10月1日から、何が変わるのか
男女雇用機会均等法を改めた改正法(令和7年法律第63号)は2025年6月11日に公布され、2026年10月1日に施行されます(厚生労働省「令和7年の労働施策総合推進法等の一部改正について」)。これまでセクハラ防止措置が守る対象は自社の労働者でした。施行後は、採用面接や説明会に来る「求職者等」も守る対象に加わります。
指針は求職活動等の例として、採用面接、就職説明会、社員への訪問、インターンシップ、教育実習・看護実習を挙げています。SNSなどオンラインのやり取りや、飲食店など職場の外で会う場面も含まれます。
行為者として想定されるのは、正社員に限りません。パートや契約社員も含め、会社が雇うすべての労働者です。採用担当でない若手社員が、OB・OG訪問で学生に会う場面も対象になります。同じ日にカスハラ防止措置も義務になります(「カスハラ対策」が2026年10月から義務に)。
数字で見る、就活セクハラの現在地
厚生労働省の委託調査「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査報告書」は、2020〜2022年度に卒業し、就職活動やインターンシップを経験した男女1,000人に尋ねています。インターンシップ中にセクハラを一度以上受けた人は30.1%、それ以外の就職活動中では31.9%でした。
インターンシップ中に受けた内容は、「性的な冗談やからかい」38.2%、「食事やデートへの執拗な誘い」35.1%の順です。厚生労働省のWebマガジン「求職活動等をする方を守るために」(2026年9月1日)は、就職活動中に受けた人の40.0%が「就職活動に対する意欲が減退した」と答えたと紹介しています。
企業側の数字は対照的です。同じ報告書の企業調査(有効回答7,780社)で、過去3年に就活等セクハラの相談があった企業は0.7%。就活生へのセクハラについて予防・解決の取組を何も実施していない企業は47.5%でした。学生の3割が経験している一方、相談を受けた企業は1%に届きません。
起きる場面と、相手になる社員
場面にも特徴があります。インターンシップ以外の就職活動中では、「リクルーターと会ったとき」が32.8%で最多でした。「内々定を受けた後」が26.0%で続きます。選考の場よりも、面接の外で個別に会う場面が目立ちます。
行為者は、インターンシップ中なら「インターンシップ先で知り合った従業員」が47.4%。それ以外の就職活動中では「大学のOB・OG訪問を通して知り合った従業員」が38.3%でした。人事部の外にいる社員が、会社の顔として学生に会っていることになります。
志望先の従業員規模は、インターンシップ中・それ以外ともに「99人以下」が最多で、37.7%と35.3%でした。
会社に求められる4つの措置
厚生労働省の「事業主が求職活動等における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第52号)は、2026年2月26日に告示されました。求める措置は4つに整理できます。方針の明確化と周知、相談体制の整備、起きた後の迅速な対応、プライバシー保護と不利益な取扱いの禁止です。
| 措置 | 中小企業での具体例 | AIに下書きさせる | 人が決める |
|---|---|---|---|
| 方針の明確化・周知 | 就業規則に禁止と懲戒を書く | 社員向けの説明文 | 懲戒の内容 |
| 接し方のルール | 面談の時間・場所・連絡手段を決める | ルール1枚と求職者向け案内 | 例外を認める条件 |
| 相談体制 | 窓口の担当者を決めて知らせる | 募集要項・案内メールの一文 | 誰を担当にするか |
| 起きた後の対応 | 双方から事実を確認する | 聞き取り項目の空欄フォーマット | 事実の認定と処分 |
| プライバシー・不利益禁止 | 協力した社員を守ると定める | 周知文のたたき台 | 規程の最終文言 |
AIに任せるのは「伝える文章」まで、決めるのと認定するのは人。4つ目の事実確認は相談内容という最もデリケートな情報を扱うため、AIには入力しません。
接し方のルールを先に決める
今回の指針で目新しいのは、求職者と会う際のルールを前もって決めて伝える項目です。社員向けの規則の例として、「面談時間及び場所の指定、実施体制並びにやり取りに用いるSNSの種類の指定」などを定めて研修する、と明記しています。求職者に対しても、面談の留意事項をホームページやパンフレットで周知するとしています。
中小企業なら、決める項目は4つで足ります。会う時間は就業時間内、場所は社内の会議室、原則2人以上で対応、連絡は会社のメールか採用用アカウントだけ。私的な食事への誘いと、個人のSNSでのやり取りを禁じる一文も入れます。
「内々定の後」がいちばん手薄になる
選考が終わると採用担当の目が離れ、配属予定先の社員が個別に連絡を取り始めます。前述のとおり、内々定後は2番目に多い場面でした。ルールの対象期間は「入社日まで」と書いておきます。
相談窓口は、人事以外にも置く
相談窓口は「あらかじめ定め、求職者等に周知すること」が求められています。そのうえで指針は、「求職者等は人事担当者への相談をためらうことも想定される」として、人事担当者以外を窓口の担当に指定することも考えられる、と明記しています。
選考を受ける側にとって、人事担当者は合否を握る相手です。小さな会社なら、総務の担当者や社外の社会保険労務士に窓口を頼む形も現実的です。指針も、外部の機関に相談への対応を委託することを例に挙げています。
窓口は作るだけでは足りず、求職者の目に入る場所に書く必要があります。募集要項、説明会の資料、面接日程の案内メールの末尾の3か所に、同じ文面を載せるのが確実です。
10月までにやる4つの手順
1つ目は方針です。禁止する旨と、行った者は懲戒の対象になる旨を就業規則などに書きます。いまの懲戒規定の対象になると明確にする方法も、指針の例に入っています。2つ目は前述の接し方のルールで、時間・場所・体制・連絡手段の4項目を決めます。
3つ目は相談窓口の周知です。4つ目は説明で、面接官だけでなくOB・OG訪問を受ける若手社員やインターンの指導役にも伝えます。
AIに入れてよい情報、入れない情報
AIに渡してよいのは、会社のルール案、募集要項の文面、一般的な質問例までです。相談者の氏名、相談の中身、聞き取りの記録は入力しません。指針も、相談者や行為者のプライバシーを守る措置を講じ、それを労働者と求職者に周知するよう求めています(AIに入力してはいけない情報一覧)。
もう一つの使い道が、面接の質問の点検です。性的な事実関係に触れる質問や、性別で聞き方を変えた質問がないかをAIに指摘させます。指針は典型例に、面接官から性的な事実に関する質問を受けて意欲が下がった場面を挙げています。最終判断は人ですが、見落とし探しはAIが得意です(採用面接の質問案をAIで作る方法)。
そのまま使えるプロンプト
社員向けのルールと、求職者向けの案内文をまとめて下書きさせます。角かっこを置き換えてください。
肝は条件2です。懲戒の中身は就業規則との整合が要るため、AIに書かせず人が決めます。AIが作るのは伝える文面だけです(プロンプトの基本)。
よくある質問(Q&A)
うちは従業員10人で、インターンもやっていません。それでも対象になりますか。
採用面接をするなら対象です。求職者等には、採用面接や説明会の参加者も含まれます。インターンの有無ではなく、求職者と会う場面があるかどうかで考えてください。
社員が学生と個人的に食事に行くのも、会社が止めないといけないんですか。
OB・OG訪問や採用の延長で会うなら、飲食店など職場の外でも求職活動等に含まれます。「私的な食事への誘いは禁止、会うなら会社の場所と時間で」とルールに書いておくのが安全です。
就活生から相談が来たら、AIで状況を整理してもいいですか。
相談の中身と個人名は入れないでください。事実確認は、相談者と行為者とされる社員の双方から人が聞き取ります。AIに頼めるのは、聞き取り項目の空欄フォーマットづくりまでです。
まとめ
- 2026年10月1日から、採用面接・説明会・インターンシップ・OB・OG訪問に来る求職者等へのセクハラ防止措置が事業主の義務になる。
- インターンシップ中に受けた学生は30.1%、相談があった企業は0.7%。面接の外で会う場面が目立つ。
- 最初の一歩は、方針・接し方のルール・相談窓口を文章にして社員と求職者に伝えること。AIは文面の下書き、決めるのと認定するのは人。
ある製造業の会社で、面接官を務める部長に「どんな質問ならだめなのか」と聞かれたことがあります。本人に悪気はなく、雑談のつもりの質問が線を越えるかどうか、判断の材料を持っていませんでした。
足りなかったのは研修の時間ではなく、事前に渡される一枚のルールです。まずは会う時間と場所と人数を、紙に書くところから始めてみてください。ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
── AutoAIPlatform編集部