違反の4割は、条件を「書いていない」
公正取引委員会は2026年6月10日、「令和7年度におけるフリーランス・事業者間取引適正化等法第2章の運用状況」を公表しました。1年間で1,597件の違反の疑いを処理し、1,552件に勧告または指導を行っています。内訳は勧告10件、指導1,542件です。
違反の中身を類型別に数えると2,727件です。最も多いのは支払期日を守らない違反で1,135件(41.6%)でした。僅差の2位が取引条件を明示しない違反の1,126件(41.3%)です。この2つで8割を超えます。
どちらも悪意より「決めていない」「書いていない」から起きる違反です。つまり、発注のたびに送る文面を整えれば、大半は防げるということです。
小さい会社も「発注事業者」になる
公正取引委員会のパンフレットは冒頭で、本法は「フリーランスと取引する全ての事業者が守らなければいけない法律です」と示しています。業種の限定もなく、建設工事も対象です。資本金や従業員数で対象が決まる取適法(旧・下請法)とは、ここが大きく違います。
ここでいうフリーランスは、従業員を雇っていない個人か、社長1人だけの法人です。副業で仕事を受けている会社員も含まれます。デザイン、記帳、配送、現場の一人親方など、身近な外注先の多くが当てはまります。
数も少なくありません。総務省統計局の「令和4年就業構造基本調査 結果の概要」では、本業がフリーランスの人は209万人で、働く人の3.1%です。産業別では建設業が50万人で最も多くなっています。
発注で文字にする8項目
明示する項目は、公正取引委員会の「フリーランス・事業者間取引適正化等法 パンフレット」に一覧があります。検査の期日と、お金以外で払う場合の支払方法は、該当するときだけで構いません。
| 項目 | 書き方の例 | よくある抜け |
|---|---|---|
| ①双方の名称 | 当社名と相手の屋号 | 担当者名だけで社名がない |
| ②業務委託をした日 | 合意した日付 | 送った日と混同する |
| ③給付の内容 | 品目・数量・仕様 | 「いつもの感じで」 |
| ④納期・作業日 | 具体的な日付 | 「なるべく早めに」 |
| ⑤納品・作業の場所 | 提出先のアドレス等 | 現場名しか書かない |
| ⑥検査完了日 | 検査する場合のみ | 検査するのに期日がない |
| ⑦報酬の額と支払期日 | 税込額と支払日 | 「翌々月払い」のまま |
| ⑧支払方法 | お金以外で払う場合のみ | ポイント払いの条件なし |
書式の決まりはありません。発注書でもメール本文でも、8項目がそろっていれば足ります。報酬の額をすぐに決められない場合は算定方法でもよく、未定の項目は理由と決める予定日を書いておきます。
電話の「お願いします」だけでは足りない理由
公正取引委員会は前述の運用状況の報告で、違反の具体例として「直ちに書面又は電磁的方法による明示をせずに口頭で業務委託をした行為」を挙げていると明記しています。電話や立ち話で頼んで終わり、が典型的な違反です。
逆に、紙である必要はありません。メール、SMS、SNSのメッセージ、チャットツールも認められています。ただしSNSは、相手を特定して送る機能に限られます。
チャットで明示したときは、画面の保存もしておきます。サービスが終わって内容が見られなくなると、書面で出し直す必要があるためです。相手から書面を求められたら、遅れずに渡します。
支払期日は受け取りから60日以内
従業員を雇っている会社がフリーランスに頼む場合、支払期日は納品や作業を受けた日から60日以内で、できるだけ短く決めます。「月末締め、翌月末払い」なら収まります。
注意したいのは「翌々月払い」です。同委員会の資料には、「毎月末日締切、翌々月10日支払」として60日を超えた事例が勧告として載っています。昔からの支払いサイトが、そのまま違反になり得ます。
振込手数料も見直してください。2026年1月1日以降の取引では、合意の有無にかかわらず、報酬から振込手数料を差し引くと減額にあたります。令和7年度には、違反で生じた不利益の回復として総額1,734万円がフリーランスに支払われました。
長く頼む相手には、さらに義務が増える
1か月以上続く仕事では、受け取りを拒む、後から値引く、やり直しを押しつけるといった7つの行為が禁止されます。6か月以上の契約を切るときは、30日前までの予告も必要です。
こうした働く環境の側のルールは、厚生労働省の「フリーランス・事業者間取引適正化等法施行から1年を迎えました!」にまとまっています。募集の広告を正確に書く義務や、ハラスメントの相談窓口の整備も含まれます。
命令に従わない場合は50万円以下の罰金もあります。とはいえ実際の対応の中心は指導です。指摘されたら直せる仕組みを先に持っておくことが、いちばんの備えになります。
発注メールをAIで整える4手順
分担の原則は文面はAI、約束ごとは人です。金額と日付は、後から「そう聞いていない」となる項目なので、必ず人が決めます。
手順1で、表1の8項目を並べた自社の型をAIに作らせます。手順2は、案件ごとに人が中身を埋める作業です。手順3で、支払期日が60日以内かなどの抜けをAIに確かめさせます。
手順4で送信し、送った文面を取引先ごとのフォルダに残します。一度型ができれば、2件目からは数分で送れます。
そのまま使えるプロンプト
角かっこを自社の内容に置き換えて使ってください。相手の口座番号や住所は入力しません。
条件2が要です。AIは書かれていない日付や金額をもっともらしく補うことがあります。取引条件の値上げ交渉の文面は値上げ・価格改定のお願いをAIで書くが参考になります。
AIに任せてはいけない3つのこと
1つ目は金額と支払期日の決定です。AIは計算の確認には使えますが、決めるのは会社です。2つ目は著作権などを譲り受ける範囲です。範囲を超えて譲ってもらうなら、その対価も報酬に含めて明示します。
3つ目は相手の個人情報の入力です。屋号と仕事の内容だけで下書きは作れます。契約書全体の確認はAIで契約書をチェックする方法で、取適法の対象になる取引は取適法の解説で確かめてください。
よくある質問(Q&A)
うちは社員3人の会社ですが、フリーランス法の対象になりますか?
なります。取引条件の明示は、会社の大きさに関係なく、フリーランスに頼むすべての事業者の義務です。従業員を雇っていれば、60日以内の支払期日のルールもかかります。
LINEで「来週これお願い」と送るだけでもいいですか?
相手を特定して送るメッセージなら手段としては使えます。ただし8項目のうち該当するものが全部そろっている必要があります。内容だけの一言では足りないので、型を貼って送り、画面も保存してください。
AIで作った発注書をそのまま使っても大丈夫ですか?
型として使うのは問題ありません。ただし金額、日付、支払期日は必ず人が確かめてから送ります。判断に迷う取引は、公正取引委員会の相談窓口に問い合わせると確実です。
まとめ
- 令和7年度のフリーランス法の勧告・指導は1,552件。違反類型の4割は取引条件を書いていないことだった。
- 対象は会社の規模を問わない。8項目を、メールやチャットで直ちに文字にして送る。
- 支払期日は60日以内。文面の型はAI、金額と期日の決定は人が受け持つ。
まずは、今月外注した仕事を1件選び、送ったメッセージに8項目がそろっているか数えてみてください。欠けている項目が、次の発注から埋める場所です。