2026年の賃上げの水準
厚生労働省は2026年10月21日、「令和8年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況」を公表しました。常用労働者100人以上の企業が対象で、有効回答は1,862社です。
平均賃金を引き上げた、または引き上げる企業は92.0%でした。1人平均の改定額は13,926円、改定率は4.4%で、改定率は前年と同じ水準です。賃上げは、もう「一部の会社の話」ではありません。
会社の景気の感じ方も上向いています。業況が「良い」と答えた企業は40.3%で、前年の35.3%から増えました。一方で、原材料費・経費が「増加」した企業は、すべての規模で8割を超えています。
その分、社員の目も厳しくなっています。ニュースで「4%超の賃上げ」を見た社員は、自分の昇給額をその数字と比べます。説明がなければ、上げた会社でも「うちは少ない」と受け取られかねません。
会社が小さいほど賃上げ率は低い
同じ調査を企業規模別に見ると、差がはっきりします。5,000人以上の企業は改定額16,680円・改定率4.8%でした。100〜299人の企業は11,279円・3.9%にとどまります。
もっと小さな会社のデータは、日本商工会議所と東京商工会議所の「中小企業の賃上げ・賃金改定に関する調査」(PDF)にあります。2,260社の回答で、2026年3月と4月の正社員の賃金を比べた結果です。
全体の賃上げ額は11,366円・賃上げ率4.01%でした。20人以下の小規模企業は9,170円・3.38%です。調査の方法は違うので単純には比べられませんが、大手と同じ率を出せない会社のほうが多いのが実情です。
中小企業の6割は「防衛的な賃上げ」
同じ日商の調査では、2026年度に賃上げを実施済み・実施予定の企業が71.3%でした。小規模企業では59.9%で、「現時点では未定」が31.2%あります。
注目したいのは中身です。賃上げをする企業のうち60.9%は、業績が良くなっていないのに賃上げに踏み切る「防衛的な賃上げ」でした。小規模企業では66.3%に上ります。
日商は調査結果の中で、この状況を「小規模企業でより厳しい状況」と明記しています。人を引き留めるために、利益が増えない中で給与を上げている会社が多いということです。だからこそ、その事情を社員に正直に伝える価値があります。
社員が知りたいのは理由と見通し
厚生労働省の調査で、賃金の改定で最も重視した要素は「企業の業績」が46.0%でした。次いで「労働力の確保・定着」が12.1%、「雇用の維持」が9.2%です。会社は理由があって額を決めています。ところが、その理由が社員に届いていないことがよくあります。
「上げてやった」という態度は、額が大きくても感謝より反発を生みます。伝えるべきは、会社がどう考えてこの額にしたかです。原材料費の上昇や、売上の見込みも、出せる範囲で数字にします。
大手と比べられたら、他社の数字ではなく、自社の評価基準と見直しの時期で答えます。評価コメントの書き方は人事評価コメントと1on1の準備でも扱っています。
昇給・ベア・賞与の違いと伝え方
「給料が上がる」といっても、仕組みは一つではありません。何が上がったのかを分けて伝えないと、社員は総額だけを見て判断します。数字は厚生労働省の令和8年調査です。
| 種類 | 何が上がるか | 2026年の状況 | 伝えるときの要点 |
|---|---|---|---|
| 定期昇給 | 年齢・勤続・評価で個人の給与 | 定昇制度あり84.2% | 評価の基準とセットで伝える |
| ベースアップ | 給与表そのもの(全員の水準) | 定昇制度のある企業の57.9%が実施 | 全員に共通の理由を説明する |
| 賞与 | その期の業績に応じた一時金 | 夏の賞与を支給88.5% | 毎年同じ額ではないと伝える |
| 手当 | 条件に当てはまる人への上乗せ | 本調査の対象外 | 対象と金額の根拠を示す |
ベースアップは一度上げると下げにくく、賞与は業績で上下します。「今年は賞与で報いる」のか「給与表を上げる」のかで、社員への約束の重さが違います。説明文では、この区別をはっきり書きます。
説明は就業規則と食い違わせない
常時10人以上を使う会社は、就業規則を作って届け出る義務があります。労働基準法(e-Gov法令検索)の第89条は、記載事項として「賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項」と明記しています。
つまり、昇給の決まりは、すでに就業規則に書いてあるはずです。説明文が「毎年必ず昇給する」と書き、規則が「業績により行わないことがある」なら、食い違いになります。
説明文を配る前に、就業規則と賃金規程を読み合わせます。規則を変えるなら、説明より先に規則の手続きを済ませます。10人未満の会社に届け出の義務はありませんが、昇給の考え方を書面にしておくと説明がぶれません。就業規則の基本は就業規則はAIで作れるかにまとめています。
AIに頼むこと、頼まないこと
AIに向くのは、全員に配る説明文の下書きです。会社の状況、上げた理由、仕組みの違い、次の見直し時期を、短い文書にまとめる作業は得意です。面談で出そうな質問の一覧も作れます。
一方、誰にいくら払うかを決めるのは会社です。AIは自社の業績も、社員一人ひとりの働きぶりも知りません。他社の平均を勝手に書き足すこともあるので、数字は必ず人が確かめます。
入力する情報には線を引きます。社員の名前と個人の給与額は、AIに貼り付けません。「全体で月額平均1万円の引き上げ」のように、会社全体の数字だけで足ります。詳しくはAIに入力してはいけない情報一覧を参照してください。
賃上げを伝える4つの手順
手順1で、なぜこの額にしたかを経営者が言葉にします。手順2では、給与明細が届く前に本人へ金額を伝えます。明細で初めて知ると、額にかかわらず不信感が残ります。
手順3で、AIに全員向けの説明文を下書きさせます。手順4の面談では質問を受け、次に給与を見直す時期を必ず伝えます。賃上げを見送る年も、この4歩は同じです。
そのまま使える説明文のプロンプト
角かっこの中を自社の内容に書き換えて使います。会社全体の数字だけを入れます。
条件の「メモにない約束は書かない」が要点です。AIは前向きな文を作ろうとして、来年の昇給まで約束しがちだからです。仕上がった文面は、就業規則と照らしてから配ります。
よくある質問(Q&A)
うちは大手ほど上げられないんだけど、社員にどう言えばいい?
他社の数字と張り合わず、自社の状況と理由を正直に伝えます。業績が伸びない中で上げたなら、その事情と次の見直し時期を示します。小さな会社の多くも同じ状況です。
賃上げの説明文をChatGPTに作らせても大丈夫?
下書きに使うのは問題ありません。社員の名前と個人の給与額は入れず、会社全体の数字だけで頼みます。AIが書き足した約束や数字は、人が消してください。
今年は賃上げできないとき、どう伝えたらいい?
見送る理由と、次に見直す時期をはっきり伝えます。黙って据え置くより、事情を言葉にしたほうが信頼は残ります。賞与や手当で報いる場合は、その仕組みも分けて説明します。
まとめ
- 2026年の1人平均改定率は4.4%。中小企業ほど率は低く、防衛的な賃上げが多い。
- 伝えるのは金額より先に、理由・仕組みの違い・次の見直し時期。説明は就業規則と食い違わせない。
- 説明文はAIで下書きし、個人の金額は入れず、約束と数字は人が確かめる。
賃上げは、額を決めた時点ではまだ半分です。社員に理由が届いて、初めて人を引き留める力になります。次の給与明細が届く前に、説明文のたたき台をAIで作っておいてください。