育成の悩みで最も多いのは「教える人」

厚生労働省が2026年7月31日に公表した令和7年度「能力開発基本調査」は、常用労働者30人以上の企業・事業所が対象です。人材育成に何らかの問題があるとした事業所は80.1%でした。

同調査の結果の概要は、問題点として「指導する人材が不足している」(59.5%)の割合が最も高いと明記しています。「人材を育成しても辞めてしまう」が51.6%、「人材育成を行う時間がない」が45.5%で続きます。

人材育成に関する問題点の内訳。指導する人材が不足している59.5%、人材を育成しても辞めてしまう51.6%、人材育成を行う時間がない45.5%、金銭的余裕がない14.3%、方法がわからない10.0%。厚生労働省 令和7年度能力開発基本調査より。
図1|人材育成に関する問題点(複数回答)

注目したいのは下位の項目です。「育成を行うための金銭的余裕がない」は14.3%、「人材育成の方法がわからない」は10.0%でした。お金や方法より、教える人と時間が詰まっていると読めます。AIの研修でも事情は同じです。教材は無料でも手に入りますが、自社の仕事に当てはめて教える人は、社内で用意するしかありません。

足りないのは開発者より「現場の推進役」

情報処理推進機構(IPA)の「DX動向2026」は、2026年4〜6月に実施され、1,799社が回答した調査です。AIの導入・運用上の課題では「専門人材が不足している」が50.1%で最多でした。

ただ「専門人材」の中身には注意が必要です。同報告書によると、先端的なAIの研究者は「自社には必要ない」が56.7%です。会社の半数以上は、AIを作る人を求めていません。

一方で同報告書は、不足の回答率が高い人材として「現場の知見と基礎的AI知識を持ち、自社へのAI導入を推進できる従業員」を挙げたと明記しています。不足しているとの回答は69.6%で、十分にいるは2.0%でした。つまり多くの会社が探しているのは、仕事をよく知り、AIの基礎も分かる社員です。この人材は採用するより、今いる社員から育てるほうが現実的です。

教え役は、誰を選べばいいのか

選ぶ基準は、ITの得意さではありません。現場の仕事を説明できることを第一に見ます。パソコンに詳しい人に任せると、操作の話が中心になりがちです。社員が知りたいのは、自分の仕事のどこで使うかです。

次の3点がそろう人を探してください。1つ目は、社内の複数の仕事を知っていること。2つ目は、聞かれたときに嫌な顔をせず、相手の言葉で説明できること。3つ目は、「分からないので調べます」と言えることです。AIは変化が速いので、全部を知っている人はいません。

役職は問いません。ベテランの事務担当者でも、若手でも構いません。年の離れた社員に教える場面があるなら、60代・70代の社員に教える伝え方も参考になります。指名するときは「AI担当」より、「みんなより少し先に試す係」と伝えると、引き受ける側の気が楽になります。

教え役の仕事と、社長が持つ仕事

「詳しい人に任せる」と「教え役を置く」は別のものです。前者は質問も判断もその人に集まります。後者は、教える仕事だけを渡し、決める仕事は経営側に残します。

詳しい人に任せる場合と教え役を置く場合の比較。質問はその人が全部答える→質問集に貯めて共有。空き時間で対応→業務の時間として確保。ルールも本人が判断→ルールは社長が決める。本人が辞めると止まる→2人目に引き継げる。
図2|「詳しい人に任せる」と「教え役を置く」の違い
表1|AIの社内教育で、誰が何を受け持つか
担当受け持つこと持たせないこと
社長・経営者目的の説明、ルールの決定、時間の確保操作の細かい指導
教え役使い方の試行、勉強会、質問集の更新ルールの最終判断、事故の責任
各社員自分の仕事で試す、結果を確かめる確認なしの社外送付
外部の講師・教材基礎知識、最新動向の補足自社の仕事への当てはめ

IPAの同報告書では、AIに理解がある経営層の不足も39.0%ありました。社長が詳しくなる必要はありませんが、何のために使うかを語るのは社長の役目です。入り口は社長がAIを使わない会社の壁で扱っています。

教え役を育てる4つの手順

教え役を育てる4歩。1.1人選んで時間を渡す。2.自分の仕事で先に試す。3.15分の勉強会を開く。4.質問集を作り2人目へ。
図3|教え役を育てる4歩

手順1は、社員の前で役割を伝えることです。週に何分使ってよいかを、社長の口から示します。手順2は、教え役が自分の仕事で1か月ほど試す期間です。うまくいった例と失敗した例を、同じ数だけ残します。基礎知識は国の無料教材を使う方法で補えます。

手順3は、15分の勉強会です。題材は自社の仕事を1つだけにします。全体の組み立ては基本カリキュラムの記事が使えます。手順4では、出た質問を社内FAQに貯め、同じ質問に2回答えない状態を作ります。慣れてきたら、勉強会の進行を2人目に任せます。

時間と費用はどのくらいかかるのか

最初の目安は、教え役の準備に週30分、勉強会に月1回15分です。統計に基づく基準ではなく、通常業務を止めずに続けるための提案です。少なく感じるかもしれませんが、カレンダーに入れて業務として扱うことのほうが長さより大切です。

費用は、無料の教材から始められます。経済産業省とIPAのポータルサイト「マナビDX」では、デジタル関連の講座を探せます。外部研修に費用をかけるなら、AI研修に使える助成金の記事で条件を確かめてください。

小さな会社ほど、時間のやりくりは切実です。IPAの同報告書では、従業員100人以下の企業でAIを「導入している」のは16.6%でした。「関心はあるがまだ特に予定はない」は34.6%です。大きな研修を組む前に、短い時間から始める形なら、この段階の会社でも動けます。

勉強会の準備に使うプロンプト

教え役の準備にもAIが使えます。次の文の角かっこを置き換えて、短い進行案を作らせてください。お客様の名前や社員の個人情報は入力しません。入れてはいけない情報はAIに入力してはいけない情報で確認できます。

あなたは中小企業の社内勉強会を手伝う担当者です。次の条件で、15分の勉強会の進行案を作ってください。 会社の業種:[業種] 参加者:[人数・職種・AIの経験] 題材にする仕事:[例:お客様への日程調整メールの下書き] 条件1:冒頭の説明は2分以内。専門用語は身近な言葉に言い換える。 条件2:参加者が自分で試す時間を8分以上取る。 条件3:AIの答えを人が確かめる点を3つ挙げる。 条件4:入力してはいけない情報の注意を1行入れる。 条件5:よくある質問と答えの案を3つ付ける。答えに自信がないものは「要確認」と書く。

出てきた案は、そのまま使わず教え役が必ず一度試します。自分でやって詰まった場所こそ、勉強会で話す価値があります。条件5の「要確認」は、調べる項目の一覧になります。

1人に背負わせないための決めごと

先の調査では、「人材を育成しても辞めてしまう」が2番目に多い悩みでした。教え役が固定されたままだと、異動や退職で社内の学びが止まります。だからこそ、記録は個人のメモでなく、全員が見られる場所に置きます。

次に、ルールの線を引きます。何を入力してよいかを教え役に判断させると、迷いと責任が教え役に集まります。AI利用ルールの作り方を参考に、会社として決めて渡してください。事故が起きたときに相談する先も、社長か管理職に決めておきます。

最後に、頑張りを見える形にします。教える時間を業務として認め、面談で話題にするだけでも違います。IPAの同報告書によると、人材に必要なスキルの把握に着手している割合は、AIの効果が高いと感じる企業で21.5%、そうでない企業で12.0%でした。因果までは言えませんが、誰に何ができるかを見ている会社ほど成果を実感している傾向はうかがえます。

よくある質問(Q&A)

社内にAIに詳しい人が1人もいないけど、教え役は作れますか?

作れます。最初から詳しい必要はありません。現場の仕事を説明できる人が、社員より1か月先に試すだけでも、教える材料はたまります。基礎知識は無料の教材や外部の研修で補えます。

外部の研修と社内の教え役、どっちを先にやるべきですか?

先に教え役を1人決めるのがおすすめです。その人が外部研修を受け、自社の仕事に置き換えて社内へ伝えると、学んだ内容が現場に残ります。全員を一度に受講させるより、費用も抑えやすくなります。

教え役の社員に手当を出したほうがいいですか?

必須ではありませんが、負担を見える形で認めることは必要です。まず教える時間を業務時間として確保し、面談で評価に触れます。手当を出すかどうかは、担当の範囲と時間を見て会社として決めてください。

まとめ

  • 人材育成の悩みで最も多いのは「指導する人材の不足」で59.5%。お金や方法より、人と時間が詰まっている。
  • 現場でAI導入を進める人材の不足は69.6%。選ぶ基準はITの得意さより、現場の仕事を説明できること。
  • 教える仕事は渡し、ルールと責任は経営側に残す。質問集を共有し、2人目に引き継げる形にする。

まずは今週、社内で一番仕事を説明するのがうまい人を思い浮かべてください。その人に週30分を渡すことが、社内でAIを広げる最初の一歩になります。

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著者情報

AutoAIPlatform編集部 / 中小企業向けAI業務教育メディア

中小企業の経営者、管理職、総務、人事、営業、研修担当者が、AIを安全に仕事へ取り入れるための教育記事を作成しています。AIの操作だけでなく、業務設計・社内ルール・人による確認を重視します。