制度は3つに分かれている
経理でAIを使う話は、必ず電子帳簿保存法にぶつかります。国税庁の「電子帳簿等保存制度を活用して、デジタル化をさらに進めてみませんか?」(令和8年6月)によると、この制度は3つに分かれています。
①電子帳簿等保存と②スキャナ保存は希望する会社だけが使う仕組みです。これに対し、③電子取引データ保存は、法人と個人事業者が対応しなければならないものです。ここを取りちがえると、準備の順番を間違えます。
つまり、AI導入の前にまず確かめるのは③です。メールに添付された請求書や、通販サイトで受け取った領収書がすでに社内にあるなら、その会社はもう③の対象です。
紙で受け取ったか、データで受け取ったか
要件は、書類の中身ではなく受け取り方で変わります。紙でもらった領収書を写真やスキャンにするのが②スキャナ保存、はじめからデータでもらったものが③電子取引データ保存です。
同じ「経費の領収書」でも、レジで渡された紙と、通販の購入履歴からダウンロードしたPDFでは、ルートが別になります。AIの読み取り機能は両方を同じように文字にしてくれるため、この違いが見えなくなりがちです。
| 比べる点 | 紙で受け取った(スキャナ保存) | データで受け取った(電子取引) |
|---|---|---|
| 対応の要否 | 希望する会社だけ | 法人・個人事業者は必須 |
| 代表例 | レジの領収書、郵送の請求書 | メール添付のPDF、通販の明細 |
| 紙の原本 | 要件を満たせば廃棄できる | そもそも紙が存在しない |
| 改ざん防止 | タイムスタンプや訂正削除の履歴 | 4つの方法から1つを選ぶ |
| AIの役割 | 文字起こしと索引づくり | ファイル名の統一と仕分け |
制度ごとの詳細は、国税庁の「スキャナ保存関係」のページにまとまっています。
満たすべきは「改ざん防止」「検索」「備付け」
電子取引データ保存で求められるのは3つです。国税庁の「電子取引データ保存要件チェックシート」(令和6年11月)が、判定の順番まで1枚にまとめています。
1つ目は改ざん防止です。方法は4つあり、どれか1つで足ります。タイムスタンプが付いたデータを受け取る、受け取ったデータに自分でタイムスタンプを付ける、訂正削除の履歴が残るシステムを使う、そして改ざん防止のための事務処理規程をつくって運用する——最後の方法なら、追加の費用はかかりません。
2つ目は備付けです。画面と印刷機があればよく、同チェックシートは性能や台数を要件としていません。3つ目が検索で、ここがAIの出番になります。
規程のひな形は国税庁が配っている
事務処理規程は、自作する必要がありません。国税庁のサイトに各種規程のサンプルがあります。ひな形をAIに読ませ、自社の部署名と担当者名に置き換えさせるだけなら、30分ほどで形になります。
検索は取引年月日・取引金額・取引先の3項目
検索要件は、「取引年月日」「取引金額」「取引先」の3項目で探せるようにすることです。専用ソフトがなくても、ファイル名をこの3つでそろえておけば足ります。
ここでAIの読み取りが効きます。PDFや写真を渡して、日付・金額・取引先を抜き出させ、決めた並び順のファイル名を作らせる。人が手で打つより速く、表記もそろいます。
さらに、範囲を指定した検索と、2つ以上の項目を組み合わせた検索も求められます。ただし前述のチェックシートによれば、基準期間(2年(期)前)の売上高が5,000万円以下の事業者などは、税務調査でデータのダウンロードに応じられるようにしていれば、検索要件そのものを満たす必要がありません。
猶予措置は「整っていない理由」が要る
原則どおりに保存できない場合の猶予措置もあります。チェックシートは相当の理由の例として「システム等の整備が間に合わない」「人手不足」「システム整備の資金不足」を挙げています。ただし猶予でも、データの提示と、出力した書面の提示には応じられる必要があります。
新制度「デジタルシームレス保存」とは何か
令和7年度税制改正で、自動化を前提にした制度が新しくできました。国税庁は前掲の令和8年6月の資料で、デジタルシームレス保存を「請求書等の電子取引データを自動で保存し、帳簿に自動連携する仕組み」と明記しています。
制度の中身は「請求書等を帳簿に自動連携する仕組みに対応した制度が新設されました」(令和7年4月)に示されています。求められるのは、改ざん防止の確保、記帳の適正性確保、電子帳簿との相互関連性確保の3点です。
対象になるのは、デジタル庁が管理する仕様のデジタルインボイス、または預貯金口座の決済データです。人の手入力を通さない経路をつくることが、そのまま優遇の条件になっています。
優遇措置は3つある
要件を満たすと、税制上の優遇が受けられます。優良な電子帳簿では、関連する過少申告があっても加算税の割合が原則10%から5%に軽減されます。
デジタルシームレス保存では、電子取引データにからむ仮装・隠蔽について、重加算税の10%加重の対象から外れます。適用は令和9年1月1日以後に法定申告期限が到来する国税からです。
個人事業者には、もう1つあります。いずれかの要件を満たして電子申告すると、青色申告特別控除が65万円から75万円に上がります。こちらは令和9年分以後の所得税が対象です。届出は、適用を受ける年分の法定申告期限までに出します。令和8年分から受けたい個人事業者なら、期限は令和9年3月15日です。
機能を満たすソフトかどうかは、公益社団法人日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)の認証制度のページで確かめられます。認証マークのあるソフトは、要件を満たす機能を備えています。
AIに読ませる前の4手順
順番が大事です。改ざん防止とファイル名の決まりを先に固めてから、AIに読ませます。逆にすると、数百枚を読み終えてから全部やり直すことになります。
総務省の令和8年版情報通信白書「生成AIの業務利用状況」によると、何らかの業務で生成AIを使う日本企業は86.4%に達しました。最も多い用途は議事録・メール作成補助で約7割です。経理はまだ手つかずの会社が多く、伸びしろが残っています。
なお、領収書や請求書には取引先名や個人名が含まれます。社外のAIサービスに渡す前に、何を入れてよいかを決めてください(AIに入れてはいけない情報)。個人情報保護委員会の「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」は、利用目的の達成に必要な範囲かを十分に確認するよう求めています。
AIに任せる作業と、人が確かめる作業
AIの読み取りは万能ではありません。手書きの領収書、感熱紙のかすれ、けた区切りのカンマは、いまも誤読の定番です。金額と日付だけは、人が原本と突き合わせる——この1手を残しておけば、決算期に慌てずに済みます。
もう1つ、読み取り後に原本データを消さないことです。AIが作ったCSVは索引であって、保存すべきは受け取ったPDFそのものです。Excelでの集計の進め方はExcelデータの整理・集計をAIに手伝ってもらう方法にまとめています。
よくある質問(Q&A)
領収書をAIで読み取って保存したら、紙は捨てていいんですか。
紙でもらったものは、スキャナ保存の要件を満たしていれば廃棄できます。ただしスキャナ保存は希望する会社だけの制度なので、要件を満たさないまま捨てるのは危険です。先に社内のルールを決めてください。
うちは小さい会社だけど、検索できるようにしないとダメですか。
基準期間(2年(期)前)の売上高が5,000万円以下なら、検索要件を満たす必要はありません。税務調査でデータのダウンロードに応じられることが条件です。それでも探しやすさのため、ファイル名はそろえておくと楽になります。
会計ソフトを入れ替えないと、新しい優遇は受けられませんか。
デジタルシームレス保存は、国税庁長官が定める基準に適合するシステムの利用が前提です。まずは今のソフトがJIIMA認証を受けているかを確かめ、届出書の提出期限から逆算して判断してください。
まとめ
- 電子帳簿等保存制度は3区分。電子取引データ保存だけは法人・個人事業者が必須。
- 満たすのは改ざん防止・検索・備付け。検索は取引年月日・取引金額・取引先の3項目。
- 新設のデジタルシームレス保存で、個人事業者の控除は令和9年分から75万円に上がる。
経理のAI化でつまずく会社には、共通点があります。読み取りの精度から話を始めてしまうことです。精度は年々上がりますが、保存のルールは自分で決めない限り、いつまでも決まりません。順番を逆にしないでください。
そしてもう一つ。改ざん防止は、お金をかけずに規程で満たせます。ソフトの検討で止まっている会社ほど、この入口を見落としています。まずは規程を1枚つくり、ファイル名の決まりを3項目でそろえる。そこまで進めてから、AIに読ませてください。ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
── AutoAIPlatform編集部