合理的配慮は、2024年4月から義務

改正された障害者差別解消法は、2024年4月1日に施行されました。内閣府の「障害を理由とする差別の解消の推進」のページに、法律と資料がまとまっています。この改正で、会社やお店による合理的配慮の提供が、努力義務から義務に変わりました。会社の規模は問いません。

合理的配慮とは、障害のある人から「社会的なバリアを取り除いてほしい」と伝えられたときの対応です。負担が重すぎない範囲で、必要かつ合理的な配慮を行います。タッチパネルの注文を店員が代わりに操作する。筆談でやりとりする。どれも小さな対応です。

対象になる「障害者」には、障害者手帳を持っていない人も含まれます。見た目では分からない障害もあります。手帳の有無を確かめてから対応を決める、という順番にはなりません。

企業の備えは、まだ3割に届かない

内閣府は、改正法の施行後の状況を民間企業に尋ねています。「障害者差別の解消に関する事業者等の取組状況調査(民間企業)」です。お客様と接する機会の多い1万社に調査票を送り、1,520社が回答しました。

民間企業の取組状況。従業員に周知した29.3%、社内マニュアルがある25.5%、障害当事者の意見を聞く機会がある11.6%、会社で一つの相談窓口がある10.6%。内閣府の民間企業調査、1,520社が回答。
図1|障害を理由とする差別への企業の備え(内閣府 民間企業調査)

法律や社内の決まりを従業員に周知した企業は29.3%でした。社内研修を「実施していない」企業は80.9%です。従業員1〜9人の会社では、周知した割合が21.6%まで下がります。

回答企業の49.3%は、従業員1〜9人の会社です。研修をしない理由には、「小規模で研修制度・体制がない」「法改正を知らなかった」という声が並びました。小さな会社ほど、最初の一言を現場の一人が返すことになります。

不十分とされる断り方

2023年3月に改定された「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」は、配慮の義務に違反すると考えられる例を挙げています。共通するのは、代わりの方法を考えずに、一律に断っていることです。

表1|基本方針が挙げる違反の例と、対話の返し方
断る理由基本方針が挙げる例対話の返し方
前例がないデジタル機器の持込みを前例がないとして断る何があれば使えるかを聞く
何かあったら困る会場内の移動の支援を、抽象的な理由で断る具体的にできる支援を探す
マニュアルで決まっている電話だけの手続を理由に、メール等を検討せず断るメールや電話リレーサービスを検討する
特別扱いはできない見えやすい席の希望を、座席の確保を検討せず断る事前に席を確保できるか確かめる

3行目は、伝える手段そのものの話です。「電話でしか受け付けていません」は、多くの小さな会社で日常の返事です。耳の聞こえない人にとっては、手続の入口が閉じていることになります。

「過重な負担」で断るときの説明

どんな要望にも応えなければならない、というわけではありません。負担が重すぎる場合は、提供しなくてもよいとされています。判断の要素は、事業への影響、実現できるか、費用と負担、事業の規模、財務の状況などです。

ただし、断るときには説明が必要です。基本方針は、過重な負担に当たると判断した場合、「障害者に丁寧にその理由を説明するものとし、理解を得るよう努めることが望ましい」と明記しています。そのうえで、代わりの方法も含めて検討することを求めています。

小さな会社には、できないことも多くあります。エレベーターのない2階の店舗もあります。「できません」で終わらせず、「代わりにこれならできます」まで言う。この一歩が、断り方の質を決めます。

断る返事と、対話の返事

お互いに実現できる対応を一緒に考えることを、「建設的対話」と呼びます。内閣府のリーフレット「知っていますか?障害者差別解消法」は、「前例がありません」などの理由では不十分だとしています。そのうえで、「何ができるかをお互いに話し合うことが大切です」と明記しています。

断る返事と対話の返事の比べ方。前例がありませんは、普段はどうしていますか、へ。何かあったら困りますは、この形ならできます、へ。電話でしか受けませんは、メールでも受け付けます、へ。特別扱いはできませんは、席を先に確保します、へ。
図2|断る返事と、対話の返事

対話の第一歩は、質問です。リーフレットには、学習塾の例が載っています。防音窓の設置は難しいと伝えたうえで、普段どうしているかを保護者に尋ねます。その結果、緊急車両が通るときにイヤーマフの着用を手伝う、という対応が見つかりました。

相手は、自分の障害との付き合い方を一番よく知っています。答えは、たいてい相手の話の中にあります。

AIに頼むこと、頼まないこと

AIに向くのは、返信の型づくりと言い換えです。断る返事を、代わりの方法を示す返事に書き直す作業は得意です。筆談用に短く分かりやすい文にする、メールでの受付案内を作る、といった準備にも使えます。

一方、何ができるかを決めるのは人の仕事です。AIは店の設備も人手も知らないので、実現できない約束を書くことがあります。返信の前に、責任者が中身を確かめます。

入力する情報にも注意します。障害に関する情報は、個人情報保護法の「要配慮個人情報」に当たります。お客様の名前や病名を、AIに貼り付けてはいけません。入れてはいけない情報はAIに入力してはいけない情報一覧にまとめています。

配慮の申出に備える4歩

配慮の申出に備える4歩。1.よくある申出を書き出す(筆談・電話・段差など)。2.AIで返信の型を作る(実名や病名は入れない)。3.断る前の相談先を決める(必ず責任者に回す)。4.対応を記録して見直す(次の環境整備に生かす)。
図3|配慮の申出に備える4歩

手順1では、自社で起こりそうな申出を書き出します。筆談、電話以外の連絡手段、段差、聞こえにくい場所などです。手順2で、それぞれの返信の型をAIに作らせます。

手順3が最も大切です。現場の判断だけで断らず、必ず責任者に回す決まりにします。手順4では、受けた申出と対応を記録します。同じ申出が続くなら、スロープやメール受付のような環境の整備を考える合図です。

そのまま使える返信のプロンプト

平時に型を作るときも、実際の申出に返すときも、次の形で頼めます。角かっこの中は書き換えます。

あなたは、中小企業の接客担当を手伝う文章の専門家です。障害のあるお客様から配慮の申出があったときの返信の下書きを作ります。 1. 最初に、申出を受け取ったことと感謝を一文で伝えてください。 2. 当社ができることを、事実メモの範囲で具体的に書いてください。 3. できないことがある場合は、理由を短く書き、代わりの方法を必ず1つ以上示してください。 4. 最後に、ほかに困っていることがないかを尋ねる一文を入れてください。 条件:事実メモにないことは約束せず[要確認]と書く。専門用語を使わず、一文を短くする。 申出の内容(実名・病名は入れない):[ここに書く] 当社の事実メモ:[ここに書く]

3の「代わりの方法を必ず示す」が要点です。できない理由だけの返信を、AIの段階で防げます。仕上がった文は、必ず責任者が読み直してから送ります。断り方の基本は角を立てずに断る文章でも扱っています。

迷ったときの事例と相談先

内閣府の「障害者差別の解消の推進に関する地方公共団体の取組状況調査」(2026年6月)では、自治体が報告した相談事例は304件でした。そのうち合理的配慮の提供に関するものが145件で、最も多い区分です。

同じ業種の対応例は、障害者差別解消法の事例データベースで探せます。判断に迷うときは、内閣府の相談窓口「つなぐ窓口」に事業者も相談できます。一人で抱えず、事例と窓口を先に見るのが近道です。従業員の障害への配慮は、障害者雇用とAIで解説しています。

よくある質問(Q&A)

うちは従業員5人の小さな店です。合理的配慮は関係ありますか?

関係があります。2024年4月から、規模を問わず事業者の義務です。ただし負担が重すぎる場合は、理由を丁寧に説明し、代わりの方法を話し合うことが求められます。

障害のあるお客様への返信をChatGPTで書いてもいいですか?

文の型づくりと言い換えに使うのは問題ありません。お客様の名前や病名は入れず、できることの中身は責任者が確かめます。実現できない約束をAIに書かせないことが大切です。

障害者手帳を見せてもらってから対応すればいいですか?

手帳の有無で決めるものではありません。法律の「障害者」には、手帳を持っていない人も含まれます。まずは困っていることを聞き、できる対応を一緒に考えます。

まとめ

  • 合理的配慮は2024年4月から事業者の義務。社内研修をしていない企業は80.9%で、多くの会社は準備の途中にある(内閣府)。
  • 「前例がない」「電話だけ」で一律に断らない。何ができるかを話し合う建設的対話で、代わりの方法を探す。
  • 返信の型は平時にAIで作り、名前や病名は入れず、できることの判断は人が行う。

配慮の申出は、ある日突然、電話やメールで届きます。その場で考える余裕はあまりありません。今週のうちに、よくある申出を3つ書き出し、AIで返信の型を作っておいてください。最初の一言が変わります。

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著者情報

AutoAIPlatform編集部 / 中小企業向けAI業務教育メディア

中小企業の経営者、管理職、総務、人事、営業、研修担当者が、AIを安全に仕事へ取り入れるための教育記事を作成しています。AIの操作だけでなく、業務設計・社内ルール・人による確認を重視します。