働く人の5人に1人がパワハラを経験

厚生労働省の「職場のハラスメントに関する実態調査報告書(令和5年度・概要版)」は、20〜64歳の働く人8,000人に聞いた調査です。過去3年に勤務先でパワハラを受けた人は19.3%でした。

過去3年に勤務先で受けたハラスメントの割合。パワハラ19.3%、顧客等からの著しい迷惑行為10.8%、セクハラ6.3%。厚生労働省 令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査(n=8,000)。
図1|過去3年に受けたハラスメント(厚生労働省 令和5年度調査)

顧客等からの迷惑行為の10.8%、セクハラの6.3%と比べても、パワハラが最も多い結果です。会社側の調査でも、過去3年にパワハラの相談があった企業は64.2%にのぼります。業種別では建設業が26.8%で最も高くなりました。

中身で最も多いのは、脅迫・侮辱・ひどい暴言などの「精神的な攻撃」で48.5%です。次が「過大な要求」の38.8%でした。殴るなどの行為より、言葉によるものが中心だと分かります。

「指導」と「パワハラ」を分ける3つの要素

パワハラの定義は、厚生労働省の「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(パワハラ指針)が定めています。次の3つをすべて満たすものです。

①優越的な関係を背景とした言動であること。②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであること。③働く人の就業環境が害されること。上司と部下の関係は、多くの場合①に当たります。

そのうえで指針は、「適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しない」と明記しています。注意そのものは上司の仕事です。問われるのは、②の「必要かつ相当」を超えていないかです。

パワハラ防止の措置は、2022年4月から中小企業を含む全企業の義務です。相談窓口を置くことや、方針を社内に知らせることが含まれます。

該当する例・しない例を言葉で比べる

指針は、6つの類型ごとに該当する例・しない例を挙げています。言葉にかかわるものを抜き出すと、次のとおりです。

表1|パワハラ指針の例(言葉にかかわる類型)
類型該当すると考えられる例該当しないと考えられる例
精神的な攻撃人格を否定する言動。必要以上に長い叱責の繰り返し再三注意しても遅刻が直らない人に、一定程度強く注意する
精神的な攻撃能力を否定し罵倒するメールを、本人を含む複数人に送る重大な問題行動に、一定程度強く注意する
過大な要求教育をせずに到底できない目標を課し、厳しく叱責する育成のため、今より少し高いレベルの仕事を任せる
個の侵害病歴などを本人の了解なく他の社員に話す配慮のために家族の状況などを聞く

表の右側にあるとおり、強めに注意すること自体は禁止されていません。左側との違いは、人格に向かっているか、行動に向かっているかです。注意の対象を「人」から「行動」に移すことが、言葉選びの出発点になります。

メールとチャットの注意は、記録に残る

表1の2行目は、書いた言葉の例です。罵倒するメールを本人を含む複数人に送ることが、該当例に挙がっています。社内チャットのグループに注意を書き込むのも、同じ形になりやすい行為です。

口頭の注意はその場で終わりますが、文字は何度も読み返されます。送った側が忘れても、受け取った側には残ります。そのぶん、言葉選びの失敗が大きくなります。

一方で、文字にできるのは利点でもあります。送る前に読み直し、直す時間があるからです。感情が高ぶったまま話すより、いったん書いて整えるほうが失敗は減ります。AIが役に立つのは、この「送る前」の場面です。

人を責める言葉と、行動を伝える言葉

注意の文は、事実・影響・次の行動の3つで書くと、人格に触れずに済みます。何が起きたか、それで何が困ったか、次はどうしてほしいかです。

注意の言葉の比べ方。人を責める言葉から行動を伝える言葉へ。何回言えば分かるの、は締切を2回過ぎています、へ。やる気あるの、は次は前日に一報がほしい、へ。全員宛てで指摘する、は本人だけに送る、へ。向いてないと思う、は手順のここを直そう、へ。
図2|人を責める言葉と、行動を伝える言葉

「何回言えば分かるの」は、相手の理解力を責める言葉です。「今月、締切を2回過ぎています」と事実に置き換えると、同じ注意でも受け止め方が変わります。

「やる気あるの?」は気持ちを問う言葉で、答えようがありません。「次は遅れそうなら前日に一報がほしい」と行動で頼めば、相手は何を直せばよいか分かります。

AIに頼むこと、頼まないこと

AIが得意なのは、きつい言葉を落ち着いた言葉に言い換えることです。書いた下書きを貼り、「人格を否定する表現を、行動を伝える表現に直して」と頼めます。自分では気づかない強い言い回しも見つけてくれます。

ただし、注意するかどうか、どこまで強く言うかは上司が決めます。AIは事情を知らないので、注意の中身までは判断できません。AIに「やわらかく」と頼みすぎて、伝えるべき点がぼやけることもあります。

入力する情報にも気をつけます。部下の名前や健康状態は入れず、「社員A」として頼みます。表1の「個の侵害」にあたる情報を外に出さないためです。入れてはいけない情報はAIに入力してはいけない情報一覧にまとめています。

注意の文を送る前の4歩

注意の文を送る前の4歩。1.事実をメモに書き出す(日時と起きたことだけ)。2.AIで言葉を整える(名前は伏せて頼む)。3.人が読み返して直す(送る相手と宛先を確認)。4.短く話して確かめる(文だけで終わらせない)。
図3|注意の文を送る前の4歩

手順1では、日時と起きたことだけをメモにします。「いつも」「毎回」は使わず、回数を数えます。手順2で、そのメモを材料にAIに文を整えさせます。

手順3では、上司が自分で読み返します。宛先が本人だけになっているかも必ず見ます。手順4では、文を送ったあと短く話す時間をとります。文字だけで終わらせず、相手の事情を聞くことで、注意が対話に変わります。言いにくい話の進め方は「言いにくいこと」をAIに書かせる前にも参考になります。

そのまま使える言い換えのプロンプト

手順1のメモと、自分で書いた下書きを一緒に貼り付けてください。角かっこの中は書き換えます。

あなたは、中小企業の管理職を手伝う文章の専門家です。部下の社員Aに、仕事上の注意をメッセージで伝えます。 1. 下書きを「事実・影響・次にしてほしい行動」の3つに分けて書き直してください。 2. 人格・能力・やる気を責める表現があれば、すべて抜き出して理由を書いてください。 3. 「いつも」「毎回」などの言葉は、メモにある回数に置き換えてください。 条件:伝えるべき点はぼかさない。200字以内。最後に「直接話す時間をとりたい」と添える。 事実のメモ:[ここに貼る] 自分の下書き:[ここに貼る]

2の「抜き出して理由を書く」が要点です。直された文だけでなく、自分の癖を知ることができます。AIの文章の確かめ方はAIで作った文章を人間が直すべき3つのポイントにまとめています。

言われた側の4割近くは、何もしていない

前出の調査では、パワハラを受けた後に「何もしなかった」人が36.9%で最も多くなりました。上司が問題に気づかないまま、職場を離れる人もいるということです。

同じ調査では、勤務先が防止に「積極的に取り組んでいる」と答えた人の経験率は15.2%でした。「あまり取り組んでいない」では35.1%で、差は2倍を超えます。注意の文の型を社内で共有することも、取り組みの1つになります。

こじれた場合の相談先もあります。厚生労働省の「令和7年度個別労働紛争解決制度の施行状況」では、総合労働相談は119万8,010件でした。「いじめ・嫌がらせ」の相談は55,614件で、14年連続で最多です。なお、法律上のパワハラの相談はこの数とは別に集計されています。

よくある質問(Q&A)

部下を強めに注意したら、それだけでパワハラになりますか?

なりません。パワハラ指針は、遅刻を再三注意しても直らない人に一定程度強く注意することを「該当しない例」に挙げています。人格を否定する言葉や、長い叱責の繰り返しにならないよう気をつけます。

注意のメッセージをChatGPTで書き直してもいいですか?

言葉を整える下書きに使うのは問題ありません。部下の名前や健康の情報は入れず、注意するかどうかと中身は上司が決めます。送る前に宛先が本人だけかも確かめます。

社員10人の会社でも、パワハラ対策はしないといけませんか?

はい。2022年4月から、規模にかかわらず全企業に防止措置が義務づけられています。方針を社内に知らせることと、相談を受ける窓口を決めることから始めます。

まとめ

  • 過去3年にパワハラを受けた人は19.3%。最も多いのは「ひどい暴言など」の48.5%で、言葉によるものが中心(厚生労働省 令和5年度調査)。
  • 必要で相当な範囲の注意や指導は、パワハラに当たらない。注意の対象を「人」から「行動」に移す。
  • 注意の文は事実・影響・次の行動で書き、AIで言葉を整え、宛先と中身は上司が確かめる。

次に部下へ注意のメッセージを送るとき、送信ボタンの前に一度だけAIに読ませてみてください。強すぎる一言に気づけたら、それだけで職場の空気は変わります。

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著者情報

AutoAIPlatform編集部 / 中小企業向けAI業務教育メディア

中小企業の経営者、管理職、総務、人事、営業、研修担当者が、AIを安全に仕事へ取り入れるための教育記事を作成しています。AIの操作だけでなく、業務設計・社内ルール・人による確認を重視します。