排出量を聞かれる会社は増えている

日本商工会議所と東京商工会議所は2026年7月16日、「2026年度中小企業の脱炭素に関する実態調査」集計結果を公表しました。全国の中小企業2,497社が回答しています。

同調査では、取引先などから脱炭素の要請を受けている企業は14.2%でした。業種別では製造業が26.0%、建設業が15.3%です。製造業では約4社に1社が、すでに何らかの要請を受けている計算になります。

脱炭素に取り組む企業は全体で52.9%でした。一方、従業員5人以下の企業では34.2%にとどまります。小さな会社ほど、ある日突然、取引先からの書類で初めてこの話に触れることになります。

取引先は何を求めているか

取引先から求められた内容の割合。排出量の把握・報告58.0%、再生可能エネルギーの利用30.1%、削減目標の設定・進捗報告25.1%。要請が取引の強い条件になっている企業は42.8%。日商・東商2026年調査、要請を受けた355社。
図1|取引先から求められた内容(要請を受けた355社)

要請を受けた355社に中身を聞くと、最も多いのは「温室効果ガス排出量の把握・報告」で58.0%でした。「再生可能エネルギーの利用」が30.1%、「削減目標の設定と進捗報告」が25.1%と続きます。要請の相手は「取引先(顧客)」が76.9%です。

軽く見てよい話ではありません。要請が「取引条件になっている」は13.8%、「対応が事実上求められている」は29.0%でした。合わせて42.8%が、取引の強い条件になっていると答えています。まず求められるのは削減ではなく、今の排出量を数字で示すことです。

Scope1・Scope2・Scope3の違い

排出量の質問には、Scope(スコープ)という区分の言葉がよく出てきます。環境省のグリーン・バリューチェーンプラットフォーム「サプライチェーン排出量全般」は、3つに分けて説明しています。

Scope1は、自社で燃料を燃やしたときの直接の排出です。社用車のガソリンや、工場のボイラーの重油が当たります。Scope2について、同ページは「他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出」と明記しています。オフィスや店舗の電気代の分です。

Scope3は、それ以外の取引先や物流での排出です。取引先が自社の数字を求めるのは、あなたの会社のScope1とScope2が、取引先にとってのScope3の一部になるからです。中小企業がまず答えるべきは、Scope1とScope2です。

集める資料は請求書でよい

計算に使う「使用量」は、毎月届く請求書や検針票に載っています。特別な計測器は要りません。まずは直近の12か月分をそろえます。

表1|排出源ごとに集める資料と、係数の調べ先
排出源区分集める資料使う単位
電気Scope2電力会社の請求書・検針票kWh
都市ガスScope1ガス会社の請求書立方メートル
ガソリン・軽油Scope1給油カードの明細・領収書リットル
灯油・重油Scope1燃料店の納品書リットル

注意したいのは、金額ではなく使用量を拾うことです。電気代は単価の変動で上下しますが、排出量は使った量で決まります。テナントで電気代が共益費に含まれる場合は、管理会社に使用量を聞きます。

社用車が複数ある会社は、給油カードの明細が便利です。車ごと、月ごとの給油量がまとめて載っているため、AIに表へ転記させる作業と相性がよい資料です。現金で給油した分は、領収書を月ごとに束ねておきます。

計算は「使用量×排出係数」

環境省の同じページは、収集したデータをもとに、活動量と排出原単位から排出量を算定すると説明しています。活動量は使用量、排出原単位は「1単位あたり何トン出るか」を示す排出係数のことです。

電気の係数は、環境省の「算定方法・排出係数一覧」に、電気事業者ごとの一覧として載っています。令和8年提出用の一覧では、全国平均係数が1kWhあたり0.000423トンです。

たとえば月3,000kWhを使う事務所なら、年36,000kWhです。全国平均係数で計算すると、36,000×0.000423で年約15.2トンになります。これはあくまで計算例です。都市ガスや軽油も、同じ一覧の係数を使って同じ形で計算し、足し合わせます。

電力会社と契約しているプランによっても、係数は変わります。同じ一覧には、再生可能エネルギーのプランなどメニューごとの係数も載っています。契約書や請求書でプラン名を確かめてから係数を選ぶと、実態に近い数字になります。

係数は「どれを使ったか」を必ず書く

係数は年度や電力会社で変わります。回答には使った係数の名前と年度を添えます。

AIに任せること、人が持つこと

AIと人の分担の対比。AIに任せる:請求書の数字を表に転記、排出係数を掛ける計算、回答文と説明の下書き、用語をやさしく説明。人が持つ:原本と合っているか照合、使う係数を決める、取引先へ出す数字の承認、削減目標を約束するか。
図2|計算と文章はAI、数字の責任は人

AIが得意なのは、請求書の写真やPDFから使用量を読み取って表にする作業です。12か月分を月別の表に並べ、係数を掛けて合計を出すところまで任せられます。取引先の書式にある専門用語の意味を聞くのにも使えます。

一方で、AIは数字を読み違えることがあります。転記した表は、必ず原本と1行ずつ照合します。どの係数を使うか、取引先に出してよいかの判断は人が持ちます。数字の確かめ方はAIが出した数字を確かめる記事でも解説しています。

そのまま使えるプロンプト例

あなたは中小企業の総務担当を手伝うアシスタントです。添付した電気とガスの請求書から、月ごとの使用量(kWhと立方メートル)だけを読み取り、月別の表にしてください。金額は使いません。読み取れない月は推測せず「不明」と書いてください。次に、私が指定する排出係数を掛けて、月別と年間のCO2排出量(トン)を計算してください。電気の係数:[ここに入れる] ガスの係数:[ここに入れる]

最初の回答までの4歩

最初の回答までの4歩。1.何を求められたか確かめる、範囲・期間・様式を聞く。2.電気と燃料の請求書を集める、まずは直近の12か月分。3.AIで表にして係数を掛ける、係数は環境省の一覧から。4.前提を添えて回答する、概算なら概算と書く。
図3|最初の回答までの4つの手順

最初にするのは、要請の中身の確認です。どの範囲(全社か、その取引先向けの製品だけか)、どの期間、どの様式で出すのかを聞きます。聞かずに計算を始めると、二度手間になります。

完璧な数字を目指す必要はありません。請求書が欠けた月があれば、その旨を書いた概算で構いません。回答文には、対象の範囲と期間、使った係数、概算であることを書きます。取引先への文面づくりは取引先への依頼文をAIで書く記事の考え方も使えます。

ひとりで抱えず、相談先を使う

同じ調査では、要請を受けた企業の75.7%が対応に課題を抱えていました。「コストがかかる(価格に転嫁できない)」が43.2%、「対応できる人員が不足」が33.1%です。それなのに、取引先などから支援を受けている企業は27.6%にとどまります。

支援を受けている企業の中身は「わかりやすい取り組みガイドラインの提供」が49.0%で最多でした。要請してきた取引先に、算定の手引きや様式の見本がないか聞くのは遠慮しなくてよい行動です。地域の商工会議所も相談先になります。

国や自治体の支援で効果があったものとしては、「省エネ設備投資に対する支援」が51.2%、「省エネルギー診断」が23.3%でした。排出量を出したあとに削減を求められたら、診断で電気の使い方を見直すのが近道です。

削減目標は、その場で約束しない

排出量の報告と、削減目標の約束は別の話です。目標を求められたら、設備投資の計画や費用と合わせて社内で決めてから回答します。AIが書いた目標の数字をそのまま出さないでください。

よくある質問(Q&A)

うちみたいな小さな会社でも、CO2排出量って計算できるんですか?

できます。電気やガス、燃料の請求書に載っている使用量に、環境省が公表する排出係数を掛ければ概算が出ます。12か月分の請求書があれば始められます。

ChatGPTに請求書を読ませて排出量を出しても大丈夫?

表にする作業と計算は任せられます。ただしAIは数字を読み違えることがあるので、原本と照合してから使ってください。使う係数と、取引先に出すかどうかは人が決めます。

取引先から排出量を聞かれたけど、断ったらまずいですか?

日商・東商の2026年調査では、要請を受けた企業の4割超が、取引の強い条件になっていると答えています。概算でも前提を添えて回答するほうが、関係を保ちやすいでしょう。

まとめ

  • 脱炭素の要請を受けた中小企業の58.0%が、排出量の把握・報告を求められている。42.8%では取引の強い条件になっている。
  • 最初に答えるのはScope1(燃料)とScope2(電気)。請求書の使用量に、環境省の排出係数を掛ければ概算が出る。
  • 転記と計算と文章はAI、原本との照合、係数の選択、回答の承認は人。前提を明記した概算から始める。

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請求書の転記のように、AIに任せられる定型作業を社内で洗い出すときに使えます。

著者情報

AutoAIPlatform編集部 / 中小企業向けAI業務教育メディア

中小企業の経営者、管理職、総務、人事、営業、研修担当者が、AIを安全に仕事へ取り入れるための教育記事を作成しています。AIの操作だけでなく、業務設計・社内ルール・人による確認を重視します。