法律の名前から「下請」が消えた
長く「下請法」と呼ばれた法律が、2026年1月1日から別の名前で動いています。略称は中小受託取引適正化法、通称は取適法(とりてきほう)(改正法は2025年5月16日成立)。
変わったのは名前だけではありません。政府広報オンラインの2026年1月から下請法が「取適法」に!は、「下請」が上下関係を連想させる側面があったため用語も見直したと説明しています。親事業者は委託事業者へ、下請事業者は中小受託事業者へ、下請代金は製造委託等代金へと置き換わりました。
取適法で変わった5つのこと
公正取引委員会の中小受託取引適正化法(取適法)関係のページは、主な改正事項として従業員基準の追加、特定運送委託の追加、面的執行の強化、協議に応じない一方的な代金決定の禁止、手形払等の禁止の5つを挙げています。背景にあるのは価格転嫁です。上がったコストを取引価格に反映できる商慣習が要る——その一点に向けた組み替えでした。
自社は「委託事業者」になるのか
対象になるかは、取引の内容と規模要件の2つがそろうかで決まります。取引の内容は、製造・修理・情報成果物作成・役務提供の4類型に、今回特定運送委託が加わりました。看板の製作、機械の修理、チラシのデザイン、自社商品の配送が該当し得ます。
規模要件は、資本金に加えて従業員数でも判定されます。中小企業庁の改正ポイント説明会資料によれば、製造委託等では従業員300人超が委託事業者、役務提供委託等では100人が境目。いずれかの基準を満たせば対象です。
| 取引の類型 | 委託事業者(発注側) | 中小受託事業者(受注側) |
|---|---|---|
| 製造・修理・プログラム・運送 | 資本金3億円超 | 資本金3億円以下 |
| 同上(中間の区分) | 資本金1千万円超3億円以下 | 資本金1千万円以下 |
| 同上(従業員基準) | 従業員300人超 | 従業員300人以下 |
| その他の役務提供等 | 資本金5千万円超 | 資本金5千万円以下 |
| 同上(従業員基準) | 従業員100人超 | 従業員100人以下 |
表を見ると、多くの中小企業が「受注側でも発注側でもある」と分かります。守られる立場と、守る立場を同時に持つ。ここが見落とされがちです。
相手の従業員数を調べる義務はない
中小企業庁の資料は、相手方の従業員数を確認する義務はないと整理しています。ただし中小受託事業者に当たらないと判別できない場合は、本法に準拠して対応することが望まれるとされています。
4つの義務と11の禁止行為
義務は、発注内容の明示、記録の2年保存、受領日から60日以内のできる限り短い期間で支払期日を定めること、遅れたときの年率14.6%の遅延利息の4つです。60日の起算点は「受領した日」であって、月末の締め日でも検査に合格した日でもありません。
禁止行為は11項目。受領拒否、支払遅延、減額、返品、買いたたき、購入・利用強制、報復措置などに加え、協議に応じない一方的な代金決定が並びます。中小企業庁の資料は、相手の了解を得ていても、違法性の意識がなくても、触れる行為は違反になると説明しています。
新しく禁止された2つの行為
1つ目は手形払等の禁止です。従来は支払日までの60日に手形サイト60日が乗り、現金化まで120日かかる取引もありました。電子記録債権も、支払期日までに満額の現金を得ることが困難なものは支払遅延に当たると整理されています。
2つ目が協議に応じない一方的な代金決定の禁止です。中小企業庁の資料は運用基準を引き、代金を決める行為について「代金を引き上げ、又は引き下げることのほか、据え置くことも含まれる」と明記しています。
ここが実務上いちばん重い一文です。値段を据え置くことも「決定」に当たるのですから、「今年は何も変えていないから協議は不要」という理屈は通りません。求めを無視したり先延ばしにする場合も含まれます。
発注書と2年分の記録
義務の中心は発注内容の明示です。必須の記載事項は、双方の名称、委託日、給付の内容、受領期日、受領場所、代金の額、支払期日など該当分を含め12項目。金額や納期が決まらないときは、未定のままにせず定められない理由と、定める予定の期日を書くのが勘所です。
明示の方法は使いやすくなりました。政府広報オンラインは、電子メール等による明示は中小受託事業者の承諾がなくても可能になったと説明しています。ショートメッセージやSNSも使えます。
もうひとつの義務が記録の作成・保存です。必要な記載事項は18項目、保存は2年です。効いてくるのは価格協議の経過で、「いつ、誰から、どんな求めがあり、こちらが何を説明し、どう決まったか」を残せるかが説明力になります。整え方は会議メモをAIで議事録に整える方法にまとめてあります。
AIに任せる仕事と、危ない3つ
AIに任せてよいのは、発注書のひな形の下書き、価格協議の案内文、社内向けの説明メモ、協議メモの整理です。いずれも取引条件を特定しない形式の作業。任せてはいけないのは、対象に当たるかの判定、支払期日の最終確認、価格の決定です。法令の当てはめは、AIがもっとも自信ありげに間違える領域です。
危ないのは3つ。第一に、価格協議の求めを放置すること。返事をしないこと自体が違反に当たり得ます。第二に、手形払を続けること。第三に、AIが作った条文解説をそのまま社外へ渡すこと。AIの回答をそのまま使ってはいけない理由と確認手順もあわせて確認してください。
「知らなかった」は通用しない
取適法は、故意でなくても手続の不備がそのまま違反になり得る仕組みです。やる気の問題ではなく、書式と記録の問題として捉えるほうが、実務は前に進みます。取引先名や単価をAIに貼らないことも徹底してください。
受注する側になったときの言い方
自社が受注側に立つ場面もあります。協議を求めるときは、感情ではなく事実を並べます。原材料費や人件費がいつからどれだけ上がったか、いまの単価が決まったのはいつか、希望する改定幅はいくらか。この3点を紙で渡すだけで土台ができます(値上げのお願いをAIで下書きする)。
相談先も知っておいてください。政府広報オンラインは、公正取引委員会の相談窓口としてフリーダイヤル0120-060-110を案内し、相談内容が委託事業者に知られることはありませんと説明しています。
発注側の準備は4歩です。外注先を資本金つきで一覧にする、必須項目が入った発注書のひな形を1つ作る、発注書と納品・支払の記録を同じ場所にまとめる、価格の話が出た日は5行だけ残す。この5行がいちばん安い保険です。
そのまま使えるプロンプト
角かっこを置き換えてください。発注書のひな形と、価格協議の記録シートが出てきます。
条件2が肝です。「これは違反です」と書かせない。判定は人と専門家の仕事。AIに求めるのは書式づくりまでです。
よくある質問(Q&A)
うちは資本金1,000万円の小さい会社ですが、それでも「発注する側」として規制されるんですか。
取引の相手方によっては規制されます。製造委託等では、資本金1千万円超3億円以下の会社が資本金1千万円以下の会社や個人事業主に発注する場合に委託事業者となります。相手が個人のデザイナーや小さな工房なら、資本金1,000万円の会社でも委託事業者に当たり得ます。
今年は原価も変わらないので単価を据え置いたんですが、これも協議が必要ですか。
相手から協議の求めがあった場合は必要です。中小企業庁の資料は、代金の「決定」には据え置くことも含まれると整理しています。つまり「何も変えていない」ことも決定の一種。根拠を説明したうえで据え置く判断自体は否定されていません。
発注書をメールで送るだけでいいんですか。紙で渡さないと駄目でしょうか。
電子メール等で問題ありません。今回の改正で、中小受託事業者の承諾がなくても電磁的方法で明示できるようになりました。ただし相手から書面の交付を求められたときは、遅滞なく渡す必要があります。ひな形から複製する運用にしてください。
まとめ
- 下請法は2026年1月1日に中小受託取引適正化法(取適法)へ。資本金に加えて従業員300人・100人の基準が加わり、特定運送委託も対象になった。
- 委託事業者の義務は4つ。発注内容の明示、記録の2年保存、受領日から60日以内の支払期日、年率14.6%の遅延利息。禁止行為は11項目ある。
- 新設は手形払等の禁止と、協議に応じない一方的な代金決定の禁止。据え置きも「決定」に含まれるため、協議の記録が会社を守る。
法改正の記事は条文の話に見えます。けれど現場で起きるのは、電話口の「今年も同じ単価でお願いします」という一言です。違いは法律の知識量ではなく、書式と手順が用意してあったかだけです。
ある製造業の会社で、外注先の個人事業主から「単価を見直してほしい」と電話があり、担当者が「持ち帰ります」と答えたまま2か月が過ぎたそうです。忙しさの中で、返事が要る案件が「返事をしない案件」に変わっていっただけです。
だから、決めるのを速くする必要はありません。「受け取りました。◯日までに回答します」と返すだけで状況は変わります。その一文の下書きも記録の整理も、AIなら数分です。整えるのはAI、決めて伝えるのは人。ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
── AutoAIPlatform編集部