副業は「原則認める」が国の考え方

厚生労働省は2018年1月に「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を作り、2022年7月に改定しました。同ガイドラインは、裁判例を踏まえ「原則、副業・兼業を認める方向とすることが適当である」と明記しています。

禁止や一律の許可制にしている会社には、本業に支障が出るかを改めて見直すことを求めています。勤務時間の外をどう使うかは、基本的に社員の自由だからです。

相談への向き合い方も書かれています。副業の相談や自己申告をしたことを理由に、不利益に扱うことはできません。最初の返事の仕方が、そのまま会社の姿勢として伝わります。

副業をする人・したい人は増えている

総務省統計局の「令和4年就業構造基本調査 結果の概要」によると、副業がある人は305万人で、5年前より60万人増えました。働く人に占める割合は4.8%です。

副業がある人と追加就業希望者の推移。副業がある人は2017年245万人から2022年305万人へ。今の仕事を続けながら他の仕事もしたい追加就業希望者は2017年400万人から2022年493万人へ。総務省 令和4年就業構造基本調査。
図1|副業がある人と、副業をしたい人の推移(総務省 就業構造基本調査)

希望する人はさらに多くいます。今の仕事を続けながら別の仕事もしたい人は493万人で、5年前より93万人増えました。正社員の副業者比率は2.5%、非正規の社員は7.2%です。

社員10人の会社でも、相談はいつ来てもおかしくありません。ルールが無いまま相談を受けると、その場の気分で答えてしまいます。

断れるのは4つの場合だけ

ガイドラインは、裁判例で副業を禁止・制限できるとされた場合を4つ挙げています。厚生労働省の「副業・兼業」のページにあるモデル就業規則第68条も、同じ4つを定めています。

表1|副業を禁止・制限できる4つの場合と、確かめ方
場合具体例相談で確かめること
本業への支障深夜まで働き、翌日の仕事に響く副業の曜日と時間帯
秘密の漏えい顧客名簿や原価を副業先で使う副業先の事業内容
競業同じ地域で同じ商品を売る取引先や客層が重なるか
名誉・信用の毀損会社の評判を落とす仕事業務内容と名乗り方

この4つに当たらなければ、原則として認めます。「人手が足りないから」「前例がないから」は、断る理由になりません。当たる場合も、全部を断るのではなく、時間や業務の範囲を区切る道があります。

届出で確かめる3つのこと

ガイドラインは、届出制など副業の有無と内容を確かめる仕組みを設けておくことが望ましいとしています。確かめる項目として挙げているのは、次の3つです。

1つ目は副業先の事業内容、2つ目はそこで本人が担う業務の内容です。3つ目は、雇われて働くのか、労働時間を通算する対象になるのかです。届出書と合意書の様式例は、厚生労働省のパンフレットに載っています。

あわせて、副業を許すかどうかとその条件を、自社のホームページ等で公表することが望ましいとされています。採用の場面で、働き方の柔軟さを伝える材料にもなります。

届出は、始める前の一度きりにしないことも大切です。副業先や働く時間は、途中で変わることがあります。半年に一度など、内容に変わりがないかを確かめる時期を決めておくと、本人も申告しやすくなります。届出の内容は人事の書類として保管し、閲覧できる人を絞ります。

雇われる副業は、労働時間を通算する

副業先でも雇われて働く場合、労働基準法により本業と副業の労働時間を合わせて数えます。合計が1日8時間・週40時間を超えると、その部分は時間外労働になります。

一方、フリーランスや起業、顧問として働く時間は通算しません。どちらの働き方かで、会社の管理の手間が大きく変わります。届出の段階で必ず確かめます。

手間を減らす方法として、ガイドラインは「管理モデル」を示しています。本業の残業と副業の労働時間の合計を、単月100時間未満・複数月平均80時間以内で事前に割り振る方法です。健康診断などの義務は、副業の有無にかかわらず変わりません。

労災保険の扱いも変わっています。2020年の法改正で、副業をする人の労災保険給付は、すべての勤務先の賃金を合計して計算することになりました。厚生労働省のパンフレットによると、休業4日目からは給付基礎日額の80%相当額が支給されます。本業と副業の間の移動中の事故も、通勤災害の対象です。

相談で避けたい言い方と、伝え方

副業の相談には、収入の不安やキャリアの悩みが隠れていることがあります。頭ごなしに断ると、本人は黙って副業を始めるかもしれません。会社が把握できない副業ほど、時間の管理も秘密の管理も難しくなります。

副業の相談で避けたい言い方と伝え方。副業は禁止だから無理、は、まず内容を聞かせて、へ。本業に集中してほしい、は、時間の見込みを確認しよう、へ。勝手にやったら処分だ、は、届出の手順はこれです、へ。なぜ副業したいの、は、断るなら理由を伝える、へ。
図2|副業の相談で避けたい言い方と、伝え方

理由を根掘り葉掘り聞く必要はありません。確かめるのは、表1の4つに当たるかどうかです。断る場合は、どの場合に当たるのかを言葉にして伝えます。断り方の基本は角を立てない断り方でも扱っています。

AIに頼むこと、頼まないこと

AIに向くのは、文面の下書きと整理です。就業規則の条文を、社員向けの短い説明に書き直す作業は得意です。届出書の項目案や、認める場合・条件を付ける場合の返事のたたき台も作れます。

一方、認めるかどうかを決めるのは会社です。AIは自社の就業規則も、副業先の実情も知りません。法律の一般論で「問題ありません」と書くことがあるので、結論は人が出します。

便利なのは、条件付きで認めるときの文面です。たとえば「平日は午後10時まで」「当社の顧客には営業しない」といった条件を、角の立たない言い回しで、漏れなく書き出す作業はAIの得意分野です。条件の中身は、人が表1と照らして決めます。

入力する情報にも線を引きます。社員の名前、副業先の会社名、収入額は、AIに貼り付けません。「同業の小売店で週末に販売」のように、ぼかして伝えれば十分です。詳しくはAIに入力してはいけない情報一覧にまとめています。

相談から返事までの4歩

副業の相談から返事までの4歩。1.相談の内容を聞く(勤務先・業務・時間を確認)。2.4つの場合に当たるか見る(支障・秘密・競業・信用)。3.AIで返事の下書きを作る(名前や勤務先名は入れない)。4.書面で返して記録する(時間の申告方法も決める)。
図3|副業の相談から返事までの4歩

手順1では、その場で結論を出さず、届出書を渡して内容を書いてもらいます。手順2で、表1の4つに当たるかを責任者が確かめます。

手順3で、AIに返事の下書きを作らせます。手順4では、結論と条件を書面で返し、雇われる副業なら労働時間の申告方法も決めておきます。就業規則の見直しはAI時代の就業規則の見直しが参考になります。

そのまま使える返事のプロンプト

平時に一度作っておけば、相談のたびに条件を書き換えるだけで使えます。角かっこの中は書き換えます。

あなたは、中小企業の総務担当を手伝う文章の専門家です。社員から受けた副業の相談に、会社として返事をする文面の下書きを作ります。 1. 最初に、相談してくれたことへの感謝を一文で伝えてください。 2. 会社の結論(認める/条件付きで認める/認めない)を、次のメモのとおりに書いてください。 3. 条件や認めない理由は、就業規則のどの場合に当たるかを添えて短く書いてください。 4. 最後に、届出の手順と、副業の時間を申告する方法を書いてください。 条件:メモにない事実は書かず[要確認]とする。相談したことを責める表現は使わない。一文を短くする。 会社の結論と理由のメモ:[ここに書く] 副業の概要(名前や会社名は書かない):[例:同業ではない飲食店で、土曜の昼に接客]

条件の「相談したことを責める表現は使わない」が要点です。不利益な扱いと受け取られる言い回しを、下書きの段階で防げます。仕上がった文面は、必ず責任者が就業規則と照らしてから送ります。

よくある質問(Q&A)

うちは就業規則で副業禁止なんだけど、社員の副業を断っていいの?

禁止と書いてあっても、無条件に断れるわけではありません。本業への支障・秘密の漏えい・競業・信用の毀損の4つに当たるかを確かめ、当たらなければ認める方向で就業規則を見直します。

副業の返事の文章をChatGPTに作らせても大丈夫?

下書きに使うのは問題ありません。社員の名前や副業先の会社名は入れず、結論は人が決めます。AIは自社の就業規則を知らない点に注意します。

社員が副業でアルバイトしたら、残業代はどっちの会社が払うの?

雇われる副業なら、本業と副業の労働時間を合わせて数えます。法定時間を超えた部分のうち、自社で働かせた時間の割増賃金を各社が払います。数える順番には決まりがあるので、個別の判断は労働基準監督署に相談してください。

まとめ

  • 副業の相談は原則認める方向で考え、断れるのは4つの場合だけ。相談したことで不利益に扱えない。
  • 副業がある人は305万人、したい人は493万人。届出の仕組みと返事の型を先に用意する。
  • 返事の文面はAIで下書きし、名前や会社名は入れず、結論は人が決める。

副業の相談は、ある日の帰り際に届きます。その場で慌てないために、今週のうちに届出書の様式を決め、AIで返事のたたき台を作っておいてください。最初の返事が、社員の会社への信頼を左右します。

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著者情報

AutoAIPlatform編集部 / 中小企業向けAI業務教育メディア

中小企業の経営者、管理職、総務、人事、営業、研修担当者が、AIを安全に仕事へ取り入れるための教育記事を作成しています。AIの操作だけでなく、業務設計・社内ルール・人による確認を重視します。