11月までは変わらない、変わるのは12月

国税庁は2026年8月31日に「令和8年分 年末調整のしかた」を公表しました。令和8年度税制改正による基礎控除の引上げなどが、令和8年12月1日に施行され、令和8年分以後の所得税について適用されると整理されています。

実務で大事なのは、変更の届く時期です。同じ冊子は「令和8年11月までの給与等の源泉徴収事務に変更は生じません」と明記しています。毎月の給与計算は、いつもどおりで構いません。12月の年末調整で一年分をまとめて計算し直し、それまでに天引きした額との差を精算する形になります。

規模の話もしておきます。国税庁の令和6年分 民間給与実態統計調査によると、年末調整を行った人は4,721万人。給与所得者6,077万人のうち、8割近くが会社の年末調整で納税を終えています。会社が配る紙の精度が、そのまま多くの人の税額になります。

令和8年分で変わる4点

令和8年分で変わる4点。基礎控除は58万円から62万円へ。給与所得控除の最低保障額は65万円から74万円へ。扶養の所得要件は58万円以下から62万円以下へ。生命保険料控除は23歳未満の子がいる場合に6万円まで。国税庁「令和8年分 年末調整のしかた」より。
図1|国税庁の資料に見る令和8年分の変更点

変わる数字は4つです。基礎控除の本体が58万円から62万円へ。給与所得控除の最低保障額が65万円から74万円へ。この2つが動いた結果として、扶養に入れるかどうかの所得の線と、勤労学生控除の線も一緒に動きました。

覚えるのは1組だけで足ります。「家族の給与収入が136万円以下なら扶養に入る」。所得の言葉に直せば合計所得の要件そのものです。年収から給与所得控除の最低保障額を引いた額が、所得の線にそのまま一致します。

扶養の線はどこへ動くのか

区分ごとに線が動きます。社員に渡す紙には、所得ではなく給与収入の額で書くほうが伝わります。

表1|扶養親族等の所得要件はこう変わる(かっこ内は収入が給与だけの場合)
区分改正前令和8・9年分社員への言い方
扶養親族・同一生計配偶者58万円以下(123万円以下)62万円以下(136万円以下)「136万円までなら扶養です」
特定親族58万円超123万円以下62万円超123万円以下(136万円超197万円以下)「19歳から22歳の子はここ」
配偶者特別控除の対象58万円超133万円以下62万円超133万円以下(136万円超207万円以下)「配偶者は別の枠があります」
勤労学生85万円以下(150万円以下)89万円以下(163万円以下)「働く学生本人の控除です」

表の右端をつけた理由があります。制度の言葉をそのまま読み上げても、自分に関係があるかは伝わりません。「あなたの家族はいくら稼いだか」に翻訳して、はじめて自分ごとになるからです(社内通達をAIで整える方法)。

去年の紙のままだと控除が漏れる

ここが今年いちばん取りこぼしやすい点です。線が広がったということは、去年は扶養から外れていた家族が、今年は扶養に入れる場合があるということ。ところが会社の手元にあるのは、去年の基準で書かれた申告書です。

国税庁の資料は、この改正で新たに扶養親族等の要件を満たすことになった親族について、控除を受けるには給与所得者の扶養控除等(異動)申告書等の提出が必要だと説明しています。会社が黙っていると、本人は気づかないまま控除を逃します。

該当しやすいのは、子どもがアルバイトを増やした家庭、配偶者がパートの時間を延ばした家庭です。同じ調査では、配偶者控除または扶養控除の適用を受けた人が1,175万人、扶養している人1人あたりの平均扶養人員は1.41人でした。珍しい話ではなく、10人いれば数人は関係します。

23歳未満の子がいる人の保険料控除

もう1つ、保険料控除にも特例が入りました。年齢23歳未満の扶養親族がいる場合、新しい契約の一般生命保険料控除の限度額が4万円から6万円に上がります。令和8・9年分の2年間の措置です。

上限が全体で増えるわけではない

一般生命保険料控除・介護医療保険料控除・個人年金保険料控除を合わせた限度額は12万円のままです。増えたのは一般の枠だけ。「保険料控除が2万円増える」と単純に伝えると、後で説明のやり直しになります。

案内文には、金額ではなく確認のお願いを書くのが安全です。「お子さんを扶養している方は、生命保険料控除の枠が変わる場合があります。控除証明書は例年どおり全部お出しください」。年齢の線引きは会社側で確認すれば足ります。

様式と源泉徴収票の出し方も動く

令和8年分年末調整のための各種様式は国税庁のサイトで配布済みです。年末調整手続の電子化に向けた取組についてによれば、令和8年分の年調ソフトは2026年8月7日に試作版が公開されました。

提出の側では、もっと大きな変更が控えています。国税庁の源泉徴収票のみなし提出の特例 特設ページは、令和9年1月1日以後、市区町村に給与支払報告書を提出すれば税務署に源泉徴収票を提出したものとみなされると説明しています。税務署提出用を別に作る作業がなくなります。

本人に渡す分は今までどおり

みなし提出の対象は税務署への提出分だけです。受給者へ交付する源泉徴収票は、引き続き全員分を作って渡します。同ページは、源泉徴収票と支払報告書を同時に作れるeLTAXの一元化機能が2026年9月で終了するとも案内しています。

AIに任せる作業と人が確かめる作業

AIに任せる作業と人が確かめる作業。AIに任せてよいのは案内文の下書き、むずかしい語の言い換え、想定問答を作る、周知メールの要約。人が確かめるのは扶養に入るかの判定、控除額と税額の計算、提出された書類の確認、申告書の受理と保管。
図2|AIに任せる作業と人が確かめる作業

AIに任せてよいのは文章の仕事です。案内文の下書き、制度の言葉のやさしい言い換え、想定問答の一覧づくり、社内メールの要約。どれも個人を特定しない、制度の説明にすぎません。

任せてはいけないのは判定と計算です。誰が扶養に入るか、控除額はいくらか、提出された書類が足りているか。間違えれば源泉徴収税額に直結し、あとで本人が確定申告をする羽目になります。社員の氏名・給与額・家族構成を社外のAIに貼らないことも徹底してください(入力してはいけない情報一覧)。

12月までの4歩と案内文の3要素

12月までにやる4歩。1.変わる点を1枚にする、国税庁の資料から4点を写す。2.全員に同じ案内を配る、個別の相談はそのあとに。3.心当たりを申し出てもらう、家族の収入が増えた人へ。4.受け取った書類を確認、控除額の計算は人が行う。
図3|12月までにやる4歩

第1歩、変わる点を1枚に写します。出典は国税庁の冊子だけにして、ほかの解説記事は混ぜません。第2歩、全員に同じ案内を配ります。第3歩、心当たりのある人に申し出てもらいます。第4歩、集まった書類を人が確認します。順番を逆にして個別に声をかけると、家庭の事情を詮索された印象になります。

案内文に入れる要素は3つだけです。変わること(扶養に入れる線が広がる)、変わらないこと(提出する書類の種類も締切も例年どおり)、誰がいつ何をするか(心当たりがあれば○月○日までに総務へ)。人が不安になるのは変化そのものではなく、自分が何をすべきか分からないときです。

そのまま使えるプロンプト

角かっこを置き換えてください。案内文と想定問答が一度に出てきます。

あなたは、中小企業の総務担当者を助ける文章の専門家です。 ―――当社の状況――― 業種:[業種]/従業員:[人数]人/書類の提出締切:[月日] ―――伝える事実(これ以外を足さない)――― ・2026年12月の年末調整から、扶養親族等の所得要件が広がる ・家族の収入が給与だけなら、年収136万円以下が目安になる ・去年は対象外だった家族が、今年は扶養に入れる場合がある ・心当たりのある人は総務へ申し出て、申告書を書き直す ・提出する書類の種類と締切は例年どおり ―――作るもの――― 1つ目:全員に配る案内文(A4一枚)。「変わること」「変わらないこと」「誰がいつ何をするか」の3つで構成する。 2つ目:総務に来そうな質問と答えを8問。話し言葉で書く。 条件1:氏名・給与額・家族の状況は書かず、全員に同じ内容にする。 条件2:控除額や税額の試算は書かず「個別に確認します」と案内する。 条件3:家族の働き方を増やすことも減らすことも勧めない。 条件4:専門用語を使わず一文60字以内。渡していない事実は作らない。

条件2と条件3が肝です。試算と、働き方への口出し。この2つを入れた瞬間、案内は連絡ではなく圧力になります。出てきた文章は、必ず国税庁の冊子と突き合わせてから配ってください(AIの回答を確認する手順)。

よくある質問(Q&A)

毎月の給与計算は、10月や11月から変えないといけませんか。

いいえ、変える必要はありません。国税庁の冊子は、11月までの源泉徴収事務に変更は生じないと明記しています。改正が効いてくるのは12月に行う年末調整からです。そこで一年分の税額を計算し直し、毎月天引きしてきた額との差を精算します。

去年の申告書をそのまま使い回してもいいんでしょうか。

使い回すと控除の取りこぼしが起きます。扶養の所得要件が広がったため、去年は書けなかった家族を今年は書ける人がいるからです。国税庁も、新たに要件を満たすことになった親族の控除を受けるには扶養控除等(異動)申告書等の提出が必要だとしています。全員に一度声をかけるのが確実です。

案内文をAIに書かせたら、社員に「AIが作った」と言うべきですか。

言う必要はありませんが、隠す必要もありません。大事なのは、中身を人が確かめて会社の名前で出しているかです。数字は国税庁の冊子と突き合わせ、締切と窓口は自社の実情に書き換える。この2つをやってあれば、下書きが何であっても会社の文書として成立します。

まとめ

  • 2026年12月の年末調整から、扶養親族等の所得要件が合計所得62万円以下(給与収入136万円以下)に広がる。11月までの毎月の給与計算は変わらない。
  • 新たに要件を満たす家族がいる人は、扶養控除等(異動)申告書の提出が必要。会社が声をかけないと本人は気づかない。
  • 会社がやるのは税額の暗算ではなく案内の準備。文章の下書きと想定問答はAI、扶養の判定と控除額の計算は人が担う。

制度改正の話は数字の羅列に見えます。けれど現場で起きるのは、休憩室での「うちの子、今年けっこう稼いだんだけど大丈夫かな」という一言です。そこで「あ、それ今年から変わったんですよ」と返せるかどうか。違いは知識の量ではなく、紙を一枚用意してあったかどうかだけです。

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AIの使いどころと、人が確認すべき場面を整理しましょう。

筆者コメント

年末調整の相談でいちばん多いのは、制度の質問ではありません。「これ、私は出さなくていいんですよね」という確認です。人は、自分が対象かどうかだけを知りたがっている——毎年この時期にそう感じます。

だから案内文は、制度の解説を短くして、「心当たりがある人はここへ」の一行を大きくするほうが効きます。整えるのはAI、決めて渡すのは人。ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

── AutoAIPlatform編集部

著者情報

AutoAIPlatform編集部 / 中小企業向けAI業務教育メディア

中小企業の経営者、管理職、総務、人事、営業、研修担当者が、AIを安全に仕事へ取り入れるための教育記事を作成しています。AIの操作だけでなく、業務設計・社内ルール・人による確認を重視します。