんですか。
取り扱いは公募要領に定めがあるため、最新の公募要領と事務局への確認で判断してください。この補助金は前述の生産性・給与の要件を前提に、完了後も5年間の効果報告を求める仕組みです。背伸びした数字を置かないことが最大の防御になります。
まとめ
- 中小企業省力化投資補助金の第8回公募は2026年8月18日に開始。申請受付は9月中旬、締切は10月中旬の予定。
- 補助上限は従業員数で決まる。一般型は750万円から8,000万円、大幅賃上げ特例で最大1億円。
- IPAの調査ではAI導入効果のうち業務効率化が91.6%、売上向上は3.9%。書類仕事はAIソフト、物を動かす作業は設備と、性質で打ち手を分ける。
- 準備の第一歩はGビズIDプライムの取得。意思決定を待たずに動かせて、時間がかかる工程です。
補助金の記事はどうしても金額の話になります。けれど決め手になるのは、いくらもらえるかではなくどの作業を何分減らすと決めたかです。その1行が書けていれば事業計画は書けます。書けていなければ、上限額の大きい制度を選んでも申請書は埋まりません。今日できるのは、作業を1つ選んで時間を測ることです。