中小企業のBCP策定率は2割未満
BCPは、災害や事故で事業が止まったときに、何を優先して再開するかを決めておく計画です。帝国データバンクの「事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査(2026年)」は、2026年5月に全国1万521社の回答を集めました。
BCPを策定している企業は21.4%で、調査開始以来の最高でした。ただし規模別に見ると、大企業の39.9%に対し、中小企業は18.3%にとどまります。策定していない企業も40.7%あり、4割を超えたままです。
止まる理由は「スキル・人・時間」
同調査で、BCPを策定していない企業に理由を聞くと、「策定に必要なスキル・ノウハウがない」が42.2%で最多でした。「策定する人材を確保できない」が33.5%、「策定する時間を確保できない」が28.1%と続きます。
つまり、多くの会社は必要性を感じていないわけではありません。書き方が分からず、書く人と時間がないのです。ここはAIが得意な領域と重なります。手引きの読み込み、ひな形の下書き、記入漏れの点検は、AIに任せると数時間の作業が短くなります。
一方で、AIにはその会社の事情が分かりません。どの業務を止めないか、誰が連絡役になるかは、社長と社員の話し合いでしか決まりません。分担を間違えなければ、AIは「時間がない」の壁を下げる道具になります。
小さく始めるBCP「事業継続力強化計画」
本格的なBCPは、分厚い文書になりがちです。中小企業がまず取り組みやすいのが、国の認定制度である「事業継続力強化計画」です。中小企業庁は「事業継続力強化計画」認定制度のページで、この計画を「中小企業のための取り組みやすいBCPと位置づけられます」と明記しています。
計画は経済産業大臣が認定し、実施期間の上限は3年です。中小企業庁の地域別認定件数一覧によると、2026年8月末時点の認定件数は累計10万3,477件に達しました。小さな会社や個人事業主も、要件を満たせば認定を受けられます。
認定で受けられる支援
認定を受けると、防災のための設備投資や資金繰りで支援を受けられます。中小企業庁の「事業継続力強化計画認定制度の概要」(2026年7月17日版)から、主なものをまとめました。
| 支援 | 内容 | 主な条件 |
|---|---|---|
| 防災・減災投資促進税制 | 特別償却16% | 認定から1年以内に設備を取得 |
| 日本政策金融公庫の融資 | 設備資金は基準利率から0.9%引下げ | 公庫の審査が別に必要 |
| 信用保証の特例 | 普通保険2億円などの別枠 | 保証協会の審査が必要 |
| 補助金の加点 | 省力化投資補助金などで加点 | 各補助金の公募要領による |
| 損害保険料の割引 | 保険会社が個別に検討 | 各社の条件による |
税制の対象は、自家発電設備や止水板などの防災設備です。機械装置は100万円以上、器具備品は40万円以上という取得価額の要件があります。税制の対象になる認定の期限は2027年3月31日までです。補助金の加点は中小企業省力化投資補助金でも受けられます。
手引きの5ステップと、AIの分担
中小企業庁の策定の手引きは、計画を5つのステップで考えるよう求めています。①策定の目的、②災害等のリスク確認・影響想定、③発災時の初動対応、④ヒト・モノ・カネ・情報への対策、⑤平時の推進体制と訓練です。
AIが役立つのは、①の文章化、④の対策の洗い出し、⑤の訓練の台本づくりです。たとえば「受注データが消えたら」という問いに、バックアップや代わりの連絡手段の候補を並べてくれます。並んだ候補から自社でできるものを選ぶのは人です。
そのまま使えるプロンプト例
あなたは中小企業の防災計画づくりを手伝う担当者です。下に、当社の概要と、社長が決めた「止めてはいけない業務」を貼ります。中小企業庁の事業継続力強化計画の5つの項目(目的、リスクと影響、初動対応、ヒト・モノ・カネ・情報の対策、訓練と見直し)に沿って、計画の下書きを作ってください。ただし、地震の発生確率や浸水の深さなどの数字は書かず、「(ハザードマップで確認)」と空欄にしてください。分からない点は質問として最後に並べてください。会社の概要:[ここに貼る] 止めない業務:[ここに貼る]
ポイントは、止めない業務を先に人が決めてからAIに渡す順番です。社名や取引先名は伏せ、社内で使うAIのルールに沿って入力してください。
災害リスクの数字はAIに聞かない
②のリスク確認は、AIにいちばん任せてはいけない部分です。AIに「うちの地域の浸水リスクは?」と聞くと、もっともらしい数字を返すことがあります。しかし住所ごとの想定は、公的な地図でしか確かめられません。
手引きは、国土交通省のハザードマップポータルサイトや、地震の確率を示すJ-SHISの利用を案内しています。記載例も「今後30年以内に震度6弱以上」の確率を、参照資料の名前と一緒に書く形です。数字は必ず自分で地図を開いて写し、出典名を添えます。
リスクは自然災害だけではありません。同じ帝国データバンク調査で想定リスクを聞くと、自然災害が67.8%、情報セキュリティ上のリスクが50.2%でした。サイバー攻撃への備えはランサムウェア対策の記事でも解説しています。
申請から認定までの流れ
申請は「事業継続力強化計画電子申請システム」から行います。ログインにはGビズIDのアカウントが必要で、制度の概要は取得に最低でも2週間程度かかると案内しています。計画を書き始める前に、先に申し込んでおくと待ち時間を減らせます。
審査の標準処理期間は45日です。認定を受けると認定通知書が届き、事業者名が中小企業庁のサイトで公表されます。税制や融資を使う予定があれば、計画を出す前に公庫や保証協会へ相談しておきます。
作って終わりにしない、年1回の訓練
手引きは、計画の実効性を保つために年1回以上の訓練や教育と、年1回以上の計画の見直しを求めています。認定はゴールではなく、毎年の点検の始まりです。
ここでもAIは使えます。「平日の午前10時に震度6強」といった想定で、訓練の台本と確認項目を作らせます。訓練の後は、気づいた点のメモをAIに整理させ、計画の修正案にします。災害時の連絡文は平時にAIで作る3通の連絡文も参考にしてください。
AIの下書きを、そのまま出さない
AIは、どの会社にも当てはまる対策を並べがちです。自社の設備や人数で実行できない対策が入っていないか、最後は社長と現場の担当者が読み合わせてから申請してください。
よくある質問(Q&A)
BCPってChatGPTに作ってもらっても大丈夫ですか?
下書きや抜けの点検に使うのは問題ありません。ただし、地震や浸水の数字はハザードマップで自分で確かめ、止めない業務と連絡役は社内で決めてください。AIが書いた対策が自社で実行できるかも確認が必要です。
従業員5人の会社でも、事業継続力強化計画の認定はもらえるの?
中小企業者の要件を満たせば、小規模な会社や開業届を出した個人事業主も対象です。申請は電子申請で、審査の標準処理期間は45日です。GビズIDの取得に2週間程度かかるので、早めに準備しましょう。
BCPと事業継続力強化計画って、何が違うんですか?
中小企業庁は、事業継続力強化計画を中小企業のための取り組みやすいBCPと位置づけています。防災・減災の事前対策に絞った計画で、認定を受けると税制や融資、補助金の加点などの支援があります。
まとめ
- 中小企業のBCP策定率は2割未満。作れない理由の上位は、スキル・人・時間の不足。
- 「事業継続力強化計画」は取り組みやすいBCP。認定で特別償却16%や低利融資などを受けられる。
- 下書きと点検はAI、リスクの確認と止めない業務の判断は人。年1回は訓練と見直しを。
BCPは「いつかやる」と言われ続けてきた書類です。書き方が分からない、書く人がいない、という理由は、AIでかなり小さくできるようになりました。
それでも、何を守るかを決めるのは経営者です。白紙から悩むより、AIの下書きに赤を入れるほうが早く進みます。今月のうちに、止めてはいけない業務を3つ書き出すところから始めてみてください。ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
── AutoAIPlatform編集部