法律が決めているのは5つの点

就業規則について法律が決めている5つの点。1.作成と届出は常時10人以上で義務。2.必ず書く3項目は労働時間・賃金・退職。3.過半数代表の意見を書面にして添付する。4.全員への周知は見やすい場所に備える。5.違反には30万円以下の罰金。
図1|就業規則について法律が決めている5つの点

就業規則は、会社が好きに書いてよい文書ではありません。書き方も、作る手順も、配り方も法律が決めています。e-Gov法令検索の労働基準法で条文を読めます。

第89条は「常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない」と明記しています。10人にはパート・アルバイトも含みます。正社員だけで数えて「うちは対象外」と判断する会社が、いまも少なくありません。

第90条は、作成や変更のときに過半数を代表する者の意見を聴くことを求めています。届け出るときは、その意見を記した書面を添えます。第106条は、就業規則を見やすい場所に掲示するなどの方法で労働者に周知させることを定めています。

そして第120条は、第89条・第90条第1項・第106条の違反を30万円以下の罰金の対象としています。作っていない、意見を聴いていない、配っていない——どれも罰則の射程に入ります。

必ず書く3項目と、制度があるときだけ書く項目

第89条が並べる10号の記載事項は、性格が2つに分かれます。制度の有無にかかわらず必ず書くものと、その制度を設ける場合にだけ書くものです。AIに下書きを頼むときは、この違いを先に伝えておくと出来が変わります。

表1|就業規則に書く事項の2分類(労働基準法第89条)
比べる点必ず書く(第1号〜第3号)制度があるときだけ書く
代表例始業・終業の時刻、休憩、休日退職手当、賞与、表彰・制裁
賃金決定・計算・支払の方法と昇給臨時の賃金等、最低賃金額の定め
退職退職に関する事項(解雇の事由を含む)退職手当の範囲・計算・支払時期
書かない場合記載漏れは第89条違反になる制度が無ければ書かなくてよい
AIの使い方抜けている項目を洗い出させる自社に制度があるかを人が確認

安全衛生、職業訓練、災害補償、従業員の費用負担なども、定めを置くなら記載が必要です。第10号は、その事業場の労働者すべてに適用される定めをする場合はこれに関する事項と定めており、受け皿として広く働きます。AIの利用ルールを全社に適用するなら、この第10号にあたる可能性があります。

ひな形は厚生労働省が無料で配っている

ゼロから書く必要はありません。厚生労働省はモデル就業規則を公開しています。最新は令和7年12月版で、Word形式とPDF形式の両方が置かれています。

この版では、国会または地方議会の議員に立候補するための休暇に関する規程例が第32条として追加され、犯罪被害者等の被害回復のための休暇の紹介も加わりました。手元の規則が数年前のひな形のままなら、条文の構成そのものが古くなっています。

入力しながら作る方法もあります。厚生労働省の就業規則作成支援ツールは、令和7年12月現在のモデル就業規則を使い、労働基準監督署に届出が可能な就業規則をPDFで出力できます。

AIに渡すのは「自社の規則」と「最新のひな形」

比較作業はAIが得意です。今の規則とモデル就業規則の目次を並べて渡し、条文の抜けと表現の古さだけを一覧にさせる。この使い方なら、法律の解釈をAIに委ねずに済みます。

10月1日から、方針を示すことが義務になる

就業規則を見直す動機は、今年は外からやってきます。厚生労働省の「令和8年10月1日からハラスメント対策が強化されます!」によると、同日からカスタマーハラスメント対策が事業主の義務になります。対象は業種・規模を問わず全企業です。

資料は、事業主が必ず講じなければならない措置として10項目を挙げています。先頭にあるのが、毅然とした態度で対応し労働者を保護する旨の方針を明確化し、労働者に周知・啓発することです。相談窓口の設置、事実関係の確認、被害者への配慮、再発防止も並びます。

カスタマーハラスメントの定義も示されました。①顧客等の言動であること、②社会通念上許容される範囲を超えたものであること、③労働者の就業環境が害されること——この3つをすべて満たすものを指します。電話やSNSを通じたものも含まれます。

方針は就業規則に書かなければならないと法律が定めているわけではありません。ただし周知が要件である以上、全員が読む文書に落とすのが最も確実です。詳しい手順は「カスハラ対策」が義務になる前ににまとめています。

総務は、いちばんAIが入っている部門

就業規則の見直しは、多くの会社で総務の仕事です。そしてこの部門は、中小企業の中でAI導入が最も進んでいます。

独立行政法人中小企業基盤整備機構の中小企業のAI等の利活用に係る実態調査(2026年3月)は、全国の中小企業10,000社に調査し1,647社の回答を得ています。AIの導入率は20.4%、検討中が18.6%で、合わせて39.0%が前向きという結果でした。

業務分野別に見ると、AI導入率が最も高いのは総務・管理部門の68.3%です。営業・販売・サービス部門60.3%、経営・企画部門58.5%と続きます。導入済み企業が使っているAIは生成AIが82.6%で突出しており、導入目的は業務効率化・作業時間の短縮が87.0%を占めました。

同じ調査では、不足している情報として成功事例や活用事例が83.3%と最も高く挙がっています。就業規則の読み合わせは、その空白を埋める手近な題材になります。

AIで見直す4手順

就業規則をAIで見直す4手順。1.今の規則を読ませて条文を一覧に並べ直す。2.モデル規則と比べて抜けている条文を洗う。3.自社の実態に直し、AIの案は必ず書き換える。4.意見聴取と届出はここは人が必ず行う。
図2|就業規則をAIで見直す4手順

順番があります。まず今の就業規則をAIに読ませ、条文番号と見出しの一覧に並べ直させます。紙しかない会社は、まず文字にするだけでも後が楽になります。

次に、モデル就業規則の目次と突き合わせ、自社に無い条文を洗い出します。ここでAIが出すのは候補の一覧であって、結論ではありません。追加するかどうかは会社が決めます。

3つ目が書き換えです。ひな形の文言は一般的な会社を想定しています。始業時刻も休日も手当の名前も、自社の実態に合わせて直さなければ意味がありません。AIの出力をそのまま貼ると、実在しない手当の条文が残ります。

最後が意見聴取と届出です。過半数代表者の選び方、意見書の作成、所轄の労働基準監督署への提出、そして全員への周知。この工程はAIの外にあります。

就業規則を丸ごとAIに貼る前に

就業規則には、賃金体系や懲戒の基準といった社外に出したくない情報が入ります。社外のAIサービスに渡す前に、入力してよい範囲を決めてください(AIに入れてはいけない情報)。無料版では入力内容が学習に使われる設定のこともあります。

AIに任せてはいけない判断

AIに任せる作業と人が決める作業の対比。条文の抜け漏れ探しはAI、労働時間の上限は人。むずかしい言葉の言い換えはAI、賃金と手当の中身は人。説明文の下書きはAI、懲戒処分の重さは人。変更点の一覧づくりはAI、不利益変更の可否は人。
図3|AIに任せる作業と、人が決める作業

境目ははっきりしています。形を整える作業はAI、責任の伴う判断は人です。条文の抜け漏れを探す、法律用語をやさしく言い換える、社員向けの説明文を下書きする——ここまではAIで十分です。

一方で、労働時間の上限をどこに置くか、どの手当をいくらにするか、どの行為にどの懲戒を当てるかは、会社が負う責任そのものです。AIは自社の労務実態も、過去の運用も知りません。

とりわけ注意が要るのが、労働条件を下げる変更です。休日を減らす、手当を廃止するといった変更は、就業規則を書き換えれば済むものではありません。AIは「変更できます」と答えがちですが、その一言を根拠にしないでください。判断に迷う場面では、社会保険労務士や所轄の労働基準監督署に確認するのが早道です。

そのまま使えるプロンプト

最初の1回は、比較から始めるのが安全です。下のプロンプトは、判断をAIに求めず、差分の一覧だけを出させる形にしています。

あなたは中小企業の総務担当を補助するアシスタントです。これから当社の就業規則の目次と条文見出しを貼ります。厚生労働省のモデル就業規則(令和7年12月版)の一般的な構成と照らし合わせ、次の3つを表にしてください。1. 当社にあってモデルに無い条文、2. モデルにあって当社に無い条文、3. 表現が古い可能性のある条文とその理由。追加すべきかどうかの結論は書かず、事実の対比だけを出してください。判断が必要な箇所には「要確認」と書き、理由を1行で添えてください。

出てきた一覧は、そのまま社内の検討メモになります。社会保険労務士に相談するときも、論点が整理されている分だけ話が早く進みます。なお、AIは条文番号を取り違えることがあります。番号は原文で確かめてください。

よくある質問(Q&A)

従業員が9人なんですが、就業規則は作らなくていいですか。

労働基準法上の作成・届出義務は、常時10人以上を使用する事業場にかかります。9人なら義務ではありません。ただしパート・アルバイトも人数に含めますし、労働条件を明確にしておく利点は人数と関係なくあります。

AIが作った就業規則をそのまま労働基準監督署に出してもいいですか。

形式としては提出できますが、勧められません。過半数代表者の意見を聴き、その書面を添えることが第90条で求められており、内容が自社の実態と合っているかは人しか確認できません。下書きとして使い、中身は必ず読み直してください。

カスハラ対策は、就業規則を直さないと義務違反になりますか。

義務の内容は方針の明確化と周知、相談体制の整備などの措置です。就業規則への記載そのものを法律が求めているわけではありません。とはいえ全員が読む文書に落とすのが確実なので、10月1日に向けて規則か社内規程で形にしておくのが安全です。

まとめ

  • 下書きはAIで作れる。ただし意見聴取・届出・周知は法律が定めた人の手続。
  • ひな形は厚生労働省のモデル就業規則(令和7年12月版)と作成支援ツールが無料で使える。
  • 10月1日からカスハラ対策が全企業の義務。方針の明確化と周知を含む10措置が求められる。

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筆者コメント

就業規則の相談でいちばん多いのは、「10年前に作ったきり」という話です。作った当時は正しかった文書が、法改正のたびに少しずつ現実とずれていきます。ずれは、事故が起きた日に一気に表面化します。

AIが変えたのは、この点検の費用です。条文を並べて比べる作業は、以前なら専門家に頼むか、丸一日かけて自分でやるしかありませんでした。今は30分で一覧が出ます。浮いた時間を、中身を決める話し合いに使ってください。決めるのは人の仕事のままです。ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

── AutoAIPlatform編集部

著者情報

AutoAIPlatform編集部 / 中小企業向けAI業務教育メディア

中小企業の経営者、管理職、総務、人事、営業、研修担当者が、AIを安全に仕事へ取り入れるための教育記事を作成しています。AIの操作だけでなく、業務設計・社内ルール・人による確認を重視します。