「よく書けた書類」が増えた本当の理由
この一、二年で、採用担当をしている方から同じ話をよく聞くようになりました。応募書類の平均点が、明らかに上がっているというのです。文章のねじれがなく、志望動機は会社の事業内容をきちんと踏まえていて、自己PRには具体的なエピソードが並ぶ。以前なら「この人は文章がしっかりしている」と目を留めたレベルの書類が、束になって届く。
喜ばしいことのように聞こえますが、現場の反応はむしろ逆です。全員がよく書けていると、誰を選べばいいのか分からなくなるからです。差がつかない。順位がつけられない。かといって全員に会う時間もない。そうして、書類選考という工程そのものが機能しなくなりつつあります。
理由ははっきりしています。応募者が生成AIを使って書類を整えているからです。これは不正でも裏技でもなく、いまや就職・転職活動の標準的な準備方法になりました。まずは、その実態を数字で確認しておきましょう。事実を知らないまま「最近の応募者は……」と嘆いても、採用は前に進みません。
数字で見る、AI前提になった採用
マイナビキャリアリサーチLabが2026年5月26日に公表した「2027年卒 大学生キャリア意向調査(4月)」は、2027年3月卒業予定の大学生・大学院生1,258人に、2026年4月25日から30日にかけて聞いたものです。ここで就職活動でAIを利用したことがある学生は84.9%と報告されています。もはや例外的な行動ではありません。
使い道も具体的です。同じ調査では、エントリーシートの推敲が71.8%で最も多く、面接対策が38.4%と続きます。理由の第1位は「作業時間の短縮」で54.3%。興味深いのは、約3割にあたる28.8%が「自分だけの考えで決めるのは不安だから」と答えている点です。効率化の道具であると同時に、一人で悩まないための相談相手としても使われているわけです。AIを相談相手にする使い方そのものは、AIを壁打ち相手にする記事でも取り上げています。
同じ調査では、AIによる面接を経験した学生が28.2%いること、そしてAI面接だと知ると志望度が下がると答えた学生が51.1%にのぼることも示されています。応募者はAIを使うけれど、自分がAIに評価されるのは歓迎していない。この非対称は、採用する側が心に留めておくべき感覚です。
企業の8割以上は、もう容認している
では、企業側はこの状況をどう見ているのでしょうか。マイナビキャリアリサーチLabが2026年7月22日に公表した「2027年卒 企業新卒採用活動調査」が参考になります。2026年6月3日から20日にかけて3,590社が回答し、そのうち93.3%が非上場企業——つまり中小企業を多く含むデータです。
結果は明快でした。学生の生成AI利用について、「使い方をよく考えたうえで慎重に利用すべき」が76.6%、「積極的に活用してほしい」が8.2%で、合わせて84.8%が肯定的。反対に「就職活動でAIを利用すべきではない」は9.0%にとどまり、前年より減っています。禁止しようという空気は、企業側にはもうありません。
注目したいのは、企業が取っている対応策です。最も多いのが「面接での質問内容を工夫する」で36.2%。書類に書かれた内容とは違う角度から聞いたり、深く掘り下げたりする、という意味です。次が「エントリーシートの内容を精査する」で15.4%。そして「対応の必要性を感じていない」と答える企業は、年々減り続けています。多くの会社が、書類ではなく面接の側を作り替え始めているのです。
AIを使ったかどうかを問い詰めない
「これはAIで書きましたか」と面接で確認するのは、あまり意味がありません。使っていて当たり前ですし、聞かれた側は身構えます。見るべきは、その内容を本人が自分の言葉で語れるかどうかだけです。道具の使用ではなく、中身の理解を確かめましょう。
「書類選考をやめる」という選択をした会社
この変化に対して、思い切った判断をした企業もあります。ロート製薬は2025年12月15日、2027年4月入社の新卒採用から、エントリーシートによる書類選考を廃止すると発表しました。代わりに導入したのが「Entry Meet(エントリーミート)」という仕組みです。
内容はシンプルで、選考の最初のステップを人事担当者との15分間の対話にする、というもの。2026年1月16日から、札幌・仙台・東京・名古屋・金沢・大阪・広島・福岡の全国8拠点で、原則として対面で実施されました。同社は廃止の理由として、生成AIの普及によって応募書類の内容が均質化し、一人ひとりの個性を書類から読み取ることが難しくなった点を挙げています。この発表は日本経済新聞など複数のメディアでも報じられました。
もちろん、これは知名度のある大手企業だからできる面もあります。全国8拠点で会場を用意し、応募者一人ひとりと15分話す体力は、どの会社にもあるわけではありません。それでも、「書類で選ぶのをやめて、短い対話から始める」という発想そのものは、規模に関係なく使えます。むしろ、応募者数が数十人規模の中小企業のほうが、実行のハードルは低いはずです。
見極めの手間は、静かに増えている
「書類が全部よくできているだけなら、困らないのでは」と思われるかもしれません。しかし、実際には採用の工程そのものが重くなっています。米国の人材サービス大手ロバート・ハーフが2026年3月10日に公表した調査(2025年11月に2,000人超の採用管理職・人事責任者を対象に実施)では、67%がAI生成の応募書類の確認によって採用プロセスが遅くなったと答えました。20%は「2週間以上の遅れ」と回答しています。
さらに、84%が人事チームの業務量が増えたと感じており、65%が応募者のスキルを見極めるのが難しくなったと答えています。書類だけを見ていると、経歴やスキルが誇張されている場合にそれを見抜けない、という指摘です。米国の調査なので日本にそのまま当てはまるわけではありませんが、起きていることの方向は同じでしょう。
ここで押さえておきたいのは、悪いのはAIでも応募者でもないということです。応募者は限られた時間で少しでも良い書類を出そうとしているだけで、それは昔から変わりません。変わったのは、その手助けをする道具の性能です。だとすれば、対応すべきはこちらの選び方のほうです。AIで作った文章をどう読むかという視点は、AIっぽい文章と信用の記事にも通じます。
書類の先を見る4ステップ
では、具体的にどう進めればよいのでしょうか。中小企業でもそのまま実行できる形に落とすと、図2の4ステップになります。
ステップ1は、書類で落とす前に、短く話す機会をつくることです。15分でかまいません。オンラインでも十分です。書類を読み込む時間を、そのまま会話の時間に振り替えるイメージです。書類を10通じっくり読む30分より、5人と15分ずつ話すほうが、はるかに多くのことが分かります。
ステップ2は、書類には書けない質問をすること。詳しくは次の章で扱います。ステップ3は、その場で小さな実技を一つやってもらうことです。営業職なら自社の商品を1分で説明してもらう、事務職なら簡単な文章を口頭で要約してもらう。難しい課題は要りません。準備できない場面での反応が見たいだけです。そしてステップ4が、断り方まで含めて設計しておくこと。ここは後半で詳しく述べます。
書類中心の採用と対話中心の採用
同じ人数を採用するにしても、どこに時間をかけるかで結果は変わります。図3で見比べてみましょう。
右側に共通しているのは、「本人にしか答えられないこと」を見に行っている点です。文章のうまさはAIが底上げできますが、話の中身と反応の速さは、その人のものです。経歴の書き方は整えられますが、「その仕事でいちばん困ったことは何でしたか」への答えは、経験した人しか語れません。
誤解してほしくないのは、書類を読まなくていいという話ではないことです。書類は会話の材料として引き続き必要です。変わるのは役割です。「ふるいにかける道具」から「何を聞くかを決める下調べ」へ。この役割の変更を、採用に関わる全員で共有しておくと、面接の質が揃います。求人票そのものの書き方は、求人票をAIで書き直す記事にまとめています。
AIでは書けない質問のつくり方
マイナビの調査で企業の対応策の1位だった「面接での質問内容を工夫する」を、実際にどうやるか。考え方は一つで、事前に準備できない質問を混ぜることです。
たとえば、書類に「チームで課題を解決した経験」と書いてあったとします。ここで「もう少し詳しく教えてください」と聞くと、準備してきた答えが返ってきます。そうではなく、「そのとき、うまくいかなかったことは何ですか」「もう一度やるとしたら、どこを変えますか」と聞く。失敗と反省は、実体験がないと具体的に語れません。
他にも使える型があります。「その判断を、当時いちばん反対していたのは誰でしたか」——人間関係の記憶は作り物では出てきません。「うちの会社のどこが、一番合わないと思いますか」——きれいな志望動機の裏側を見る質問です。「今日ここに来る前に、うちについて何を調べましたか」——調べ方そのものに、その人の仕事の進め方が出ます。
もう一つ大事なのは、質問を面接官の間で揃えておくことです。人によって聞くことがバラバラだと、比較ができません。5問だけでいいので共通の質問を決め、残りは自由に。この形なら、面接に慣れていない社員が同席しても機能します。質問案づくり自体をAIに手伝わせる方法は、面接の質問案をAIで作る記事に手順があります。
AI検出ツールの判定を根拠に落とさない
「AIが書いた文章かどうか」を判定するツールがありますが、誤判定は珍しくありません。日本語では特に精度が安定しません。人の人生に関わる選考の可否を、こうしたツールのスコアだけで決めるのは危険です。判定結果は参考にとどめ、判断は必ず対話で行ってください。
中小企業だからこそ強い、この戦い方
書類より対話、という方向に採用が動くとき、実は中小企業のほうが有利です。理由は三つあります。
第一に、応募者数が現実的な規模だからです。何千通も届く大企業と違い、数十人なら全員と15分話すことは十分に可能です。大企業が仕組みで解決しなければならない問題を、小さな会社は手作業で越えられます。
第二に、意思決定が速いことです。面接して良いと思ったその日に、社長が決められる。応募者が複数社を並行して受けている現在、この速さはそれ自体が競争力になります。ロバート・ハーフの調査で「2週間以上遅れた」という声があったように、遅さは機会損失に直結します。
第三に、会う人が、そのまま一緒に働く人だという点です。人事部を経由せず、配属予定の現場責任者が最初から出てくる。応募者から見れば、入社後の実像がつかみやすい。これは大企業にはまねしにくい強みです。きれいな書類で勝負する土俵から降りて、会って話す土俵に持ち込む——それが中小企業の採用戦略になります。
断り方が、次の応募者を連れてくる
忘れられがちなのが、お断りの連絡です。応募者が1社あたり何十通と応募できるようになった結果、連絡が来ないまま終わる「サイレントお祈り」も増えました。しかし、これは会社にとって割に合いません。
断られた応募者は、その体験を人に話します。口コミサイトにも書きます。選考の途中で放置されたという記憶は、驚くほど長く残ります。しかも、その人が数年後に別の立場——取引先の担当者やお客様として——現れる可能性は、地域に根ざした中小企業ほど高いのです。
やることは簡単です。短くていいので、必ず返す。「今回はご縁がありませんでしたが、お時間をいただきありがとうございました」の一文で構いません。文面づくりに悩むなら、角を立てずに断る連絡文の記事の型がそのまま使えます。落とし方の丁寧さは、採用の評判をつくる——ここに手を抜かない会社は、翌年の応募者の質が変わってきます。
自社がAIを使う側になるときの作法
ここまで「応募者がAIを使う」話をしてきましたが、採用する側もAIを使えます。求人票の下書き、質問案の作成、面接メモの整理。これらは大いに活用すべきです。ただし、越えてはいけない一線があります。
それは、合否の判断そのものをAIに委ねないことです。書類の要約や整理はAIに任せてよいのですが、「この人を落とす」という判断は人がしてください。理由は二つあります。一つは、AIの判断根拠を応募者に説明できないこと。もう一つは、学習データに含まれる偏りが、特定の属性の人を不利に扱う恐れがあることです。
もう一点、AIを使うならその事実を隠さないのが得策です。前述のマイナビの調査で、AI面接だと志望度が下がると答えた学生が51.1%いたことを思い出してください。黙って使って後から知られるほうが、印象は悪くなります。「一次の書類整理にはAIを使っていますが、判断はすべて人が行っています」と一行書いておく。この透明さが信頼を生みます。考え方はお客様にAI活用を伝える記事と同じです。応募者の個人情報をAIに入力する際の注意は、入力してはいけない情報の記事で確認してください。
採用を始める前のチェックリスト
次の募集を出す前に、この5点を確認しましょう。
- 書類選考で落とす前に、短く話す機会を設ける設計になっている
- 面接官の間で共通の質問を5問決めてある
- 準備できない質問(失敗・反省・その場の実技)を入れている
- 不採用の連絡を必ず出す運用と文面が用意されている
- 自社がAIを使う範囲を決め、合否判断は人が行うと明記した
面接の質問を組み立てるときは、次のプロンプトがそのまま使えます。[ ]に自社の情報を入れてください。
よくある質問(Q&A)
応募書類にAIを使うことを、募集要項で禁止してもよいですか?
おすすめしません。守られているか確認できないルールは、正直な人だけが損をします。マイナビの調査でも「利用すべきではない」とする企業は9.0%まで減りました。禁止するより、「書類の内容について面接で詳しくお聞きします」と伝えるほうが、実効性があります。
全員と話す時間がありません。どこから手をつければ?
まず15分のオンライン面談から始めてください。移動時間がないぶん、1日に数人こなせます。それも難しければ、書類とあわせて2〜3問の簡単な質問に音声か動画で答えてもらう方法もあります。文章より、話し言葉のほうが本人の言葉が出やすくなります。
AIを使いこなす応募者は、むしろ評価すべきでしょうか?
仕事でAIを使う職種なら、立派な能力の一つです。ただし「使えること」自体より、何のためにどう使ったかを聞いてください。目的を説明できる人は、入社後もAIを業務改善に活かせます。ITが苦手な社員に広げる記事とあわせて、社内の底上げも考えましょう。
まとめ
- 就活生の84.9%がAIを利用し、企業の84.8%はそれを容認している。
- 書類の文章では差がつかない。短い対話と、準備できない質問に切り替える。
- 合否の判断は人が行い、断り方まで丁寧に。それが次の応募者を呼ぶ。
応募書類がAIで整えられていること自体は、責めるようなことではありません。私たちが日々の仕事でAIに下書きを頼むのと、何も変わらないからです。変わったのは、文章のうまさが、その人の能力を映す鏡ではなくなったという一点だけです。だとすれば、鏡を取り替えればいい。会って、話して、答えに詰まる瞬間や、思わず前のめりになる話題を見る。それは、AIが登場するずっと前から、小さな会社がいちばん得意にしてきたやり方でもあります。採用は、書類の審査ではなく、人と人の対話に戻ろうとしているのかもしれません。次の募集から、書類を読む時間を15分の会話に振り替えてみてください。
ある小さな会社の社長が、こんな話をしてくれました。応募書類を10通並べたら、全部が同じくらいよく書けていて、選べなかった。困った末に、全員に電話をかけて5分ずつ話した。そうしたら、「書類では3番目だった人が、話すといちばん良かった」と。結局その人を採用して、今も活躍しているそうです。
この話を聞いたとき、採用の本質は何も変わっていないのだと感じました。AIが登場して変わったのは、下書きの品質が誰でも一定以上になったこと。それだけです。人を見る力が要らなくなったのではなく、書類という近道が使えなくなっただけなのです。近道がなくなれば、少し歩く距離は伸びます。けれど、その道の先で会う人のことは、以前よりずっとよく分かるようになります。中小企業は、もともとその歩き方をしてきた会社です。ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
── AutoAIPlatform編集部