社員の知識が足りないと感じる会社は8割近い

AIの基礎知識の不足は、多くの中小企業が感じている課題です。中小企業基盤整備機構の「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査(2026年3月)」は、全国の中小企業10,000社を対象にしています。

この調査で、「従業員のITリテラシーが高い」に当てはまらないと答えた会社は77.6%でした。国に求める支援でも、「従業員向けの教育・研修」が必要と答えた会社が67.7%にのぼります。一方で、AIの導入率は20.4%です。使う前に、社員の基礎をそろえたいと考える会社が多いことが分かります。

ただ、何を教えればよいかを社内で決めるのは大変です。そこで役に立つのが、国が定めた学びの範囲です。

ITパスポートは非IT企業の人が受ける試験

ITパスポート試験(愛称「iパス」)は、社会人が身につけたいITの基礎知識を問う国家試験です。IPA(情報処理推進機構)の「令和7年度『iパス(ITパスポート試験)』の年間応募者数等について」によると、2025年度の応募者は307,266人で、2年連続で30万人を超えました。合格者は132,012人、合格率は48.6%です。

ITパスポート試験の社会人応募者のうち、非IT系企業の主な業種(2025年度)。金融・保険業、不動産業70,445人、製造業27,866人、サービス業19,148人、建設業12,591人。IPA令和7年度統計より。
図1|iパスの応募が多い業種(非IT系企業の社会人)

注目したいのは、受けている人の勤務先です。社会人のうち非IT系企業の応募者は179,995人で、IT系企業の40,715人を大きく上回りました。前年より建設業は23.1%、医療・福祉業は10.2%増えています。ITの専門家ではない人が、仕事の基礎として受けている試験だと言えます。

生成AIは2024年4月から出題範囲に入った

IPAは2023年8月7日のプレス発表「生成AI関連の記載をデジタルスキル標準とITパスポート試験に追加」で、試験の範囲に生成AIを加えました。生成AIの仕組みや活用例、使うときの注意点に関する用語が追加されています。実際の出題は2024年4月の試験から始まりました。

同じ発表は、学ぶ人がどうなればよいかも書いています。生成AIの使い方について、「期待しない結果が出力されること」や著作権の侵害、情報漏洩などに注意が必要だと理解している状態を目指すと明記しています。

これは、中小企業が社員に最初に教えたい内容とほぼ重なります。「AIはまちがえる」「入れてはいけない情報がある」の2点です。社内ルールの作り方はAI利用ガイドラインの作り方で扱っています。

DXリテラシー標準の4つの骨格

もう1つの教材が、経済産業省とIPAがまとめた「デジタルスキル標準」です。このうち、すべての働く人向けの部分を「DXリテラシー標準」と呼びます。前述のIPAの発表は、その目的を「DXを自分事ととらえ、変革に向けて行動できるようになること」と説明しています。

表1|DXリテラシー標準の4つの骨格と、社内研修での問いかけ
骨格中身社内研修での問いかけ
WhyDXの背景なぜ今、うちもAIを使うのか
Whatデータと技術生成AIは何が得意で何が苦手か
Howデータと技術の活用どの作業に、どう使うか
マインド・スタンス学び続ける姿勢失敗を共有し、試し続けられるか

この4つは、そのまま社内研修の目次になります。操作の説明(How)だけで終わらず、理由(Why)と姿勢まで扱うのが特徴です。2024年7月8日の改訂(ver.1.2)では、生成AIとの向き合い方に関する補記も加わりました。

2027年度の新試験はAIの比重が増える

試験そのものも変わります。IPAは「新試験制度のシラバス案について」で、2027年度から始める予定の新しい試験制度のシラバス案を公開しています。

ITパスポート試験のシラバス案(Ver.0.1)では、「AI利活用」が独立した分類になりました。生成AIの活用例として、文章の要約やアイデアの提案と並び、「複数の生成AIを用いた検証」が挙がっています。AIエージェントを使うときの人の関わり方や、安全のための歯止めも用語例に入りました。

あわせて、知識と一緒に「マインド・スタンス」も出題する方針です。あくまで案であり、内容は変わる可能性があります。最新の版はIPAのページで確かめてください。

受験させるか、教材として使うか

使い方は、会社の目的によって分かれます。資格を取ることと、仕事に役立つことは同じではないからです。

表2|国の資料を使ったAIの基礎学習、3つの使い方
使い方向いている会社かかるもの注意点
iパスを受験させる知識の水準を外に示したい受験料と学習時間範囲が広く、AIは一部
シラバスを教材にする費用をかけずに始めたいまとめ役の時間用語の暗記で終わりやすい
マナビDXの講座体系立てて学ばせたい受講の時間(無料講座あり)講座ごとに内容が違う

iパスはCBT方式で全国で随時受けられ、試験時間は120分、出題は100問です。マナビDXは経済産業省とIPAが運営する学習サイトで、スキル標準への対応を審査した講座だけを載せています。研修費用には国の助成も使えます(AI研修に使える助成金)。

シラバスは暗記より「置き換え」で読む

シラバスの読み方の対比。用語を暗記する場合は、生成AIの意味を覚える、情報漏えいを覚える、RAGを丸暗記する、ガードレールを覚える。仕事に置き換える場合は、自社の使い道を1つ書く、入れない情報を決める、社内資料と組む例を見る、AIに任せない所を決める。
図2|シラバスは「仕事に置き換えて」読む

シラバスは用語の一覧なので、そのままだと暗記の教材になりがちです。社内で使うときは、1つの用語ごとに「うちの仕事ではどうなるか」を1行書くのがこつです。

たとえば「情報漏洩」なら、顧客名簿や見積書の金額をAIに入れないと決めます。「ガードレール」なら、AIに任せず人が決める場面を書き出します。言葉の意味を知ることと、仕事で守れることは別です。入れてはいけない情報はAIに入れてはいけない情報で整理しています。

社内でAIの基礎を学ぶ4手順

社内でAIの基礎を学ぶ4手順。1.学ぶ範囲を国の資料で決める(AIの章だけ抜き出す)。2.用語を自社の仕事に置き換える(1語に1行で書く)。3.月1回の勉強会で確かめる(AIで作った問題を解く)。4.受験するかを決める(目的が外向きなら受ける)。
図3|社内でAIの基礎を学ぶ4歩

手順1で、シラバスのAIに関する部分だけを抜き出します。手順2で、各用語を自社の仕事の言葉に直します。全部を学ぶ必要はなく、AIの章から始めれば十分です。

手順3で、月1回の短い勉強会を開き、AIで作った確認問題を解きます。手順4で、受験させるかを決めます。取引先や採用で知識を示したいなら受験、社内で使えればよいなら教材のままで構いません。研修全体の組み立てはAI活用の基本カリキュラムも参考になります。

シラバスから社内向けの確認問題を作るプロンプト

シラバスのAIの部分をコピーして貼り付け、次の文を送ってください。

あなたは中小企業の社員研修を担当する講師です。次の「シラバスの抜粋」をもとに、社員向けの確認問題を作ってください。 条件1:問題は5問、4つの選択肢から1つ選ぶ形にする。 条件2:各問題は、当社の仕事の場面に置き換えて書く。 条件3:抜粋に書かれていない用語や数字は使わない。 条件4:各問題に、正解と短い解説を付ける。 当社:従業員○名、○業。主な仕事は(見積書/日報/問い合わせ対応 など)です。 シラバスの抜粋:[ここに貼り付け]

条件3が大切です。AIは抜粋に無い内容を足すことがあります。できた問題は、必ず人がシラバスの原文と見比べてから勉強会に出してください。

よくある質問(Q&A)

社員にAIの基礎を教えたいけど、何から始めればいい?

IPAが公開しているITパスポート試験のシラバスのうち、AIに関する部分から始めてください。無料で読め、国が定めた学ぶ範囲がまとまっています。用語ごとに自社の仕事での意味を1行書くと、そのまま研修の教材になります。

ITパスポートって、IT企業じゃない会社の社員が取っても意味ある?

あります。2025年度の社会人の応募者は、非IT系企業が179,995人で、IT系企業の4倍以上でした。生成AIも2024年4月から出題範囲に入っており、仕事でAIを安全に使う基礎を確かめる手段になります。

資格を取らせるのと、社内で勉強会をするのはどっちがいい?

目的で選びます。知識の水準を取引先や採用で示したいなら受験、社内で使えればよいなら教材として使うのが合います。どちらも、用語を自社の仕事に置き換える作業をしないと、現場では役に立ちにくい点は同じです。

まとめ

  • 社員の知識不足を感じる中小企業は77.6%。教える範囲は国の資料がすでに決めている。
  • iパスの応募は2025年度307,266人。生成AIは2024年4月から出題範囲に入り、2027年度の新試験でも比重が増える。
  • シラバスは暗記ではなく、用語を自社の仕事に置き換えて読む。勉強会と受験は目的で選ぶ。

まずはIPAのシラバス案を開き、AIの章を1ページだけ読んでみてください。その中の用語を1つ、自社の仕事の言葉に直すところから始められます。

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著者情報

AutoAIPlatform編集部 / 中小企業向けAI業務教育メディア

中小企業の経営者、管理職、総務、人事、営業、研修担当者が、AIを安全に仕事へ取り入れるための教育記事を作成しています。AIの操作だけでなく、業務設計・社内ルール・人による確認を重視します。