日本にもAIの法律がある
正式名称は「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」です。内閣府のAI法の解説ページによると、令和7年6月4日に公布・一部施行され、9月1日にAI戦略本部の設置規定を含めて全面施行されました。令和7年法律第53号、通称はAI推進法です。
条文はe-Gov法令検索で全文を読めます。全4章28条という短い法律で、中身は総則、基本的施策、人工知能基本計画、人工知能戦略本部の4つです。事業者に届出や許可を求める条文は1つもありません。
責務を負う5者と、会社の立ち位置
AI推進法の総則は、国(第4条)、地方公共団体(第5条)、研究開発機関(第6条)、活用事業者(第7条)、国民(第8条)の5者について、それぞれ責務を書き分けています。中小企業に関係するのは第7条の「活用事業者」です。
この言葉の範囲は広く取られています。条文は活用事業者を、AIを使った製品を開発・提供しようとする者のほか、「人工知能関連技術を事業活動において活用しようとする者」と定義しています。社内でChatGPTに議事録を整えさせている会社も含まれます。
そのうえで第7条は、活用事業者が「自ら積極的な人工知能関連技術の活用により事業活動の効率化及び高度化並びに新産業の創出に努める」ことを求めると明記しています。安全に止めることではなく、積極的に使うことが責務として書かれている点が、この法律の特徴です。
語尾の違いに意味がある
第8条の国民は「協力するよう努めるものとする」ですが、第7条の活用事業者は「協力しなければならない」と書かれています。罰則はないものの、法律は会社を国民より一段重い立場に置いています。
罰則がない法律に、なぜ付き合うのか
AI推進法の条文には、罰金も過料も登場しません。それでも読んでおく理由は3つあります。
1つ目は、個別の法律は別に生きていることです。AI推進法に罰則がなくても、個人情報保護法、著作権法、下請法から名前が変わった取適法は、これまでどおり適用されます(2026年の個人情報保護法改正とAI)。
2つ目は第16条です。国が、AIの不適切な活用で権利利益の侵害が生じた事案を分析し、その結果に基づいて活用事業者に指導や助言を行うと定めています。処罰ではなく指導が用意されている形です。
3つ目は取引先の目です。大企業が取引先を選ぶとき、AIの扱い方を確認する動きはすでに始まっています(AIの管理体制に始まった認証)。法律が罰しなくても、説明できない会社が選ばれにくくなるという形で効いてきます。
法律・指針・ガイドラインの3階建て
AIをめぐる国の文書は3階建てです。混同すると「新しい義務ができた」と身構えることになります。役割で分けて見るのが早道です。
| 文書 | 性格と時期 | 中小企業がすること |
|---|---|---|
| AI推進法(令和7年法律第53号) | 法律。2025年6月4日公布、9月1日全面施行。罰則なし | 自社が活用事業者だと知る。読むのは1回でよい |
| 適正性確保に関する指針 | 法第13条に基づき2025年12月19日にAI戦略本部が決定 | 更新の有無を年1回確かめる |
| AI事業者ガイドライン(第1.2版) | 総務省・経済産業省。2026年3月31日公表。拘束力なし | 「AI利用者」の章だけ読み、社内ルールに写す |
実務で使えるのは3段目です。AI事業者ガイドライン(第1.2版)は、対象をAI開発者・AI提供者・AI利用者の3つに分けています。AIを買って使うだけの中小企業は「AI利用者」で、読むのは第5部です。
同ガイドラインは、細かな行為義務を定める規制はイノベーションを阻害しうるとしたうえで、自らの立ち位置を「関係者による自主的な取組を促し、非拘束的なソフトローによって目的達成に導くゴールベースの考え方」と説明しています。守らせる文書ではなく、各社が自分で決めるための下敷きということです。
法第13条に基づく指針は、内閣府のAIの適正性確保に関する指針のページにあります。ガイドラインとあわせて年1回見れば十分です。
国の計画が名指しした「中小企業」
AI推進法の第18条は、政府に人工知能基本計画を作るよう求めています。これを受けて第Ⅱ期人工知能基本計画が令和8年7月14日に閣議決定されました。副題は「日本AX、より強く、より豊かに」です。
AXは、AIを前提に意思決定と業務の進め方を根底から見直すという意味で使われています。計画は現状の課題について、「中堅・中小企業、地域を含めたより裾野の広いAI実装」が求められていると明記しています。大企業だけでは国の目標に届かないと、政府自身が書いているわけです。
計画は「地域AX」として、デジタル化・AI導入補助金などによる中堅・中小企業のAI導入に加え、地域の支援機関のAI支援レベルの底上げを進めるとしています。補助金と窓口の両方が政策の柱に入っている形です(無料で相談できる国の窓口)。
中小企業の現在地はどこか
では実際はどこまで進んでいるのか。中小企業基盤整備機構の中小企業のAI等の利活用に係る実態調査は、全国の中小企業10,000社に配り1,647社から回答を得たものです。調査期間は令和7年11月17日から12月12日でした。
AIの導入率は20.4%。検討中の18.6%を足すと39.0%が前向きという結果です。導入済みの会社が使っているのは生成AIが82.6%で、2位の音声認識・音声対話AIの29.8%を大きく引き離しています。中小企業のAIは、ほぼ文章のAIだと言い切ってよい状況です。
図2のとおり、導入が進んでいるのは総務・管理部門の68.3%です。導入目的も業務効率化・作業時間の短縮が87.0%で突出していました。
同調査では、必要な公的支援として導入費用などの助成が77.9%、導入事例などの情報提供が70.5%と並びます。成功事例や活用事例の情報が足りないと答えた会社は83.3%でした。足りないのはお金だけではありません。
法律に合わせる4歩
第1歩、社内で使っているAIを1枚の紙に書き出します。会社の契約分だけでなく、社員が個人のアカウントで使っている無料版も含めます(「シャドーAI」対策の基本)。
第2歩、入れてはいけない情報を決めます。個人情報、取引先との条件、未公表の見積。3行で足ります。長い規程を作るより、全員が覚えられる短さのほうが守られます(入力してはいけない情報一覧)。
第3歩、人が確かめる場所を決めます。社外に出す文書は、送る前に必ず1回だけ人が読む。ガイドラインが促しているのも、この種の自主的な取り組みです(AIの回答を確認する手順)。
第4歩、年に1回見直します。基本計画は当面毎年変更するとされ、ガイドラインも随時更新されています。1度決めて終わりにはできません。
「法律ができたから止める」は逆
AI推進法は活用を促す法律です。法律ができたことを理由に社内の利用を全面的に止めると、第7条が求める方向と逆に進むことになります。止めるのではなく、入れない情報と確かめる場所を決めるのが筋です。
そのまま使えるプロンプト
第1歩から第3歩を一度に進める指示です。角かっこを自社の言葉に置き換えてください。
条件2には理由があります。社内ルールに法律の解説を混ぜると、読む人が身構えて守られなくなります。ルールには行動だけを書くのが続くコツです。
よくある質問(Q&A)
AI推進法ができたら、何か届け出が必要になりますか。
必要ありません。全28条のどこにも、事業者に届出や許可、登録を求める条文はありません。行政への手続きは増えていません。増えたのは、自社でAIの使い方を決めておくべき理由のほうです。
罰則がないなら、放っておいても問題ないのでは。
AI推進法そのものに罰則はありません。ただし第16条は、国が活用事業者に指導や助言を行うと定めています。個人情報保護法や著作権法は別に適用されます(文化庁の資料で学ぶ著作権)。
うちは5人の会社です。ガイドラインを全部読むのは無理です。
全部読む必要はありません。AI事業者ガイドラインは対象をAI開発者・AI提供者・AI利用者に分けており、買って使うだけの会社は第5部だけで足ります。別添7のチェックリストを埋めれば1時間ほどで確認できます。
まとめ
- AI推進法は2025年6月4日公布、9月1日全面施行。全28条に罰則はなく、届出や許可も不要。
- 第7条はAIを事業活動で使う者を「活用事業者」と定義し、積極的な活用と、国・自治体の施策への協力を責務として書いている。
- 第Ⅱ期AI基本計画(2026年7月14日閣議決定)は中堅・中小企業への裾野の拡大を明記。中小企業の導入率は20.4%、うち生成AIが82.6%。
法律ができたと聞くと、まず「何をしてはいけないのか」を探したくなります。この法律に限っては、探すべきは「何をしていないか」のほうでした。
条文を最初に読んだとき、活用事業者の責務が「使いなさい」と書かれていることに驚きました。規制の法律を想像して開いたからです。国が会社に向かって、もっと使ってくれと頼んでいる法律は、それほど多くありません。
もっとも、使う側は頼まれたから使うわけではありません。困っているから手が伸びる。法律のほうが後ろから追いついてきた、というのが実際に近いのだと思います。ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
── AutoAIPlatform編集部