「これ、うちのチラシに使って大丈夫ですか」
担当者が画像生成AIで背景のイラストを用意してきました。ところが印刷に回す直前、誰かが言います。「これ、どこかで見た絵に似ていませんか」。会議室が静かになります。誰も答えを持っていないからです。
不安の原因は、情報が無いことではありません。情報が多すぎて、自分に関係のある部分がどこか分からないことです。訴訟のニュース、SNSの主張、事業者向けのガイドライン。それらは全部ちがう場面の話をしています。
3つの場面に分けて考える
文化審議会が2024年3月15日に取りまとめた「AIと著作権に関する考え方について」は、①AI開発・学習段階 ②生成・利用段階 ③AI生成物が「著作物」に当たるかどうかの3つに整理しています。この3つが混ざったまま議論されるから、話が噛み合わなくなります。
「AIは他人の作品を無断で学習しているから使うべきでない」は①の話、「AIで作ったものに著作権はあるのか」は③の話です。市販のAIサービスを業務で使う会社が向き合うべきなのは、②と③。この整理ができるだけで、必要以上に怖がることも避けられます。
①について触れておくと、著作権法第30条の4は思想や感情を享受することを目的としない利用——AIの学習データとして集めることなど——は原則として許諾なく行えると定めています。ただし文化庁は、情報解析用に有償で販売されているデータベースを無断で複製する場合などは「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」に当たりうると整理しています。これはAIを開発する側の話です。
侵害になるのは、2つがそろったとき
本題は②です。AIで作ったものを公表・販売する場合、侵害かどうかは通常の著作権侵害とまったく同じ基準で判断されると文化庁は明言しています。必要な要件は二つ。類似性(創作的表現が共通していること)と、依拠性(既存の著作物をもとに作ったといえること)がそろって、はじめて侵害になります。
裏を返せば、既存の著作物と似ていないものについては、特段の許諾を得る必要はありません。挨拶文、社内資料、議事録の要約——大半は類似性の問題が起きません。ただし既存の著作物が学習に使われていた場合、利用者が認識していなくても通常は依拠性があったと推認されるとされています。「知らなかった」だけでは守りになりません。
「似ている」の意味に注意
ここでの類似性は雰囲気が似ているという意味ではなく、創作的な表現そのものが共通しているかを指します。同じテーマや構図の発想は、それだけでは判断に直結しません。
「作る」と「外に出す」で判断が変わる
実務上とても重要な区別があります。文化庁は生成そのものと、生成物の利用とを分けて考えるよう促しています。企業内部で検討の過程で生成する場合は権利制限規定の範囲内であれば適法とされる一方、配信や複製物の譲渡といった「利用」の段階になると範囲外となる場合が多いとされています。
つまり、社内で試している段階では問題にならなかったものが、外に出した瞬間に問題になりうる。判断の分かれ目は、社内にとどめるか、社外に出すかです。配る前、載せる前、売る前に一度止まる。それだけです。
| 場面 | 具体例 | 確認の重さ | やること |
|---|---|---|---|
| 社内で試す | 下書きを作る/表現を比べる | 軽い | 自由に試してよい。プロンプトだけ残す |
| 社内で配る | 社内報・マニュアル・研修資料 | 中くらい | 固有名詞やキャラクター名を入れていないか確認 |
| 社外に出す | 自社サイト・チラシ・SNS・提案書 | 重い | 似ていないかを画像検索・文章検索で確認 |
| 売る・商標にする | 商品パッケージ・ロゴ・有料販売物 | 最も重い | 専門家に相談。生成過程の記録を必ず保存 |
業務で使う会社が確かめる5つ
文化庁著作権課が2024年7月31日付で公表した「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」が業務利用者に挙げているのは、利用規約を事前に確認する/社内ルールを策定し侵害時の対応まで想定する/使う前に検索で類似を確認する/生成過程を残すの4点です。
従業員への著作権教育にも触れられています。とくに「生成物が既存の著作物を侵害するか」と「生成物に著作権が発生するか」を混同しないこと。この二つは別の問題で、現場ではよく混ざります。
全部やれば免責、ではありません
チェックリスト自体に、これらを全て実施すれば法的責任を問われないという意味ではないと明記されています。逆に、全てできていないから直ちに責任が生じるわけでもありません。目的はあくまでリスクを下げることです。
AIが作ったものに、自社の権利はあるのか
三つ目の論点です。文化庁の整理では簡単な指示で生成ボタンを押しただけのものは著作物に該当しないとされます。一方、人が創作的に表現するための「道具」としてAIを使ったと認められれば、その利用者が著作者になる。判断されるのは、創作意図と創作的寄与の二点です。
どこまでやれば創作的寄与になるのか。詳細な指示は評価される可能性を高めますが、長いだけの指示は別。回数も影響しませんが、確認して指示を修正しながら試行を繰り返した場合は認められる場合がある——見て直したかどうかです。最も分かりやすいのが加筆・修正で、人が創作的表現といえる加筆・修正を加えた部分については、通常、著作物性が認められます。
なお作風がアイデアである場合には、共通していても著作権侵害とはなりません。著作権法が保護するのは創作的表現であって、アイデアは保護しないからです。実務としては特定の個人名や他社名を挙げて「そっくりに」と指示するのは避けるのが賢明です。
いま訴えられているのは誰か/困らないための4手順
ニュースの見出しだけを見ていると、AIを使うこと自体が訴訟リスクのように感じられます。2025年8月7日、読売新聞グループ本社がAI検索サービスの米Perplexity社を著作権侵害で提訴しました。訴状によれば読売新聞オンラインの記事11万9,467本の情報を取得・複製したとされ、請求は約21億6,800万円です。
ここで確認したいのは、争われているのはAIサービスを提供する側の行為だという点です。AI検索を使った一般の会社が訴えられているわけではありません。法律論はまだ動いている途中で、だからこそ現時点の考え方に沿って手堅く運用する価値があります。
第一に、作り始める前に用途を決める。第二に、文章検索・画像検索にかける。第三に、人が加筆・修正する——品質も権利も、ここで確保されます。第四に、プロンプトと修正の経過を残す。この4つは、AIが登場する前から、まともな仕事のやり方として通用してきたことでもあります。
そのまま使えるプロンプト
社内ルールのたたき台を作るためのプロンプトです。角かっこを自社の情報に置き換えて使ってください。
よくある質問(Q&A)
AIで作った画像を自社サイトに載せたら、あとから「似ている」と連絡が来ました。どうすればよいですか。
まず該当箇所の公開を止め、いつ・どのツールで・どんな指示で作ったかの記録を集めてください。文化庁の「AIと著作権について」のチェックリストでも、侵害が生じた場合の対応をあらかじめ想定しておくことが挙げられています。そのうえで弁護士など専門家に相談してください。
AIに書かせた自社サイトの文章を、他社にコピーされました。文句は言えますか。
その文章に著作物性が認められるかどうかによります。簡単な指示で出しただけの文章は著作物に当たらないと考えられており、その場合は著作権を根拠に主張することが難しくなります。一方、具体的な指示を重ね、自社の事実を加筆・修正していれば、少なくともその部分については著作物性が認められ得ます。
お客様の写真をAIに読み込ませて加工するのは問題ありませんか。
著作権とは別に、肖像権や個人情報の問題が生じます。撮影者との関係では著作権、写っている人との関係では肖像権、というように関わる権利が複数あります。撮影時に利用範囲の同意を得ているか、使うサービスの規約を確認してください。
まとめ
- 侵害になるのは、既存の著作物との「類似性」と「依拠性」がそろったとき。似ていなければ、著作権法上は自由に使える。
- 作品名やキャラクター名をプロンプトに書かない、外に出す前に検索で似た作品を確かめる。この2つで多くのリスクは避けられる。
- AIが自動で出しただけのものに著作権は生じにくい。人が具体的に指示し、加筆・修正した部分が自社の資産になる。
著作権と聞くと専門家の領域に思えますが、業務でAIを使う会社に求められていることは、驚くほど常識的です。他人のものを真似しようとしない。出したものを一度確かめる。自分の手を入れる。経過を残しておく。新しい技術に新しい倫理が必要になったわけではなく、これまでの仕事の作法を新しい道具にも当てはめるだけです。
文化庁の資料を読み返していて、意外に思ったことがあります。「AI生成物であることによって一律に、著作物に該当する/しないが決まるものではない」とわざわざ注記されている点です。AIか人間かという入口で線を引くのではなく、その都度、人がどれだけ関わったかを見る。ある意味で面倒な、しかし誠実な立て付けだと感じました。
今日のところは、社内で使っている生成AIの利用規約を一つだけ開いて、「他人の著作物の入力」について何が書かれているかを確かめてみてください。5分で終わります。やることが増えたわけではなく、順番が一つ入れ替わっただけです。ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
── AutoAIPlatform編集部